106 / 155
七、三条烏丸の御所
(五)
しおりを挟む
それでも、やはり、不安なのか、
「でも、やはり、あさつゆが心配です。武士を何人かつけてやってください。武勇に勝れた者を何人か。」
「いや、御所に武具した者をつけて参上させるわけにはいかん。何事かと騒ぎになるかもしれんし、よからぬ疑念を掛けられて罪に問われてもかなわん。駄目だ。」
駿河守は言下に拒否したのだが、その言い方で機嫌を損ねたのか、
「よからぬ疑いとは、何事でございましょうか?」となおも執拗に食い下がった。
「よからぬ疑い?」と言いかけて、言葉に窮したようで、なかなか次の言葉が出てこなかった。そして、苦し紛れに、
「…謀反とかだ。」と言い放った。これには、
「まあ、大袈裟なこと…。」と呆れ気味に驚きの声を上げると、駿河守はいらいらして来たのか、適当に言い繕ってこの場を切り抜けようとしたのか、
「まあ、それは大袈裟だが、初めて御所にお仕え申し上げるという門出に武具した者を何人もつけていけば何事かと騒ぎになるし、咎める向きも出て来る。月卿雲客の方々の耳に入って不興を買って、大事にでもなったら、どうするつもりだ?どういう沙汰が下るかもわからんぞ。」と突き放すような口調で続けると、簾の奥の女性は、
「では、御所までの道中だけでも。」と諦めなかった。
「御所までと言っても、ここから三条烏丸の御所は至近の距離だ。わざわざ何人も武者をつけてやることもあるまい。」
「御門の前まで、数人の武者を伴うだけなら、そこまで、おかしなことではございませんでしょう。都の大路、小路でも、普段、そのような方々はお見受けすると思いますが。」
「検非違使の一行のことか?あれは、罪人を取り締まるのがお役目だ。洛中警護に丸腰はないだろう。」
「家人が上洛する折、武具して都を歩く人々もおりますが。」
「兵の家の者じゃないのか?賊徒討伐を終えて凱旋の折などは厳めしく武具して洛中を闊歩する者もあるが、それのことか?」
武装して都のうちを行軍する武者たちの事情など、あまり詳しくないので、簾の奥の女性は、言葉に詰まって黙っていた。
「甲冑に身を固めるまではないまでも、兵だちたる者の上洛なら武具するのはおかしいことじゃなかろう。第一、兵の家の家人など、どこで、どんな恨みを買っているかしれん。殺生を生業に生きている連中だ。どこで襲われるかもわからんのに、洛中を丸腰で歩いて、もし不覚でも取ったら、武門の家の名を堕とすことにもなるし、そうなれば功を挙げる機会も得られなくなる。まあ、兵なんてのは、そういう連中だ。」
女性の強い不満を感じさせる沈黙が流れた。沈黙の重苦しさに堪えられなくなったのか、駿河守はついに折れた。
「では、太刀だけ佩かせよう。弓箭は持たせない。それで、御門の前まで供奉させる。それでいいか?」
「それで充分です。何も鎧うてほしいとまでは申しておりません。」
「よし、わかった。幾人かつけてやろう。しかし、兵に堪える者など、今、この屋敷にいるか?。ほとんどの郎等は前の乱戟のあとに郷に帰したぞ。」と考えあぐねる風を見せた後、
「誰か、詰めている者はいるか?」と、簀子に控えていた男に向かって問いかけた。
「でも、やはり、あさつゆが心配です。武士を何人かつけてやってください。武勇に勝れた者を何人か。」
「いや、御所に武具した者をつけて参上させるわけにはいかん。何事かと騒ぎになるかもしれんし、よからぬ疑念を掛けられて罪に問われてもかなわん。駄目だ。」
駿河守は言下に拒否したのだが、その言い方で機嫌を損ねたのか、
「よからぬ疑いとは、何事でございましょうか?」となおも執拗に食い下がった。
「よからぬ疑い?」と言いかけて、言葉に窮したようで、なかなか次の言葉が出てこなかった。そして、苦し紛れに、
「…謀反とかだ。」と言い放った。これには、
「まあ、大袈裟なこと…。」と呆れ気味に驚きの声を上げると、駿河守はいらいらして来たのか、適当に言い繕ってこの場を切り抜けようとしたのか、
「まあ、それは大袈裟だが、初めて御所にお仕え申し上げるという門出に武具した者を何人もつけていけば何事かと騒ぎになるし、咎める向きも出て来る。月卿雲客の方々の耳に入って不興を買って、大事にでもなったら、どうするつもりだ?どういう沙汰が下るかもわからんぞ。」と突き放すような口調で続けると、簾の奥の女性は、
「では、御所までの道中だけでも。」と諦めなかった。
「御所までと言っても、ここから三条烏丸の御所は至近の距離だ。わざわざ何人も武者をつけてやることもあるまい。」
「御門の前まで、数人の武者を伴うだけなら、そこまで、おかしなことではございませんでしょう。都の大路、小路でも、普段、そのような方々はお見受けすると思いますが。」
「検非違使の一行のことか?あれは、罪人を取り締まるのがお役目だ。洛中警護に丸腰はないだろう。」
「家人が上洛する折、武具して都を歩く人々もおりますが。」
「兵の家の者じゃないのか?賊徒討伐を終えて凱旋の折などは厳めしく武具して洛中を闊歩する者もあるが、それのことか?」
武装して都のうちを行軍する武者たちの事情など、あまり詳しくないので、簾の奥の女性は、言葉に詰まって黙っていた。
「甲冑に身を固めるまではないまでも、兵だちたる者の上洛なら武具するのはおかしいことじゃなかろう。第一、兵の家の家人など、どこで、どんな恨みを買っているかしれん。殺生を生業に生きている連中だ。どこで襲われるかもわからんのに、洛中を丸腰で歩いて、もし不覚でも取ったら、武門の家の名を堕とすことにもなるし、そうなれば功を挙げる機会も得られなくなる。まあ、兵なんてのは、そういう連中だ。」
女性の強い不満を感じさせる沈黙が流れた。沈黙の重苦しさに堪えられなくなったのか、駿河守はついに折れた。
「では、太刀だけ佩かせよう。弓箭は持たせない。それで、御門の前まで供奉させる。それでいいか?」
「それで充分です。何も鎧うてほしいとまでは申しておりません。」
「よし、わかった。幾人かつけてやろう。しかし、兵に堪える者など、今、この屋敷にいるか?。ほとんどの郎等は前の乱戟のあとに郷に帰したぞ。」と考えあぐねる風を見せた後、
「誰か、詰めている者はいるか?」と、簀子に控えていた男に向かって問いかけた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる