稲荷詣で

斐川 帙

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七、三条烏丸の御所

(五)

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 それでも、やはり、不安なのか、
「でも、やはり、あさつゆが心配です。武士もののふを何人かつけてやってください。武勇にすぐれた者を何人か。」
「いや、御所に武具もののぐした者をつけて参上させるわけにはいかん。何事かと騒ぎになるかもしれんし、よからぬ疑念を掛けられて罪に問われてもかなわん。駄目だ。」
 駿河守は言下に拒否したのだが、その言い方で機嫌を損ねたのか、
「よからぬ疑いとは、何事でございましょうか?」となおも執拗に食い下がった。
「よからぬ疑い?」と言いかけて、言葉に窮したようで、なかなか次の言葉が出てこなかった。そして、苦し紛れに、
「…謀反とかだ。」と言い放った。これには、
「まあ、大袈裟なこと…。」と呆れ気味に驚きの声を上げると、駿河守はいらいらして来たのか、適当に言い繕ってこの場を切り抜けようとしたのか、
「まあ、それは大袈裟だが、初めて御所にお仕え申し上げるという門出に武具した者を何人もつけていけば何事かと騒ぎになるし、咎める向きも出て来る。月卿雲客げっけいうんかくの方々の耳に入って不興を買って、大事おおごとにでもなったら、どうするつもりだ?どういう沙汰が下るかもわからんぞ。」と突き放すような口調で続けると、簾の奥の女性は、
「では、御所までの道中だけでも。」と諦めなかった。
「御所までと言っても、ここから三条烏丸の御所は至近の距離だ。わざわざ何人も武者をつけてやることもあるまい。」
「御門の前まで、数人の武者を伴うだけなら、そこまで、おかしなことではございませんでしょう。都の大路、小路でも、普段、そのような方々はお見受けすると思いますが。」
「検非違使の一行のことか?あれは、罪人を取り締まるのがお役目だ。洛中警護に丸腰はないだろう。」
家人けにんが上洛する折、武具もののぐして都を歩く人々もおりますが。」
つわものの家の者じゃないのか?賊徒討伐を終えて凱旋の折などはいかめしく武具して洛中を闊歩する者もあるが、それのことか?」
 武装して都のうちを行軍する武者たちの事情など、あまり詳しくないので、簾の奥の女性は、言葉に詰まって黙っていた。
「甲冑に身を固めるまではないまでも、つわものだちたる者の上洛なら武具するのはおかしいことじゃなかろう。第一、つわものの家の家人けにんなど、どこで、どんな恨みを買っているかしれん。殺生せっしょう生業なりわいに生きている連中だ。どこで襲われるかもわからんのに、洛中を丸腰で歩いて、もし不覚でも取ったら、武門の家の名を堕とすことにもなるし、そうなれば功を挙げる機会も得られなくなる。まあ、つわものなんてのは、そういう連中だ。」
 女性の強い不満を感じさせる沈黙が流れた。沈黙の重苦しさに堪えられなくなったのか、駿河守はついに折れた。
「では、太刀だけかせよう。弓箭きゅうせんは持たせない。それで、御門ごもんの前まで供奉ぐぶさせる。それでいいか?」
「それで充分です。何もよろうてほしいとまでは申しておりません。」
「よし、わかった。幾人かつけてやろう。しかし、つわものえる者など、今、この屋敷にいるか?。ほとんどの郎等は前の乱戟らんげきのあとにさとに帰したぞ。」と考えあぐねる風を見せた後、
「誰か、詰めている者はいるか?」と、簀子に控えていた男に向かって問いかけた。
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