稲荷詣で

斐川 帙

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七、三条烏丸の御所

(二十)

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 年中行事絵巻(住吉本)の巻九には祇園御霊会の様子が描かれている。これを見ると、実際の祇園御霊会の様子がどういうものか想像する手掛かりになる。内容はこのようなものだ。

 まず、築地塀の門前において乱舞する田楽でんがくの一団である。編木ささらを弧を描くようにかざして鳴らす人、腰に付けた太鼓をばちで鳴らす人、横笛を吹く人などがいる。中には空中に鼓を放り投げて曲芸のようなことをしている人もいる。そして、門前には御霊会の祭列を見ようと多くの人々が集まっている。当時も、貴族の屋敷に仕えている人々は、門前に出て来て、祭列を見物していたのであろう。

 次に四人の乗尻のりじりが続く。乗尻とは、騎乗して行列の尻につき、供奉ぐぶする者のことを指すが、ここでは先駆け役として供奉している。乗尻の中には暴れ馬に乗馬して振り落とされそうになっている者もいる。

 円形の大幣おおぬさを担ぐ童が歩き、幣をつけたさかきの枝を持つ童が多数、歩いている。幣をつけた榊を持つ童は、ここだけでなく、他の場所でも出て来る。

 大きな風流傘を翳された巫女みこ市女笠いちめがさを被った巫女が馬に乗って過ぎる。巫女は扇などで顔を隠している。

 楽人が演奏し、散手さんじゅを舞い、邪気を払う獅子舞が続く。散手とは、一人で舞う武の舞で、舞人は、裲襠りょうとうを着て、竜甲を被り,面をつけて,ほこを手に持って舞う。

 鉾を持つ者が四人歩いている。これは四神しじん(東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武)が守護していることを表象している。

 その後に、御旅所から祇園社へ還幸する三基の神輿が続く。神輿は四人で担ぎ、また、鈴やふさのついた引綱が神輿についていて、それを僧や神人、童が引いている。神輿が三基続いているので、三基が合流して練り歩く、三条大路の様子が描かれているのだろう。

 藺笠いがさを被った騎馬の田楽が太鼓をのけぞりながら鳴らしている。鼓を打ち、横笛を吹き、編木を鳴らしている。

 ここで川が流れ、橋がかかっていて、そこを騎馬の神官たちが渡ろうとしている。これが祭列の最後尾になる。川は堀川であろうか。そうだとすると、三条堀河の辺りと言うことになる。

 沿道には多くの見物人がいる。牛車も停車している。然るべき身分の者が、この牛車の中から見物しているのだろう。

 当時の祇園御霊会では、現代の祇園祭と違って、山鉾の巡幸はなかった。当時は神輿の巡幸が祭礼の中心行事であった。

 ちなみに、祇園御霊会と似た祭礼が、三月から四月にかけてもあった。稲荷祭である。
 稲荷祭でも、御旅所は、洛中の二か所にあった。八条坊門猪隈と七条油小路の二か所である。そして室町末期に七条油小路の御旅所は八条坊門の御旅所に合祀され、天正年間に至って豊臣秀吉によって、西九条油小路に移された。これが今の御旅所である。
 稲荷祭では神輿は五基あり、三月の中午の日に、稲荷社から、この二か所の御旅所に分かれて神幸し、二十日間滞在したのち、四月の上卯の日に、七条大路を通って稲荷社に還幸した。
 この様子は、年中行事絵巻(住吉本)の巻十二に描かれている。
 稲荷祭もまた、祇園御霊会に勝るとも劣らない殷賑いんしんを極めた祭礼であった。
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