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六、猪隈殿
(十)
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ここに案内してきた男は、芳野を建物の中に導き、机の脇を通り過ぎて、武者たちのいるところの手前で止まると、左の一間四方の間を指して、「こちらで暫くの間、お待ちください。」と言って、去って行った。
芳野は、とりあえず、そこに腰を下ろすと、周囲を見回した。ここには棚も机もなく、ただ、がらんとした空間になっていた。横は障子があって閉まっており、向こう側にいる武者たちの姿は見えなかったが、雑談をする声は聞こえていた。
暫くすると、直垂姿の男が高折敷を捧げ持ってやって来た。
「朝の御膳になります。」
そう言うと食事が乗った高折敷を芳野の前に置いて去って行った。
「御膳」と聞いて、ふと、今日は早朝に粥を口にした以外は何も食事を摂っていないことに気づいた。気づいてみると、急に空腹感を覚えてきた。
高折敷の上に載っている物は、近江守邸で出された食事と大差なかったが、ここでは箸は高盛りに盛られた固粥の上に斜めに刺して提供されていた。葬式で故人の枕元に置く一膳飯と同じ作法でびっくりしたが、芳野は、なぜ、こんなことをしてきたのか意図がわからなくて困惑した。しかし、ここに食事を持って来た男はとっくにいなくなっていたので、聞く相手もなく、もやもやした感情を抱えながら、食事を取ることにした。
縁起の悪いことに遭遇して、気持ちが少し凹んだものの、気を取り直して周囲を見ると、机の前に座って事務をしていた男たちも机の前から離れて座り、折敷を前にして食事を取っていた。彼らのご飯も芳野と同様、高盛りに盛られたご飯の上に斜めに箸が刺さっていた。もしかしたら、この作法は、この屋敷では普通のことなのかもしれないと芳野は思い直して、多少、気は紛れたが、やはり、気持ち悪い感じは残っていた。
芳野は、とりあえず、そこに腰を下ろすと、周囲を見回した。ここには棚も机もなく、ただ、がらんとした空間になっていた。横は障子があって閉まっており、向こう側にいる武者たちの姿は見えなかったが、雑談をする声は聞こえていた。
暫くすると、直垂姿の男が高折敷を捧げ持ってやって来た。
「朝の御膳になります。」
そう言うと食事が乗った高折敷を芳野の前に置いて去って行った。
「御膳」と聞いて、ふと、今日は早朝に粥を口にした以外は何も食事を摂っていないことに気づいた。気づいてみると、急に空腹感を覚えてきた。
高折敷の上に載っている物は、近江守邸で出された食事と大差なかったが、ここでは箸は高盛りに盛られた固粥の上に斜めに刺して提供されていた。葬式で故人の枕元に置く一膳飯と同じ作法でびっくりしたが、芳野は、なぜ、こんなことをしてきたのか意図がわからなくて困惑した。しかし、ここに食事を持って来た男はとっくにいなくなっていたので、聞く相手もなく、もやもやした感情を抱えながら、食事を取ることにした。
縁起の悪いことに遭遇して、気持ちが少し凹んだものの、気を取り直して周囲を見ると、机の前に座って事務をしていた男たちも机の前から離れて座り、折敷を前にして食事を取っていた。彼らのご飯も芳野と同様、高盛りに盛られたご飯の上に斜めに箸が刺さっていた。もしかしたら、この作法は、この屋敷では普通のことなのかもしれないと芳野は思い直して、多少、気は紛れたが、やはり、気持ち悪い感じは残っていた。
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