稲荷詣で

斐川 帙

文字の大きさ
68 / 155
六、猪隈殿

(六)

しおりを挟む
 さて、その七年後の久寿きゅうじゅ三年(一一五六)一月七日、後白河天皇が方違かたたがえを行うことになり、山槐記の記述に従えば、行幸先に選ばれたのは、法住寺入道中納言の東堂であった。東山堂を建立したとき太宰大弐だった清隆は、久寿二年(一一五五)に権中納言で出家しているので、この法住寺入道中納言の東堂は、大弐清隆の建てた東山堂のことであろう。ちなみに兵範記では、中納言入道の法住寺堂と書かれているが、同じ寺のことを指しているものと思われる。
 さて、方違えの行幸先が法住寺東堂に決まった理由であるが、関白忠通が、陰陽頭おんみょうのかみ憲栄のりひでを召して、方違えの行幸先を選定している間、鳥羽院が、自身の御祈願の寺であるからと、法住寺東堂を行幸先に推したのが、大きな理由であったようである。

 この方違え行幸に関しては、当時、内裏であった高松殿から、東山堂までの行幸の経路が、山槐記に記述されている。その経路とは、このようなものだ。

 高松殿の右衛門の陣路から西洞院にしのとういん大路を南に行き、三条大路を東に行き、東洞院ひがしのとういん大路を南に行き、八条大路を東に行き河原に出て、河原を斜めに北に折れてうしとら(北東)へ向かい、八条坊門末の堂の西門へ入る。門より御所に至る間に池があり、池の上に十じょうの浮橋を構えて、御輿みこしの道となして、堂の東廊(三間廊)に御輿を寄せる。

 右衛門の陣とは、右衛門府管轄の諸門を警護する官人たちの詰め所のことで、内裏の外郭の西側中央にある宜秋門ぎしゅうもんの脇にあった。ただ、この当時には、内裏は焼失して、高松殿を里内裏としていたが、この高松殿でも、その西側中央の門の辺りに、右衛門の陣を設置してあったのであろう。高松殿は、西は西洞院大路に面していたので、その西門から出て、西洞院大路を南下したと言うことである。そして、南に東にとじぐざぐに進みながら、八条大路に入ると東に進んで、鴨川の河原を北東に進み、八条坊門小路の辺りで鴨川を渡る。渡った先を更に東に進んで、法住寺東堂の西門から入ったと言う経路である。
 この経路では、なぜか、途中、じぐざぐに進んでいるが、本来は、西洞院大路を南下して、三条大路で東に進み、東京極大路ひがしきょうごくおおじにつき当たったところで南下して河原に出て鴨川を渡り、八条坊門末から東堂に入るという経路であった。では、なぜ、この経路の途中がじぐざぐに曲がるように変更されたかと言えば、この前々日の五日に枇杷殿前齋院(禛子内親王)が七条末の御堂で薨去されたため、触穢しょくえを避けるために、御堂の御門が視界に入らないような経路に急遽変更されたと言うことである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...