つばき

斐川 帙

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四、外出

(七)

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 つばきの表情は、さっと色が変わって、硬くなったように見えた。これは、そこまで思っていない相手に自分の勝手な思い入れを告白して相手が引いてしまった、そういう状況なのだと悟には感じられた。独り相撲であったことを思い知らされると同時に、ここまで誤解させるようなことをする彼女に怒りも覚えたが、しかし、無意味な事であった。悟は、すぐに気持ちを切り替え、何事もなかったように立ち上がった。
 「じゃ、食べに行こうか。」
 すると、つばきは、悟の手を引っ張って、「座って。」と言った。悟は、身構えた。
 「ねえ、作ってきたの、お弁当。食べよ。」と言って、手に持っていた布製の手提げ袋から二つの弁当箱を取り出した。悟は、「なんだ。」と呟いて、ほっとした。自然に笑顔がこぼれた。それを不思議に思ったつばきは、「どうしたの?」と聞くが、悟は笑うだけで答えなかった。
 蓋を開けると、ご飯に鶏の唐揚げに野菜の煮付けに小さな弁当箱に多彩なおかずが彩りを添えている。悟は、その見栄えに感心した。そして、一口、おかずを口に運んでみると、意外とおいしい。改めて、この女の子のできの良さに気持ちが動いた。
 「おいしい?」
 「うん。おいしい。でも、ほんとに料理はうまいね。びっくりするよ。やっぱり、つばきは、手放したくないな。」
 おかずを口に放り込みながら、冗談半分を装ってつばきをほめた。つばきは、にこにこして、やがて、自分の弁当箱に手をつけた。
 二人して、荒川の土手の草いきれの中に埋没して、並んで弁当箱をつついていた。かすかな風が二人の間を撫でていった。
 「さっきの女の人が言っていた、『精を受けて結実』とか言うの、あれ、どういうことなの?」
 悟は、弁当をつつきながら、気になっていた事を何気なく聞いたつもりだったが、急につばきの表情が曇ったように見えて不安になった。
 「気になる?」
 「・・・少し、気になるかな。」
 つばきは言いにくそうだった。
 「でも、信じないから。」
 「何を?」
 「神様とか。」
 悟は、やっと言いにくくしている理由がわかってほっとしたのか、急に口調が軽くなった。
 「ああ、そういう話ね。でも、目の前の人たちが神様だとか、自分はつばきの花の精とか、いきなり、そんなこと言われても、信じろという方が無理な相談だよ。でも、さっきの人たちは、ちょっと、怖かったな。あの人たち、普通の人たちじゃないよね?急に、部屋の中にいたりしてさ。幽霊みたいだったよ。」
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