稲荷詣で

斐川 帙

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七、三条烏丸の御所

(三十三)

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 もう少しで、殿舎の簀子の下まで行けると思ったところで、簀子の曲がり角から急に現れた甲冑姿の武者に気づいて、慌てて、その場に這いつくばった。木立があって、根本は繁みで覆われていたため、気づかれなかったようだ。
「怪しいやつは構わず斬れ。逃げるやつは射捨てろ。」
 もう一人、目の前の簀子に武者が現れた。這いつくばったまま、見上げると、大鎧に弓を手にした武者と、腹巻に折烏帽子を被って長刀を持った武者がいた。
「誰が信西で、誰が信西の一族か知らない者が多いんですが、どうしますか?」
「構わんから、怪しいやつは斬れ。院と女院は、既に、この屋敷から内裏へお遷りになられた。気にすることはない。」
「はい。」
「いいか、表では、左衛門尉家仲、右衛門尉康忠の首を挙げたらしいぞ。我らも後れを取るな。」
 そう言われて腹巻の男は殿舎の隅の妻戸から中に入って行った。
 背後からどかどかと音がした。振り返ると、騎馬武者が三騎程、乱入してきていた。そのとき、目の前の簀子を冠直衣の男が慌てふためいて逃げて来た。男は目の前に大鎧の男が立っていることに気づくと驚いて立ちすくんだ。大鎧の男は、冠直衣の男に向かって矢を放った。至近距離から放たれた矢は、男の左肩の辺りに深々と刺さった。男は矢の刺さった肩を押さえると、その場にうずくまった。
「お前は誰だ?信西か?信西の子息か?」
 冠直衣の男は肩を押さえながら、必死に否定したが、大鎧の男は信用せず、怯える男を蹴落とそうとしたが、簀子には高欄があったので、ひっかかって、上半身だけ、乗り出す形になった。
 そこに騎馬武者がやってきて、
「どうだ?見つけたか?」と大声で聞かれ、大鎧の男は、
「いや、まだだ。やつらは北の対にいるんだよな?」
「信西は寝殿の方かも知れないが、子息の方は普段は北の対にいると聞いている。」
「わかった。もう少し探してみよう。」
「気をつけろ。もうかなり火が回ってきてるぞ。北の対が焼け落ちるのも時間の問題だ。」
「わかった。」
 そう言うと、大鎧の男は簀子を奥の方に向かって進んでいった。蹴落とされそうになった男は放置された。
 芳野は、この会話を耳にして、向こうに見えている殿舎は北の対であることを知った。
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