稲荷詣で

斐川 帙

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七、三条烏丸の御所

(十六)

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 結局、あきおぎは駿河守の家来の娘で、その娘をあるじの駿河守が養女に迎えたということなのだろうか。
 しかし、これ以上、この話題で引っ張っても、わからないことがどんどん出て来るだけのようにも感じたので、一旦、この話題は打ち切ることにした。芳野は、信直が常識だと思って気にも留めていないことを、自分は知らなさ過ぎているように感じたので、多分、このまま、この話題で会話を続けても、終始、噛み合わないまま、終わると思ったのだ。

「話を戻すんですが、修理さんは、どういう経緯で仕えることになったんでしょうかね?」
「いやあ、よく存じ上げませんね。何しろ、四年前には既におりましたからね。何なら、今度、侍所の古株にでも聞いておきましょうか?」
「いや、態々わざわざ、そこまでしていただかなくとも。」

 信直は喉が渇いたのか、先程の小袖の女性を呼んで、白湯さゆを持って来るよう命じた。しばらくして、木製の碗に白湯が注がれているのが信直と芳野の前に置かれた。
 この時、信直は小袖の女に向かって、
「あれはどうしておる?」と尋ねた。女は、『あれ』が指すものを瞬時に理解して、
「奥方様は、市に出かけております。」と返答した。
「そうか。」とだけ、信直は言って、芳野の方に向き直った。女は屋敷の奥に引っ込んだ。

「今が水無月みなづきでしたらねえ。」と信直は口惜しそうに言った。
「六月ですか?何かあるんですか?」
祇園御霊会ぎおんごりょうえがあるのですが、この近くの四条大路や少し行った三条大路を神輿しんよの行列が練り歩くので、それは賑やかで華やかですよ。いい見物ができたと思うのですが、残念ですね。」
 芳野は祇園御霊会と言う行事を知らなかったので、どのくらい賑やかなのかも想像はつかなかったが、御輿みこしが練り歩くと聞いて、子供の頃に親に連れられて見た、近所の神社の祭礼を思い出した。
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