稲荷詣で

斐川 帙

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四、二人連れの女性

(十七)

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「現在は、お父様は、駿河守ということなのですか?」
 芳野は、会話をつなぐために、彼女等の設定に乗っかって質問を続けた。あきおぎが姉に変わって対応した。
「そうです。ただ、国の方には目代もくだいを下らせて、猪隈いのくまのお屋敷にいらっしゃいます。」
「では、稲荷詣でが終われば、今日は、その猪隈のお屋敷にお戻りになられるということですね。」
「そうですね。山の麓に車を用意しておりますので。」
 車と言うのはタクシーのことか?それとも、彼女等が自ら運転して帰るということか?
「猪隈の御屋敷には、あなた方姉妹とご両親の四人家族でお住まいになられているのですか?」
 あきおぎは「いえ」と首を振って、
「先月、六条院の辺りに火の事があって、一の姫君のお屋敷にも火がかかりまして、今、ご夫婦が西のたいに住まわれております。手狭になって、新しくお屋敷をお探しになっているところです。」
 どうも、この子の話し方は主語の省略が多くて、いまいち、状況が明瞭にならない。「一の姫君」と「ご夫婦」の関係もよくわからないが、文脈からして一の姫君の屋敷に住んでいるご夫婦ということなのだろうから、「一の姫君のところのご夫婦も同居なさっておられるのですか。賑やかなことですね。」と、判然としないまま、相槌を打った。
「賑やかと言うほどのことではありませんが、人声ひとごえも増え、寂しいことはございません。東に対の屋を増やそうか、別に屋敷を求めようかと案ぜられておられますが、別に買い得ることにして、探しておられます。一の姫君は二の姫君の五つ年上で、左衛門督さえもんのかみ様を婿取られていらしゃいます。夜離よがれもなく、仲睦まじく。西の対に住まわれるようになってからも、御仲はお変わりなく過ごされておられます。二の姫君は、元は近衛院このえのいん中宮ちゅうぐう、今は皇太后こうたいごうの宮ですが、参上しておりまして、御髪おぐしを下ろさせなさった折に里下がりとなりまして、この年の如月にさき齋院さいいんの宮、院号宣下せんげがございました折、お召しがありまして、弥生の頃より、参上なさっておられます。今日は、数日の里居さといにて、夢に稲荷の大明神のお告げあって、おやしろに参ったことでございます。」
 あきおぎの話はとどまる気配がなく、例によって、話が明瞭でないため、芳野にはよく理解できない部分も多々あったが、到頭、小声で「控えなさい。」と、姉に再び制止される羽目になった。あきおぎは、バツが悪そうに視線を落とした。
 ただ、あきおぎが興に乗ってしゃべり続ける間、知らず知らずのうちに顔を芳野に向けて喋っていた。そのせいで、芳野は、あきおぎが、顔を白粉でまっしろに塗っていて、眉は抜いて引き眉を描き、時折、見せる歯が黒く染められていることに気づいた。平安女性が眉をいていたというのは知っていたが、お歯黒をしていることは知らなかった。いや、でも、この人たちは、コスプレでやっているのだから、平安女性が歯を黒く染めていたかどうか、本当のところはわからない。だが、やはり、相当、凝った変な人たちだと言うことは間違いなかった。
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