稲荷詣で

斐川 帙

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七、三条烏丸の御所

(四十三)

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 馬は、小径を進み、やがて室町小路に出た。あきおぎは馬首を右に向けると、室町小路を南下した。
 西門から、少し南の方に離れたところに小径があったのだが、まだ、燃え盛っている炎で、ここまで薄ぼんやりと明るくなっていて、姿が露わになっていた。芳野は、いやな予感がした。

「馬を、もう少し早歩きにできるか?」とあきおぎに頼んだ。しかし、あきおぎは、「怖いです。」と言って、拒んだ。
 大丈夫かなと不安になったが、とにかく進むしかなかったので、あきおぎの操作に任せることにした。そのとき、背後が騒がしくなった気がした。

 芳野が振り返ると、西門の辺りの武者たちが、こっちを指差して、何やら叫んでいるような感じだった。

(まずい。見つかったか?)

 芳野は、あきおぎに、「馬を走らせろ。」と指示したが、しかし、あきおぎはまた、「怖い。」と言って、走らせようとしなかった。そうこうしているうちに、騎馬武者数騎がこっちに向かってきた。長弓に矢をつがえているのが見えた。

(やばい。射るつもりだ。)

 芳野は、どうにでもなれとやけっぱちになって、馬の腹を強く蹴ってみた。馬は暴れたが、走る気配はなかった。あきおぎも芳野も馬にしがみついて落馬だけは回避することができた。

「どうしたら馬を走らせることができるんだ?」と、強い語調で、あきおぎに聞くも、あきおぎは「わからない。走らせたことがない。」と言って涙声になっていた。芳野は予想外の絶望的な回答に呆れて、天を仰いだ。

 矢が数本立て続けに飛んできて、近くの地面に刺さった。あきおぎは目を丸くした。突然すぎて声は出なかった。

 芳野は、また振り返って、武者たちの様子を確認したが、今度は騎馬武者の他にかち武者も長刀を持って、こっちに向かって来ていて、更にまずい状況に追い込まれているのがわかった。もう一刻の猶予もなかった。

 焦った芳野は、「早く馬を走らせろ。」と怒鳴りつけてしまった。しかし、これは逆にあきおぎを萎縮させてしまって、凍り付いたように動かなくなってしまった。

 仕方がないので、「どうしたら馬を走らせることができるんですか?」と、今度は、できるだけ冷静な口調で、再度、あきおぎに聞いたが、何もできない自分にいらいらして感極まったのか、泣きだしてしまって、まともに答えられない状態になった。

(もう駄目か…)

 そのとき、また、矢が飛んできて、そのうちの一本が馬の尻に立った。馬は激痛にいななき立ち上がって、あきおぎと芳野を地面に振り落とした。あきおぎは地面を転がって、痛みに呻いていた。芳野は、地面に体をしたたかに打ち付けて、意識が朦朧とした。

 うつぶせのまま、腕を取られて、複数の男に地面に押さえつけられている感覚がした。息が苦しかった。

 白濁した視界の中に兜を被った男の顔が垣間見えた。
 芳野を見る目は氷のように冷たく、まるで、これから屠殺する家畜を見るような目だった。喉元に冷たいものが触れているのがわかった。腰刀かと直感した。

(首を斬り落とされる?)

 喉元を鋭利な刃が滑って行くのがわかる。なめらかな激痛が走っている。朦朧としていた意識が、更に実感を失って、自分が無くなっていった。

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