放置された日記

斐川 帙

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二〇〇六年六月十六日(金) 中学校

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 今日は、私の通っていた中学校に行ってみました。結構、歩くと時間がかかるし、丘の上にあったので、急坂を上るというしんどい所にある学校ですが、苦労して校舎の近くまで行って、フェンスの外から校庭を眺めていたのですが、いや、何にも当時の事が思い出せない。俺、ほんとにこの学校に通っていたんだろうかと訝しんだくらいです。考えてみれば、内向が一番きつかったのは中学時代だったので、記憶に残るようなことが何一つないというのも道理かも知れませんが。それにしても、校舎の建物を見ても、少しも感傷に浸れないというのも、拍子抜けというか、変な気分ですね。でも、映画なんかで主人公が青春時代を回顧するなんてシーンを見るとじいんと来てしまうんですよ。一体、何なんでしょうね。
 そう、この中学校から歩いて十分くらいのところに城山公園というのがあって、ただの広場なんですが、何でも、中世に城館があったところだったとかで、広場の周囲に土塁があって、その外には空堀があるらしいんですが、どれがそれなんだかはわかりません。
 私は、歴史が好きで、特に平安時代が好きで、いろいろな平安時代関連の書籍を集めていますが、昔、実家の辺りの歴史を調べてみた事があって、どうも、平安時代末、院政期には、ここに渋谷荘という荘園が立荘されていたらしいんですね。で、この荘園の領主が渋谷氏と代々名乗っていたそうです。もともとは、関東に土着した桓武平氏の子孫で、武蔵の秩父地方を領していた秩父一族の人間が、武蔵河崎荘(神奈川県川崎市)に移り、ついで相模国高座郡の渋谷の地に来たらしいです。その渋谷氏の館が、この城山公園にあったそうです。目久尻川の作る谷間に臨んだ相模原台地の舌状に突き出た突端にあって、城郭を作るには適当な地だったようですね。
 せっかくだから、何十年振りくらいかで、城山公園を訪れてみました。ここで、ちょっと、面白いことがありまして。たいした事じゃないんですけどね。
 平日の昼間だったので、公園内に人影はなかったのですが、でも、ベンチに初老の男性がぽつんと座っていまして、気にはなりましたが、一人が好きな私は、声をかける事もなく、しばらく、歩きまわったあと、公園を出て行こうとしたんです。そしたら、その男性がいつのまにか、私の前にたちはだかっていまして、まあ、びっくりしましたが、その男性が私に話しかけてくるんですね。一面識もない私に。私は、正直、見ず知らずの人間に話しかけられるのは好きな方ではないので、無視して行き過ぎようと思ったのですが、相手の方は、私を通そうとしない。いらっときた私は、きっと睨んで、よけていこうとしたところ、男は、柔らかい口調で、
「まあ、私の話を少し聞いていかないかね?つまらない話ではないと思うが。君は歴史は好きなんだろ?」などと、なぜか、私の歴史好きを知っているかのような口ぶりで、話しかけてくるんですね。そう言われると、ちょっと興味の虫が湧いてきて、
「何の話ですか?」なんて、言っちゃったものだから、相手は、もう、承諾したと合点して、私の手を取って、近くのベンチに誘うんですよ。この城山公園は、周囲に数十メートル間隔でベンチが設けてありまして、その内の直近のベンチに私を座らせたという事ですね。座った途端、男は、言い出したんですよ。
「この公園に数百年前、平安時代末、鳥羽院のころに館を構えていた渋谷一族の話をしようと思っているんだがね、聞きたくないかね?」
さっき書いたように、渋谷一族の話については多少は知っていましたが、わざわざ、そんな話題を自ら振るのですから、私の些末な知識よりも遙かに豊富な知識を披瀝するのだろうと期待しちゃいますよね。それで聞き返したんですよ。
「この辺りに渋谷荘という荘園があって、その荘園を経営していたのが渋谷氏だと言うのは知っていますが。源平の合戦でも渋谷重国が出てきますよね。」
「いや、私のする話は、武蔵の秩父から来た渋谷氏ではなく、それ以前に、この地域一帯を開発して立荘した渋谷氏の話だよ。一族間でいろいろともめ事があってね、合戦もあった。どうだ?聞きたくないか?」
 男の言う話は、私が今までに聞いた事のない話なので、実はうさんくさいとは思ったのですが、一応、面白そうだから聞いてみるかということになったのですよ。まあ、ただ、全部、聞けたわけでなくて、明日も続きを聞く事になっているわけですけどね。
 男から聞いた話は、まだ、断片的なので、そのうち、まとまったら、ここに書いてみようと思っています。じゃあ、また。
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