つばき

斐川 帙

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五、いつきの島

(一)

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 河川敷だったところは、砂浜になっていた。その砂浜をさらさらした砂に足を取られながら波打ち際まで近づくと、波の下は、ごろごろと小石の多いことが海水から透けて見えた。近くの沖合には岩場が所々、波の上に顔を覗かせていた。
 つばきは、波打ち際で立ち止まると、沖合、かなたに見える島々を見渡していた。一方、悟は、浜辺の方を見回していた。荒川の土手があって、その向こうには工場や倉庫が見える。しかし、土手を下りてからは砂浜になっていて、そのまま、海に飲み込まれていた。ここが東京都板橋区の荒川河岸であることを知らなければ、何ら違和感のない風景だったかもしれないが、ここは海から数十キロも奥に入った内陸部なのである。こんな光景はありえなかった。それを思うと実に不思議な風景であった。悟は、一体ここはどこなんだろうと場所をわかっていながら、自問していた。
 つばきは、砂浜を右の方に歩き始めた。その行き先には一艘のボートが打ち上げられていた。悟は、勝手に歩いていくつばきの後をとぼとぼとついていった。つばきはボートの前で止まった。しばらく、ボートを見下ろすように見つめていたが、悟の手を引っ張って、「押して。」と言った。悟は、ボートを押してみたが、なかなか動かないので、前に回って、引っ張ってみる事にしたが、やはり、なかなか動かなかった。悟は「だめだな。」と吐き捨てると、ボートから離れようとした。しかし、つばきはそれを制して、ボートの中に乗り込んだ。悟もつばきと向かい合わせにボートに腰を下ろしたが、それは海に出るためでなく、一休みするためであった。つばきは、誰かを待つように周囲を見回していた。
 「どうするの?」
 つばきは、心ここにあらずと言った風情で、きょろきょろ見回している。
 「多分、沖に出て行けると思うんだけど。」
 「このボートで?」
 つばきは大きく頷いた。
 「でも、全然、動かなかったよ。」
 と言って、悟は、しばらくすると潮が満ちて、この辺りまで海水が来るということを言ってるのかもしれないと気がついた。「そういうことなのね。」と独り合点して独り言のように呟いた。
 「きっと、宗像むなかたの姫神様がいらっしゃると思うの。」
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