54 / 155
五、深草別業
(九)
しおりを挟む
芳野は、これまでの会話を聞きながら、正面に座る二人は左が伏見源中納言、右が右衛門督、更に几帳の向こうにはあさつゆとあきおぎが控えているのがわかった。すると、左に控えている恰幅のいい六十代と思しき男は、一体誰だろう。座っている場所や振る舞いから見て、正面の二人よりは、身分の低い人物のように見える。
ちなみに、右衛門督は藤原信頼、伏見源中納言は源師仲のことである。もちろん、芳野は彼らの名前もどういう人物なのかも知らない。
また、少しの沈黙が訪れた。すると、伏見源中納言が、その恰幅の良い六十代と思しき男に「江州、そろそろ。」と声を掛けた。それで事を理解したのか、男は、芳野に向かって、小声で「これよりは、ご遠慮願いたい。」と言った。芳野は、出ていけということかと理解して、そっと立ち上がって、リュックを手に取ると、簾より外へ出た。やっと解放されたと、芳野はほっとした。芳野にとって、今の時間は、あまり心地いい時間ではなかった。
簾の外には、ここまで案内してくれた男が待っていた。「こちらへ、どうぞ。」と言うと、「遠回りになり申し訳ないが。」と前置きをして、寝殿の簀子を西に向かい、中門廊を通り抜けて西の対の簀子に出ると、西の対の周囲を巡るようにして、西の対の北面の簀子まで歩き、そのまままっすぐ進んで、北の対の西庇に妻戸を開けて入った。ここまで案内すると、男は、「南庇にお控えください。」と言って、帰ろうとしたので、芳野は呼び止めて、「南庇って、どこですか?」と尋ねると、男は、「こちらを進んで、すぐに左に行って、中央辺りに。」と言って、出て行った。芳野は、男の言う通りに進んで、南庇の中央にリュックを置いて、北向きに腰を下ろした。母屋には簾が垂れていた。簾の向こうに人の気配があった。
ちなみに、右衛門督は藤原信頼、伏見源中納言は源師仲のことである。もちろん、芳野は彼らの名前もどういう人物なのかも知らない。
また、少しの沈黙が訪れた。すると、伏見源中納言が、その恰幅の良い六十代と思しき男に「江州、そろそろ。」と声を掛けた。それで事を理解したのか、男は、芳野に向かって、小声で「これよりは、ご遠慮願いたい。」と言った。芳野は、出ていけということかと理解して、そっと立ち上がって、リュックを手に取ると、簾より外へ出た。やっと解放されたと、芳野はほっとした。芳野にとって、今の時間は、あまり心地いい時間ではなかった。
簾の外には、ここまで案内してくれた男が待っていた。「こちらへ、どうぞ。」と言うと、「遠回りになり申し訳ないが。」と前置きをして、寝殿の簀子を西に向かい、中門廊を通り抜けて西の対の簀子に出ると、西の対の周囲を巡るようにして、西の対の北面の簀子まで歩き、そのまままっすぐ進んで、北の対の西庇に妻戸を開けて入った。ここまで案内すると、男は、「南庇にお控えください。」と言って、帰ろうとしたので、芳野は呼び止めて、「南庇って、どこですか?」と尋ねると、男は、「こちらを進んで、すぐに左に行って、中央辺りに。」と言って、出て行った。芳野は、男の言う通りに進んで、南庇の中央にリュックを置いて、北向きに腰を下ろした。母屋には簾が垂れていた。簾の向こうに人の気配があった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる