つばき

斐川 帙

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三、同棲

(十)

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 悟は、不審に思ったが、もう一回、鍵を開けた。今度は、開いた。出かけるときに閉めなかったのかなと思ったが、確か、開けたはずだと思い直し、どういうことなのだろうと不安になったが、すぐに理由はわかった。つばきが、悟の目の前に現れたのだ。つばきは、満面に笑みを浮かべて、悟を駆け足で出迎えた。悟は、誰もいないはずの部屋から人が現れたのに驚いたが、それがつばきである事に気づくと、また驚いた。帰ったと思いこんでいたが、まだいたのだ。つい、「まだ、いたの。」と口に出してしまったが、つばきは、一瞬、しゅんとしたが、すぐに元に戻って、悟の手をとって、部屋の中に引っ張って行った。部屋の真ん中にはちゃぶ台が置いてあるのに悟は驚いたが、つばきは、悟がスーツのままであることを気にもかけず、そこにしかれてあった二つの座布団の一つに座らせた。それから、つばきは、「遅かったから、寂しかった。」といいながら、テーブルの上に伏せてあったお茶碗を取り、電子炊飯器の蓋を開けた。もわっと白い蒸気が噴出した。ごはんをしゃもじですくってお茶碗に盛ると悟の前に置いた。既におかずが二品ほど置かれていた。じゃがいもやにんじん、たけのこなどが入った煮物と、さばの塩焼きだった。
 悟は、山盛りに盛られたお茶碗を目の前にして、全く食欲が湧かないのに、形だけ箸を取った。しかし、巣鴨で食事をとって間もない悟には、やはり無理だった。
 「帰る途中で食べてきたから、もう、食べられない。」
 つばきは、明らかにがっかりした表情をして、悟の前に置いた茶碗を手に取ると、食べ始めた。悟は、しばらくじっと見ていた。つばきは、沈んだ表情でもくもくとご飯を口の中に入れていった。悟は、箸を取ると、鯖の塩焼きだけ、少し、つついた。そんな静かな食事の光景が十分くらい続いて、つばきはご飯を食べ終わり、食卓を片づけ始めた。狭い流しで食器を洗っているつばきを見ているうちに、悟は立ち上がって、スーツを脱いで壁に掛けた。そして、流しに向かうと、洗い物を手伝った。つばきは、黙っていた。
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