稲荷詣で

斐川 帙

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六、猪隈殿

(十八)

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 後白河院から二条院への譲位は保元三年(一一五八)の師走に行われたが、譲位の儀を進めたのは後白河院ではなく美福門院と少納言信西だったという記録が残っている。兵範記の保元三年(一一五八)八月四日の記事によると、こう書かれている。
 「頭右兵衛督とうのうひょうえのかみ中使ちゅうしとして参上し、御對面ごたいめんあり。御譲位の間の事と云々うんぬん。近日、にわかに、その儀、出來しゅったいするか。唯、ほとけと佛が評定し、餘人よじん、沙汰に及ばざるか。」
 兵範記は、摂関家の家司けいし信範のぶのりの日記なので、頭右兵衛督(藤原惟方これかた)が参上したのは関白忠通邸(高松殿)であり、「御対面」の相手は関白忠通である。
 頭右兵衛督とは蔵人頭くろうどのとう右兵衛督うひょうえのかみを兼任している者のことを言う。中使とは宮中からの使者のことを言う。

 この記事の内容は、保元三年(一一五八)八月八日、蔵人頭惟方が、宮中からの使者として高松殿に参上し、当時は関白だった忠通に対して、御譲位の儀が決まったことを伝えたというものである。忠通は関白でありながら、御譲位のことに関わることなく蚊帳かやの外に置かれ、決まってから結果を伝えられた形になった。
 そして、春宮とうぐう守仁もりひとへの譲位は、この七日後の八月十一日に行われ、同時に忠通は関白を辞した。
 そして、この記事では、この御譲位の儀は仏と仏の二人だけの評定で決まったと書かれている。この「仏」と「仏」とは美福門院と少納言入道信西を指すとされている。「仏」と書かれているのは、美福門院は保元元年六月に落飾しており、少納言入道と合わせて両者とも出家者であったことに因る。
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