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七、三条烏丸の御所
(三十九)
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芳野はあきおぎを連れて、先程隠れた武者の詰め所のところまで進んだ。そして、門の周囲の様子を監視して、武者の姿が見えなくなるのを待った。時間にして、十分程度だったかもしれないが、感覚的には一時間くらいには感じた。屋敷は燃え盛っていて、火の勢いは止まらないどころか、更に増していく気配だったので、気が気でなかった。しかし、ここで焦って門から脱出を強行すると、撤退中の武者に見つかってしまうかもしれない。軽挙は慎まないといけなかった。
ようやく武者の姿が門の周囲から消えた時、芳野はあきおぎの手を取って、門から外に出た。そして、左の築地塀沿いに進んだ。芳野は、気が急いて、自然に早歩きになって、あきおぎは芳野に引っ張られるようにしてついて行った。室町小路との交差点に至って、左に曲がると、築地塀沿いに南進した。塀の向こうは激しく燃える三条烏丸殿である。
西門が見えてきた。このとき、芳野はうっかりして、そのまま、西門の前を通過しようとして、不用意に至近距離まで接近してしまった。まだ、西門の周囲には騎馬武者、徒武者が何人も屯していた。その光景が目に入った時、「しまった。」と思った芳野は、周囲に身を隠せるところを探したが、御所の築地塀沿いに歩いてきたため、近くには隠れるところがなかった。ちらと築地塀に沿って設けられている側溝にも目が行ったが、薄暗がりでよく見えないものの、ゴミや枯葉、泥みたいなもの(牛馬の糞か?)が詰まっていて、隠れられるような深さではなかった。
一方、道の反対側に目を転じてみると、民家があって、小径も見えた。うまく小径に入れれば身を隠すことはできそうだ。だが、室町小路を反対側に渡ると言う行為は、西門に屯する武者に発見される確率が高い危険な行動だった。
次に取るべき行動に逡巡していた芳野は、ふと、この小路の反対側の民家の小径に二頭の馬を置いてきていたのを思い出した。そこまで走って行って、馬に乗ってしまえば、逃げ切れるのではないかと安直な発想をした。馬を置いてきた小径は、確か、西門よりも南、三条大路を少し北に行った辺りの小路の反対側にある小径だった。今見える小径より更に南に行ったところだ。
小路を反対側に渡って、西門の正面を通り過ぎる行為は、かなり危険だが、馬が手に入れば、馬に跨って逃げればいいし、後は何とかなるだろうと思い、それ以上のことは考えないことにした。
西門に近づきすぎていたので、芳野は西門とは逆方向に少し戻って、そこから反対側に走ろうと傍らのあきおぎを見たが、ここまで早歩きで来てしまったせいか、あきおぎの息は上がっていた。
「大丈夫か?これから、少し戻ってから、道の反対側に走って渡るつもりなんだけど、できるか?」
あきおぎは首を振った。
「もう少し、待って。」
芳野はあきおぎの息が落ち着くのを待って、室町小路を北に少し戻って、西門の武者たちから十分離れたところで、道の反対側に向かって、あきおぎの手を引いて走って渡った。あきおぎは袿を重ね着しているので、結構、重そうで、思ったほど速く走れなかった。反対側に辿り着いたとき、あきおぎは地面にへたり込んで、息が上がっていた。
幸い、西門の武者たちには気づかれなかったようだ。板塀沿いに歩き、柴垣が続いて、棟割長屋が出現した。西門の反対側に差し掛かる辺りで足が止まった。小路の幅員は四丈(十二メートル)である。現代の道路であれば三車線から四車線くらいの幅員だ。見つからないで西門の前を通り過ぎることができるか、微妙な道幅だった。芳野は躊躇した。
しかも、屋敷が燃えている影響で、室町小路の反対側の路肩も、火事の炎で薄ぼんやりと照らされていた。人影が動けば、気づかれる可能性は高いと感じた。しかも、あきおぎは袿姿である。屋敷内から脱出した女房だと怪しまれることは必至だ。先程、武者たちは女房達の顔を晒して女であることをいちいち確認していた。信西が女装して逃亡を図るのを警戒していたに違いない。だとしたら、あきおぎは怪しまれるし、同行している芳野は更に疑われる。碌に確認もせずに矢を射かけられたり、長刀で斬りつけられたりされても不思議ではない。屋敷内では、そうやって何人もの人間がやられているのを今さっき目撃してきたばかりだ。
ようやく武者の姿が門の周囲から消えた時、芳野はあきおぎの手を取って、門から外に出た。そして、左の築地塀沿いに進んだ。芳野は、気が急いて、自然に早歩きになって、あきおぎは芳野に引っ張られるようにしてついて行った。室町小路との交差点に至って、左に曲がると、築地塀沿いに南進した。塀の向こうは激しく燃える三条烏丸殿である。
西門が見えてきた。このとき、芳野はうっかりして、そのまま、西門の前を通過しようとして、不用意に至近距離まで接近してしまった。まだ、西門の周囲には騎馬武者、徒武者が何人も屯していた。その光景が目に入った時、「しまった。」と思った芳野は、周囲に身を隠せるところを探したが、御所の築地塀沿いに歩いてきたため、近くには隠れるところがなかった。ちらと築地塀に沿って設けられている側溝にも目が行ったが、薄暗がりでよく見えないものの、ゴミや枯葉、泥みたいなもの(牛馬の糞か?)が詰まっていて、隠れられるような深さではなかった。
一方、道の反対側に目を転じてみると、民家があって、小径も見えた。うまく小径に入れれば身を隠すことはできそうだ。だが、室町小路を反対側に渡ると言う行為は、西門に屯する武者に発見される確率が高い危険な行動だった。
次に取るべき行動に逡巡していた芳野は、ふと、この小路の反対側の民家の小径に二頭の馬を置いてきていたのを思い出した。そこまで走って行って、馬に乗ってしまえば、逃げ切れるのではないかと安直な発想をした。馬を置いてきた小径は、確か、西門よりも南、三条大路を少し北に行った辺りの小路の反対側にある小径だった。今見える小径より更に南に行ったところだ。
小路を反対側に渡って、西門の正面を通り過ぎる行為は、かなり危険だが、馬が手に入れば、馬に跨って逃げればいいし、後は何とかなるだろうと思い、それ以上のことは考えないことにした。
西門に近づきすぎていたので、芳野は西門とは逆方向に少し戻って、そこから反対側に走ろうと傍らのあきおぎを見たが、ここまで早歩きで来てしまったせいか、あきおぎの息は上がっていた。
「大丈夫か?これから、少し戻ってから、道の反対側に走って渡るつもりなんだけど、できるか?」
あきおぎは首を振った。
「もう少し、待って。」
芳野はあきおぎの息が落ち着くのを待って、室町小路を北に少し戻って、西門の武者たちから十分離れたところで、道の反対側に向かって、あきおぎの手を引いて走って渡った。あきおぎは袿を重ね着しているので、結構、重そうで、思ったほど速く走れなかった。反対側に辿り着いたとき、あきおぎは地面にへたり込んで、息が上がっていた。
幸い、西門の武者たちには気づかれなかったようだ。板塀沿いに歩き、柴垣が続いて、棟割長屋が出現した。西門の反対側に差し掛かる辺りで足が止まった。小路の幅員は四丈(十二メートル)である。現代の道路であれば三車線から四車線くらいの幅員だ。見つからないで西門の前を通り過ぎることができるか、微妙な道幅だった。芳野は躊躇した。
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