つばき

三、同棲

（一）

　目覚まし時計の低く繰り返し鳴り響く電子音に目が覚めると、悟は時計を見た。七時だった。かすかな頭痛を感じるのを無理して布団からはい出すと、悟はロフトからはしごをつたって階下に下りた。下りながら、悟は台所の方で、包丁がまな板を叩く音がするのに気づいた。覗くと、昨日の少女が、何か作っている。服装は昨日と同じ格好だ。悟は、見られたくないものを無断で見られたような、恥ずかしさというか、居心地の悪さを感じて、焦った。
　そうか、昨日、あのまま、一緒にここまで連れて帰って来ちゃったんだ。
　悟は、アパートの六畳間の真ん中に腰を下ろすと、部屋に散乱しているはずの衣料がきれいに片づけられているのに気づいた。
　彼女が片づけたのか？
　悟は、なにか嫌な感じがした。何の準備もしていないところに他人が入ってきて、人には見せていない自分の私的な部分を何の断りもなくいじられるのに不快感を覚えたのだ。しかし、ここに連れてきたのは、酔っていたとは言え、自分自身なのだから、仕方ないと言えば仕方ない事だった。彼女に文句を言えた義理ではなかった。
　悟は、つばきの背後に近寄ると、「おはよう。」と声をかけた。つばきは、びっくりして振り向いて悟に気づくと、「今、朝ご飯つくってるね。ちょっと、待ってて。」と答えた。悟は、昨日洗い忘れていた髪が気になって、先にシャワーを浴びようと思った。
　「どのくらいで朝ご飯、できる？先にシャワー浴びて髪洗いたいんだけど。」
　「わかんない。おみそ汁、もう少しでできそうだけど、ご飯がいつ炊けるか見てないから。ちょっと、見て。」
　悟は電子炊飯器の表示パネルを見た。「残り八分」という表示になっている。シャワー浴びるのには中途半端な時間だと思い、先にご飯を食べる事にした。普段、朝食は取らないので、何年ぶりだろうかと小さい感慨にふけりながら、悟は、腰を下ろした。畳の部屋にカーペットをしいている部屋には、食事をするテーブルなど置いてなかった。六畳間に、ＰＣを置いた机やテレビや本棚、食器棚を置くと、その真ん中にテーブルを置いては歩くのに邪魔になってしまい、用意していなかった。悟は、どこで食事をするのかなと思ったものの、大して気にせず、テレビをつけて見ていた。