天孫降臨

斐川 帙

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一、愛宕山の白い猫

すっかり約束を忘れていたのに気分転換に愛宕山に登ったために昨日の女性に再会してしまった件について (2)

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 今度は、俺がふうんと言ったきり、黙った。名前の由来など、どうでもいいことだった。
「関心がないようね。がっかりだわ。じゃあ、今日のデートは『なし』なの?」
 『なし』も何も全く忘れていたので何の用意もない。
「全然、忘れてた。」
「ひどいわ。私、すっごく楽しみにしてたのに。かわりに何かしてよ。」
「えっ?何をするの?」
「それは、あなたが考えることでしょ。」
 言葉を失った。この女、ずうずうしくて面白い。
 そう、あまりに自然にずうずうしいので、かえって、興をそそったのだ。それで、俺は笑った。彼女は、きょとんとしていた。
「何が面白いの?」
「えっ、いや、何、君があまりに押しが強いというか、二度しか会ってない、あかの他人なのに、親兄弟みたいになれなれしくてずうずうしいからさ。」
 俺も、結構、ストレートに思ったことを言う性質なので、面と向かって、こう言い放ってしまった。しかし、彼女は、怒りもせず、
「そりゃ、私は神だからよ。あなたよりも絶対的に上の存在なのだから、横柄なのは、当然でしょ。」
 いや、すごい物言いだ。ここまで言い切られると、逆に気持ちいい。俺は、彼女のことが気に入った。
「じゃあ、今度の週末、会わない?」
 途端に女性の表情が五月晴れのように晴れやかに華やいだ。
「うれしい。本当ね?今度こそ、本当よね?待ってる。今度の週末ね。で、土曜日?」
「多分。今度の土曜日、職場のビルが、定期点検で停電になるらしいから、休日出勤ができないんだよね。で、必ず、休めるから、土曜日だったら、大丈夫だよ。ところで、どこで待ち合わせる?」
「ここがいい。私、この小さな社にさよちゃんと同居しているの。だから、ここに来て。」
「ああ、わかった。じゃあ、土曜日の午前十時くらいに、この鳥居の前に来るよ。」
「わかった。待ってる。私ね、あなたのこと、好きだから、遠慮せず、私を誘って。」
 変なことを言うなと思ったので笑ったが、彼女は気に留めず、「じゃあね。」と言うと、昨日と同じく、実に自然に消えた。しかし、不思議な余韻は残った。何もそこに存在しなかったという余韻だ。
 そして、白い猫が、振り返りながら、池の向こうの茂みの中に消えていくのが見えた。
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