96 / 155
六、猪隈殿
(三十四)
しおりを挟む
芳野は、食事を取ったが、やはり今回の食事も素材の味だけで全く味付けはされておらず、添えられた調味料で自分で味付けして食べるようになっていた。このような食事が三回も続くと、さすがの芳野も、これがここでの「普通」なんだと理解した。
今度はゆっくりと時間をかけて食べ終えると、高折敷を部屋の外に出して、しばらく格子の壁に寄り掛かって休んでいた。しかし、じっとしていると段々寒さを感じてきたので、部屋の隅に片づけてあった褥を敷いて、寝転がると衾をかけた。天井のない屋根裏をぼんやりと眺めて微睡んでいると、食欲が満たされたせいか、再び、睡魔が意識に浸潤してきて、そのまま熟睡してしまった。
すごく心地の良い眠りの水の中に落ちて行った。
深い森の奥を彷徨っているようだった。
ふと、赤い鳥居が目についた。
鳥居をくぐって、山の中をくねくねと曲がる参道を上って行くと、古ぼけた木造の小さな社が建っていた。あまり手がかけられていないのか、ぼろぼろで、壁板や柱は朽ちかけていて、今にも崩れ落ちそうだった。
芳野は、二拍手をして、拝礼すると、元来た道に戻ろうとして、社前から離れた。
「わんわん」と犬の吠える声が、背後の遠くの方で聞こえた気がした。こんな山の中に犬がいるとは、野犬だろうか。野犬だったら、近くにいたら危険かもしれないと思い、振り返って周囲を見回したが、動物の影は見当たらなかった。しかし、どこかに隠れているかもしれないので、ここから早く離れた方がいいと思い、急いで鳥居の外に出ようと思ったが、今度は「くおん、くおん」という鳴き声が聞こえた。聞き覚えのない鳴き声だったので、どんな動物が近くにいるのか見当がつかず、どうしていいかわからなくて、しばし、その場に立ち尽くしていた。
ふと、何かの気配を感じて振り返って社を見ると、閉じた扉の前に一頭の白い狐がこちらを向いて座っていた。
さっきの犬の咆哮は、この狐が吠えた声だったのかと訝ったが、狐がわんわん吠えると言うことを知らなかった芳野には俄かに信じがたい事であった。この狐の他にもまだ犬がどこかに潜んでいるのかと芳野は不安に苛まれた。
芳野は、目の前に鎮座している白狐を凝視した。
白狐には芳野を攻撃してくる素振りは見えなかった。それどころか、この白狐には、何の感情も窺えなかった。存在感が欠落した表情でこちらを見ているように思えた。そして、なぜか笑っているような気がした。
芳野は吸い込まれるように白狐を見つめていたが、だんだんと怖くなってきた。恐怖心が理由もなく募ってきて、その場をすぐに離れたかったが、体は金縛りに遭ったように動かなかった。
心は焦るのに、それをあざ笑うかの如く、体は微動だにしなかった。
今度はゆっくりと時間をかけて食べ終えると、高折敷を部屋の外に出して、しばらく格子の壁に寄り掛かって休んでいた。しかし、じっとしていると段々寒さを感じてきたので、部屋の隅に片づけてあった褥を敷いて、寝転がると衾をかけた。天井のない屋根裏をぼんやりと眺めて微睡んでいると、食欲が満たされたせいか、再び、睡魔が意識に浸潤してきて、そのまま熟睡してしまった。
すごく心地の良い眠りの水の中に落ちて行った。
深い森の奥を彷徨っているようだった。
ふと、赤い鳥居が目についた。
鳥居をくぐって、山の中をくねくねと曲がる参道を上って行くと、古ぼけた木造の小さな社が建っていた。あまり手がかけられていないのか、ぼろぼろで、壁板や柱は朽ちかけていて、今にも崩れ落ちそうだった。
芳野は、二拍手をして、拝礼すると、元来た道に戻ろうとして、社前から離れた。
「わんわん」と犬の吠える声が、背後の遠くの方で聞こえた気がした。こんな山の中に犬がいるとは、野犬だろうか。野犬だったら、近くにいたら危険かもしれないと思い、振り返って周囲を見回したが、動物の影は見当たらなかった。しかし、どこかに隠れているかもしれないので、ここから早く離れた方がいいと思い、急いで鳥居の外に出ようと思ったが、今度は「くおん、くおん」という鳴き声が聞こえた。聞き覚えのない鳴き声だったので、どんな動物が近くにいるのか見当がつかず、どうしていいかわからなくて、しばし、その場に立ち尽くしていた。
ふと、何かの気配を感じて振り返って社を見ると、閉じた扉の前に一頭の白い狐がこちらを向いて座っていた。
さっきの犬の咆哮は、この狐が吠えた声だったのかと訝ったが、狐がわんわん吠えると言うことを知らなかった芳野には俄かに信じがたい事であった。この狐の他にもまだ犬がどこかに潜んでいるのかと芳野は不安に苛まれた。
芳野は、目の前に鎮座している白狐を凝視した。
白狐には芳野を攻撃してくる素振りは見えなかった。それどころか、この白狐には、何の感情も窺えなかった。存在感が欠落した表情でこちらを見ているように思えた。そして、なぜか笑っているような気がした。
芳野は吸い込まれるように白狐を見つめていたが、だんだんと怖くなってきた。恐怖心が理由もなく募ってきて、その場をすぐに離れたかったが、体は金縛りに遭ったように動かなかった。
心は焦るのに、それをあざ笑うかの如く、体は微動だにしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる