稲荷詣で

斐川 帙

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七、三条烏丸の御所

(十七)

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 祇園御霊会とは、毎年七月に八坂神社で行われる祇園祭の前身となる祭礼の事である。

 そもそも御霊会とは、現世に恨みを持って死んでいった怨霊たちの御魂みたまを慰め、たたりをしずめるためにおこなったもので、仏を礼し、経を説き、歌舞、相撲、競馬くらべうま、騎射を奉納したりしていた。当初は民間で行われていたが、日本三代実録の記述に拠れば、貞観五年(八六三)五月二十日、疫病が蔓延し、百姓ひゃくせいたおれていくのを憂えた清和天皇が、勅を下して、神泉苑で御霊会を開催した。これが朝廷が行う御霊会の嚆矢こうしと言われている。
 この時は、左近衛中将藤原基経らの監督の下、諸王、公卿、士大夫が神泉苑に集まり、花や果物を供え、律師彗達に金光名経一部と般若心経六巻を講じさせ、雅楽寮の伶人に演奏させて、みかどに近侍の児童や良家の稚児ちごに舞を舞わせた。また、宣旨が下り、四方の門を開放したので、洛中の、貴賤を問わず多くの者が御霊会を見物した。
 この御霊会で、鎮魂の対象となったのは、早良さわら親王、伊予親王、藤原吉子(伊予親王の母)、藤原仲成、橘逸勢はやなり文室ふんや宮田麻呂の六つの霊座であった。いずれも、謀反の嫌疑を掛けられたり、政争に負けたりなどで非業の死を遂げた者ばかりである。
 その冤魂は現世を彷徨さまよい、災禍を降らす怨霊と思われて、恐れられていた。

 一方、祇園御霊会に関して言えば、貞観じょうがん十一年(八七〇)六月七日に行われたのが祇園御霊会の濫觴らんしょうとされている。祇園社本縁雜録によれば、清和天皇の貞観十一年、天下に疫病が蔓延し、多くの者がたおれた。卜部日良麻呂うらべのひらまろは、勅をうけたまわり、二丈の長さのほこを(国の数と同じ)六十六本建てて、六月七日に御霊会を行った。また、同年六月十四日には洛中の男児及び郊外の百姓ひゃくせいを率いて神輿を神泉苑に送り、祭礼を行った、と書かれている。ただ、このことは国史である日本三代実録には記載されていない。

 その後、円融天皇の天禄元年(九七〇)、毎年六月十四日を御霊会の開催日と決められた。一方、六月七日は御輿迎みこしむかえの日となった。

 ちなみに祇園社とは、八坂神社の旧名である。明治の神仏分離の影響で祇園社は八坂神社と改称し、祭神も牛頭天王ごずてんのう頗梨采女はりさいじょ、八王子から素戔嗚尊すさのおのみこと櫛稲田姫命くしなだひめのみこと八柱御子神やはしらのみこがみに替わった。更に祇園御霊会も祇園祭と呼ばれるようになった。
 祇園社と呼ばれていたのは、牛頭天王が祇園精舎ぎおんしょうじゃの守護神とされていたためである。

 また、日本記略の天延二年(九七四)五月七日の記事には、祇園社は天台別院とされたと書かれている。天台別院とは、比叡山延暦寺直属の寺院と言う意味である。明治の神仏分離以前は、神社は、同時に寺院でもあった。神社と一体化した寺院は神宮寺と呼ばれ、神社を管理・運営する立場であった。
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