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八、現実世界
(一)
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遠くで微かに人の笑い声が聞こえたような気がした。
目を開けると、ぼんやりと見えていた視界が段々と明瞭になってきて、雑草の繁みの中に埋もれているようだった。
起き上がってみた。
目の前に木製の崩れかけの祠があった。起き上がった時に、丁度目線と同じくらいの高さになる大きさの祠だった。
長い間、清掃していないのか、薄汚れている。
徐々に、記憶が蘇って来た。
米国出張中の一時帰国で日本に戻って来て、伏見稲荷大社を参拝したのだ。
麓の本殿を訪れ、その背後の稲荷山を登った。そして、稲荷山を登っている途中で、平安時代風のコスプレをしていた若い女性二人連れと出会った。あさつゆとあきおぎの二人連れだ。彼女等とともに稲荷山を巡って参拝しているうち、いつの間にか、彼女等の屋敷までついていくことになって、それから、色々な体験をした。
今も、その続きなのだろうか。
しかし、ここはどこだろうか。
周囲を見回したが、誰もいない。草むらの中に、埋もれるように置かれている木製の祠の傍らに、自分一人が寝転がっている。なぜ、ここにいるのか、思い出せない。
最近の記憶を辿って行くと、左馬頭の軍勢に包囲されて火を懸けられた三条烏丸殿に突入して、あきおぎを救い出した。そして、駿河守の屋敷に戻る途中、軍兵等に見つかって、矢を射かけられた。そのあと…。
そのあとのことは、思い出したくなかった。あの、喉元を「あれ」する厭な感触が蘇りそうで、感情的には何もないのだが、ただ、ひたすら思い出したくない感触と、直面したくない恐怖感に、底から湧き上がってきそうな記憶に重しをつけて、海底の泥の中に沈めたままにしたかった。
芳野は、とりあえず立ち上がって、祠の周りを歩いてみた。道らしい道は見当たらなかった。ただ、微かに、獣道の痕跡みたいなものが視認できた。しかし、これがかつては道だったのか、確信が持てない程度の曖昧な痕跡だった。
ずっとここにいても埒が明かないので、この痕跡を辿ってみることにした。
繁みを掻き分け、灌木の枝を躱しながら、歩き続けると、大小の祠が疎らに立つ斜面に出た。何となく、この光景は以前に見たように感じたが、いつなのかは思い出せなかった。遠くはない過去だが、昨日、一昨日の話ではない。もうちょっと前の感じがする。
斜面を更に下りていくと、灌木と下草に覆われて道が見えにくくなっていたが、それでも進んで行くと、針葉樹が林立している場所に出た。そこを過ぎると、舗装された明瞭な道筋に変わり、再び、大小の祠が立っているのが見えてきたが、今度は数も多く、密集している場所に出た。緩い下り坂だったが、降りていくと左手に石造りの社が見えてきた。石造りの社は流造の様式で作られており、周囲より一段高くして設置されていた。道は社の背後に向かって続いており、社の前には、石造りの鳥居があった。
石段を下りて、石の社の横から前に出ると、そのまま素通りした。参拝する気分が起きなかった。それより、今、どこにいるのか、早く確認したかった。
石の社を素通りして、石造りの鳥居の傍に立つと、目の前には朱色の無数の鳥居が続く参道があった。
この社は、この参道の横に立っている格好になっていた。参道の、向かって右方向は、かなり急傾斜の上り坂になっているようだった。
参道には多くの参拝客が往来していた。
目を開けると、ぼんやりと見えていた視界が段々と明瞭になってきて、雑草の繁みの中に埋もれているようだった。
起き上がってみた。
目の前に木製の崩れかけの祠があった。起き上がった時に、丁度目線と同じくらいの高さになる大きさの祠だった。
長い間、清掃していないのか、薄汚れている。
徐々に、記憶が蘇って来た。
米国出張中の一時帰国で日本に戻って来て、伏見稲荷大社を参拝したのだ。
麓の本殿を訪れ、その背後の稲荷山を登った。そして、稲荷山を登っている途中で、平安時代風のコスプレをしていた若い女性二人連れと出会った。あさつゆとあきおぎの二人連れだ。彼女等とともに稲荷山を巡って参拝しているうち、いつの間にか、彼女等の屋敷までついていくことになって、それから、色々な体験をした。
今も、その続きなのだろうか。
しかし、ここはどこだろうか。
周囲を見回したが、誰もいない。草むらの中に、埋もれるように置かれている木製の祠の傍らに、自分一人が寝転がっている。なぜ、ここにいるのか、思い出せない。
最近の記憶を辿って行くと、左馬頭の軍勢に包囲されて火を懸けられた三条烏丸殿に突入して、あきおぎを救い出した。そして、駿河守の屋敷に戻る途中、軍兵等に見つかって、矢を射かけられた。そのあと…。
そのあとのことは、思い出したくなかった。あの、喉元を「あれ」する厭な感触が蘇りそうで、感情的には何もないのだが、ただ、ひたすら思い出したくない感触と、直面したくない恐怖感に、底から湧き上がってきそうな記憶に重しをつけて、海底の泥の中に沈めたままにしたかった。
芳野は、とりあえず立ち上がって、祠の周りを歩いてみた。道らしい道は見当たらなかった。ただ、微かに、獣道の痕跡みたいなものが視認できた。しかし、これがかつては道だったのか、確信が持てない程度の曖昧な痕跡だった。
ずっとここにいても埒が明かないので、この痕跡を辿ってみることにした。
繁みを掻き分け、灌木の枝を躱しながら、歩き続けると、大小の祠が疎らに立つ斜面に出た。何となく、この光景は以前に見たように感じたが、いつなのかは思い出せなかった。遠くはない過去だが、昨日、一昨日の話ではない。もうちょっと前の感じがする。
斜面を更に下りていくと、灌木と下草に覆われて道が見えにくくなっていたが、それでも進んで行くと、針葉樹が林立している場所に出た。そこを過ぎると、舗装された明瞭な道筋に変わり、再び、大小の祠が立っているのが見えてきたが、今度は数も多く、密集している場所に出た。緩い下り坂だったが、降りていくと左手に石造りの社が見えてきた。石造りの社は流造の様式で作られており、周囲より一段高くして設置されていた。道は社の背後に向かって続いており、社の前には、石造りの鳥居があった。
石段を下りて、石の社の横から前に出ると、そのまま素通りした。参拝する気分が起きなかった。それより、今、どこにいるのか、早く確認したかった。
石の社を素通りして、石造りの鳥居の傍に立つと、目の前には朱色の無数の鳥居が続く参道があった。
この社は、この参道の横に立っている格好になっていた。参道の、向かって右方向は、かなり急傾斜の上り坂になっているようだった。
参道には多くの参拝客が往来していた。
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