彷徨

斐川 帙

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<本文:③>

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 若い女性が向こうの尾根に立っている。女性の周囲だけ柔和な光に包まれて浮かび上がり、女性は、こっちを見ているようだ。遠目に、視線がこちらに向いているのがわかる。
 女性は私を睨んでいるように見えた。さっきの青年のように、何かしら強い感情を押し殺した視線。

 大学に入ってすぐ、同じ学科の同じクラスに彼女ができた。時間が合えば一緒に帰途につき、数ヶ月して体の関係もできた。恋愛もどきは性愛を帯びて、愛欲を貪るような恋愛になった。満たされるときもあったが、時間の多くは、充足を渇望して空しく求め合う結果になりがちだった。互いに求めるものが違っているようだった。
 大学を卒業して、家を出て、自活の道に入って、間もなく別れた。会えるタイミングがなくなったのも大きいが、家庭を持つことを拒む感情が邪魔して、先行きが見えなかったから自然消滅したのだろう。

 今、女性を見ているうちに、それを思い出した。
 彼女は、今、何をしているのだろうか?

 女性がすっと消えた。
 月明りに照らされた尾根の木立が朧々と浮かんでいる。

 繋がっていた時の感覚が蘇ってきた。彼女を抱きしめ、思いのたけをぶつけるように動いていた時の感覚。唇を貪り、必死にこらえるように抱きついてきたときの感覚。彼女の中で味わった肌の感触。
 欲情が湧き上がるのを感じた。
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