稲荷詣で

斐川 帙

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六、猪隈殿

(十九)

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 また、少納言入道は「この度の新制」の起草にも深く関わっていたとされている。「この度の新制」とは、保元の乱から三カ月ほど経った保元元年(一一五六)閏九月十八日に下された七箇条の宣旨せんじと、保元二年(一一五七)十月八日に下された三十五箇条の宣旨のことである。これらは、後に「保元の新制」と呼ばれるようになった。

 保元元年の宣旨は、兵範記の閏九月十八日の記事に全文が掲載されていて内容は判明しており、概要をまとめるとこんな感じになる。

・社寺院宮諸家の荘園のうち、久寿二年(一一五五)七月二十四日(後白河天皇践祚)以降に宣旨なく立荘した荘園を廃止
・社寺院宮諸家が、荘園として認可されている土地以外の田畑を耕作して荘園に組み入れること并びに荘民の乱行らんぎょうの禁止
・神人、悪僧、寺社による乱行らんぎょうの禁止(対象は、伊勢の神宮、石清水いわしみず八幡宮、賀茂神社〔賀茂別雷かもわけいかづち神社・賀茂御祖かものみおや神社〕、春日かすが大社、住吉大社、日吉ひよし大社、祇園ぎおん社〔八坂神社〕、興福寺、延暦えんりゃく寺、園城おんじょう寺、熊野山〔熊野三山のことで今は神社だけだが当時は阿弥陀の浄土と見なされ霊場として多くの僧がいた〕、金峯山きんぷせん寺、以上の十二の寺社)
・神領並びに神事の用途の報告(対象は、伊勢の神宮、石清水八幡宮、賀茂神社〔賀茂別雷かもわけいかづち神社・賀茂御祖かものみおや神社〕、松尾大社、平野神社、伏見稲荷大社、春日大社、大原野神社、大神おおみわ神社、石上いそのかみ神宮、大和おおやまと神社、広瀬大社、竜田大社、住吉大社、日吉大社、梅宮大社、吉田神社、広田神社、祇園ぎおん社〔八坂神社〕、北野天満宮、丹生川上にうかわかみ神社〔上社・中社・下社〕、貴船きふね〔貴布禰〕神社、以上の二十二社)
・寺領並びに仏事の用途の報告(対象は、東大寺、興福寺、元興がんごう寺、大安寺、薬師寺、西大寺、法隆寺、延暦えんりゃく寺、園城おんじょう寺、天王寺、以上の十の寺院)

 社寺院宮諸家とは神社、寺院、院、女院、三后(皇后、皇太后など)、春宮、皇后、摂関家などのことを指す。乱行とは「無法な行為」と言う意味で、宣旨の本文では乱行の具体的な内容(例えば、荘民の乱行として、公田くでん押領おうりょう官物かんもつ対捍たいかんなど)が列挙されているが煩雑になるので、ここでは省略する。
 この宣旨は保元の荘園整理令とも呼ばれたりするが、荘園整理は七箇条のうち二箇条のみで、全体で見ると荘園整理と社寺への規制の二つが柱になっている。つまり、社寺院宮諸家の縦恣を規制して、朝廷による統制を強化するのが目的の新制と言える。このことは、最初の条文に書かれている「九州の地は一人の有なり。王命のほか、何ぞ私威を施さん。」という有名な文言が端的に表象している。ちなみに、この場合の「九州」は日本全土のことを指し、「一人」とは天皇のことを指す。
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