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第19話「あなたの声だけを信じる」
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番組が終盤に差し掛かり、ついに司会者が「それでは、会場の皆さんからもご質問を受け付けたいと思います」と告げた。
その瞬間、私は弾かれたように、震える腕を高く、高く挙げた。
「はい、そちらの女性の方!」
スタッフが差し出すマイクを、私は汗ばんだ手で強く握りしめた。心臓が口から飛び出しそうだった。スタジオ中の視線が、私一人に集中しているのがわかる。隣に座る蓮の弁護士が、心配そうに私を見ている。でも、もう止まれなかった。
私は立ち上がり、ステージ上の影山をまっすぐに見据えた。
「影山彰さんに、質問があります」
私の声は、緊張で震えていた。しかし、その奥に秘めた決意は、きっと誰よりも強かったはずだ。
影山は、突然の指名に、一瞬だけいぶかしげな表情を浮かべたが、すぐに悲劇の主人公の仮面を被り直し、「なんでしょうか」と穏やかに促した。
私は、息を深く吸い込んだ。
「あなたは番組の中で、恩師とは親子のような関係だったと、涙ながらに語られました。本当に恩師を心から尊敬していたのなら、お尋ねします」
私は、ここで一呼吸置いた。スタジオ中が、私の次の言葉に静まり返っている。
「なぜ、先生が亡くなる直前まで推敲を重ねていた、未発表の小説原稿の存在を、あなたは隠しているのですか?」
私の言葉がスタジオに響き渡った瞬間、影山の顔色が変わった。彼の瞳が、驚きと動揺で激しく揺れ動く。
「な……何を、言っているんだ? そんなものは、存在しない」
彼の声が、初めて激しく乱れた。動揺と焦りが、彼の声に醜い亀裂を入れる。今まで完璧にコントロールされていた泥色が、一瞬、ぐちゃりと崩れて、おぞましいまだら模様をさらけ出した。私には、その色の変化がはっきりと見えた。
私は、畳み掛けるように続けた。
「いいえ、存在します。恩師の奥様が、大切に保管されています。その小説のテーマは、『才能への嫉妬が、いかに友情を破壊するか』でした。先生は、あなたの心の闇に気づいていた。そして、あなたを救おうとして、あの小説を書いていたのではありませんか?」
「でたらめだ! 黙れ!」
影山が、声を荒げた。その声は、もはや悲劇の主人公のものではなかった。追い詰められた嘘つきの、醜い断末魔の叫びだった。彼の声は、パニックを示すどす黒い赤色と、恐怖の青が混じり合い、見るに堪えない汚物のような色をしていた。
司会者もコメンテーターも、あまりの展開に呆然としている。スタジオの空気が、明らかに変化し始めていた。
私は、最後の一撃を放った。
「あなたは、週刊誌で『新人賞の締め切り直前に、蓮さんにアイデアを盗まれた』と証言しましたね。しかし、恩師の日記には、その二ヶ月も前に、あなたが蓮さんと同じプロットを先生に見せに来たと記されています。時間軸が合いません。あなたは、いったい、いつアイデアを盗まれたのですか?」
「……っ!」
影山は言葉に詰まり、顔面を蒼白にさせた。彼の喉からは、もはやどんな色の声も、音さえも絞り出されなかった。嘘を重ねすぎた男の、完全な自滅だった。
生放送のカメラが、狼狽し、脂汗を流す彼の姿を無慈悲に映し出す。視聴者にも、もはやどちらが嘘をついているのかは、明らかだっただろう。
私は、マイクを強く握りしめたまま、最後にこう言った。
「私は、水森詩織と申します。海道蓮さんの、大切な人です。私がなぜ、こんなことを知っているのか。それは……私には、あなたの嘘が、全部『色』で見えるからです」
その言葉が、何を意味するのか。ほとんどの人は理解できなかっただろう。でも、それでよかった。
「私は、たとえ世界中の人があなた(影山さん)を信じても、蓮さんの声だけを信じます。なぜなら、彼の声には、ただの一度も、嘘の色が混じったことがないから。それだけが、私の世界の、絶対的な真実だからです!」
私は、蓮の方を見た。彼は、驚きと、感謝と、そして愛しさに満ちた表情で、私を見つめ返してくれていた。
彼の透明な真実が、私の呪われた力によって、ついに証明されたのだ。スタジオは、異様な興奮と静寂に包まれていた。それは、長く続いた嘘の夜が明け、真実の光が差し込んだ瞬間だった。
その瞬間、私は弾かれたように、震える腕を高く、高く挙げた。
「はい、そちらの女性の方!」
スタッフが差し出すマイクを、私は汗ばんだ手で強く握りしめた。心臓が口から飛び出しそうだった。スタジオ中の視線が、私一人に集中しているのがわかる。隣に座る蓮の弁護士が、心配そうに私を見ている。でも、もう止まれなかった。
私は立ち上がり、ステージ上の影山をまっすぐに見据えた。
「影山彰さんに、質問があります」
私の声は、緊張で震えていた。しかし、その奥に秘めた決意は、きっと誰よりも強かったはずだ。
影山は、突然の指名に、一瞬だけいぶかしげな表情を浮かべたが、すぐに悲劇の主人公の仮面を被り直し、「なんでしょうか」と穏やかに促した。
私は、息を深く吸い込んだ。
「あなたは番組の中で、恩師とは親子のような関係だったと、涙ながらに語られました。本当に恩師を心から尊敬していたのなら、お尋ねします」
私は、ここで一呼吸置いた。スタジオ中が、私の次の言葉に静まり返っている。
「なぜ、先生が亡くなる直前まで推敲を重ねていた、未発表の小説原稿の存在を、あなたは隠しているのですか?」
私の言葉がスタジオに響き渡った瞬間、影山の顔色が変わった。彼の瞳が、驚きと動揺で激しく揺れ動く。
「な……何を、言っているんだ? そんなものは、存在しない」
彼の声が、初めて激しく乱れた。動揺と焦りが、彼の声に醜い亀裂を入れる。今まで完璧にコントロールされていた泥色が、一瞬、ぐちゃりと崩れて、おぞましいまだら模様をさらけ出した。私には、その色の変化がはっきりと見えた。
私は、畳み掛けるように続けた。
「いいえ、存在します。恩師の奥様が、大切に保管されています。その小説のテーマは、『才能への嫉妬が、いかに友情を破壊するか』でした。先生は、あなたの心の闇に気づいていた。そして、あなたを救おうとして、あの小説を書いていたのではありませんか?」
「でたらめだ! 黙れ!」
影山が、声を荒げた。その声は、もはや悲劇の主人公のものではなかった。追い詰められた嘘つきの、醜い断末魔の叫びだった。彼の声は、パニックを示すどす黒い赤色と、恐怖の青が混じり合い、見るに堪えない汚物のような色をしていた。
司会者もコメンテーターも、あまりの展開に呆然としている。スタジオの空気が、明らかに変化し始めていた。
私は、最後の一撃を放った。
「あなたは、週刊誌で『新人賞の締め切り直前に、蓮さんにアイデアを盗まれた』と証言しましたね。しかし、恩師の日記には、その二ヶ月も前に、あなたが蓮さんと同じプロットを先生に見せに来たと記されています。時間軸が合いません。あなたは、いったい、いつアイデアを盗まれたのですか?」
「……っ!」
影山は言葉に詰まり、顔面を蒼白にさせた。彼の喉からは、もはやどんな色の声も、音さえも絞り出されなかった。嘘を重ねすぎた男の、完全な自滅だった。
生放送のカメラが、狼狽し、脂汗を流す彼の姿を無慈悲に映し出す。視聴者にも、もはやどちらが嘘をついているのかは、明らかだっただろう。
私は、マイクを強く握りしめたまま、最後にこう言った。
「私は、水森詩織と申します。海道蓮さんの、大切な人です。私がなぜ、こんなことを知っているのか。それは……私には、あなたの嘘が、全部『色』で見えるからです」
その言葉が、何を意味するのか。ほとんどの人は理解できなかっただろう。でも、それでよかった。
「私は、たとえ世界中の人があなた(影山さん)を信じても、蓮さんの声だけを信じます。なぜなら、彼の声には、ただの一度も、嘘の色が混じったことがないから。それだけが、私の世界の、絶対的な真実だからです!」
私は、蓮の方を見た。彼は、驚きと、感謝と、そして愛しさに満ちた表情で、私を見つめ返してくれていた。
彼の透明な真実が、私の呪われた力によって、ついに証明されたのだ。スタジオは、異様な興奮と静寂に包まれていた。それは、長く続いた嘘の夜が明け、真実の光が差し込んだ瞬間だった。
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