稲荷詣で

斐川 帙

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七、三条烏丸の御所

(三十八)

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「このままだと燃え広がった火で焼け死ぬかもしれない。」
 芳野がそう呟くと、あきおぎは不安になったのか、芳野に更に身を寄せてきた。
「門の周りは武士だらけで、到底、出られそうもない。どうしようか。このまま、ここにいては危険だ。」
 あきおぎは黙っている。
「塀を越えられないだろうか。」
「築地の破れなどあれば、よろしいのですが。御所でございますから、そのようなところは見つからないかもしれません。」
 あきおぎが口を開いたことに驚いた。先程は泣き崩れていたが、もう平静は取り戻せたようである。
「そんな箇所を探してる余裕もないし。どうすりゃいいんだ?築地塀を乗り越えることはできないかな?」
「塀は高くて、簡単には乗り越えられないでしょう。何か、台のようなものがあればいいのですが。」
「探している暇はないな。」
 結局、脱出方法は見つからず仕舞いであった。
 段々、空気が熱くなってきている気がする。
「もう少し、塀の方に移動しよう。ここは危ないかもしれない。」
 芳野はあきおぎの手を取り、周囲に注意を払いながら、そっと築地塀の方へ歩いて行った。見つかりそうで、はらはらした。
 しかし、あまり歩きすぎても見つかりそうなので、十メートルほどしか移動できなかった。煙も充満して来た。いよいよ、ここにいては命の危険があるかもしれないと感じ始めた。

 すると、門の周りに大勢いた武者たちが段々まばらになってきた。騎馬武者が馬首を門外に向けて、走り去っていくのも見えた。
 芳野は、あきおぎを置いて、慎重に門の傍まで近づいてみた。門を入って両脇にある警護の武者の詰め所の陰に隠れて、そっと外を伺ってみた。
「内裏に向かえとの命が下ったみたいだぞ。」
「信西は見つかったのか?」
「わからんが、もう、ここはいいということだろう。」
「完全に包囲して火を掛けたんだから、見つからなくても、焼け死んでんだろう。まあ、首が取れなかったのは惜しいが。もう十分ということだな。」
 そういう会話が聞こえてきた。
 芳野は、心中で「やった。」と快哉を叫んだ。左馬頭の軍兵たちは三条烏丸の御所から撤退するのだ。急いであきおぎの元に戻って、このことを知らせた。
「左馬頭の軍勢が撤退するらしい。もう少し待てば、あの門から外に出られるぞ。」
 それを聞いて、あきおぎはほっと胸をなでおろして、芳野の胸に寄り掛かった。
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