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エピローグ「そして、種は蒔かれる」
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あの日、世界を救った戦いから一年が過ぎた。
『Arcadia Sphere Online』の世界は、奈落の古竜という脅威が去り、平和な時が流れている。
俺、相田湊は、相変わらず【神の農地】で土いじりをし、時々、街で小さな食堂を開くという穏やかな毎日を送っていた。
俺がミナトであることを知る者は、ごく一部の仲間だけだ。
世間では、英雄ミナトは神々の試練の後、姿を消したと噂されているらしい。それでよかった。俺は静かな生活を望んでいた。
その日、俺はリリィとグレイさんと一緒に、サービスが開始されたばかりの新しいエリアに足を踏み入れていた。
広大な未開の地。まだ誰も、この土地の全容を知らない。
「うわあ、すごい! 見たこともない植物がたくさん生えてます!」
リリィが、子供のようにはしゃいでいる。
グレイさんも未知のフィールドを前に、騎士として、そして一人の冒険者としてその目を輝かせていた。
俺の目的は、もちろん、この新エリアにしか自生していない未知の植物の採取だ。
俺の農家としての探求心は、尽きることがない。
森の奥深く。
俺たちは、巨大な樹がそびえ立つ神秘的な広場にたどり着いた。
その樹の根元に、それはあった。
まるで星の光を宿したように、七色に淡く輝く一輪の花。
鑑定スキルを使っても、『???』としか表示されない。
「なんだ、この花……」
俺がその花に吸い寄せられるように近づこうとした、その時。
大地が揺れ、目の前の巨大な樹がその姿を変え始めた。
樹皮が剥がれ落ち、中から現れたのは植物で形成された巨大なゴーレムだった。
『森の守護者、エンシェント・トレント』
このエリアの、フィールドボスのようだ。
「ミナト君は下がって!」
グレイが剣を抜き、リリィが盾を構える。
だが、俺は後ずさるどころかその場にしゃがみ込み、地面の土をひとつまみ、指でこねていた。
「ミナトさん!? 何してるんですか、危ないですよ!」
リリィの悲鳴が聞こえる。
俺は土の感触を確かめ、そして、にやりと笑った。
「大丈夫。こいつは、俺の専門分野みたいだ」
俺はアイテムボックスから、いくつかのアイテムを取り出した。
それは、剣でも、盾でも、ポーションでもない。
数種類の小さな種と、一本の使い古されたクワ。
俺は、猛進してくるエンシェント・トレントから目を離さず、手にした種を足元の地面に素早く蒔いた。
そして、スキル【耕す】と【水やり】を高速で発動させる。
俺のスキルレベルはもはやカンストしている。その効果は、常識を超えていた。
蒔かれた種は瞬時に芽吹き、蔓を伸ばし、あっという間にトレントの足に絡みついた。
それは、動きを封じるだけの植物ではない。
相手の魔力を養分として吸収し成長する、特殊な寄生植物だ。
「グギャアアアア!?」
トレントが、苦しげな声を上げる。
その巨大な身体を維持していた魔力が、みるみるうちに吸い上げられていく。
「さあ、お食事の時間だ」
俺は、静かにつぶやいた。
これが、俺の新しい戦い方。
その場で敵の特性に合わせた植物を『栽培』し、戦う。
もはや、事前の準備すら必要ない。この大地が、俺の畑そのものなのだから。
弱体化したトレントを、グレイさんとリリィが仕留めるのにそう時間はかからなかった。
戦いの後、俺は再び七色の花の前に立った。
そっと手を伸ばし、その花を傷つけないように根元から優しく摘み取る。
その瞬間、俺の頭の中に新たな閃きがいくつも生まれた。
この花を使えば、あんなデバフやこんなバフが作れるかもしれない。
「やっぱり、この世界は最高だな」
尽きることのない探求の喜び。
新しい発見がもたらす興奮。
そして、それを分かち合える大切な仲間たち。
俺の物語は、決して特別なものではない。
ただ、自分の「好き」を信じて、まっすぐに突き進んだだけ。
誰にだって、自分だけの「畑」がきっとあるはずだ。
「さあ、帰ろうか。新しいスープのレシピが思い浮かんだんだ」
俺は仲間たちにそういって、笑った。
その手には、未来の可能性という名の新しい種が、確かに握られていた。
この世界で、俺の農業はこれからも続いていく。
どこまでも、深く、広く、豊かに。
空が青く、土の匂いがする、この愛すべき場所で。
Fin.
『Arcadia Sphere Online』の世界は、奈落の古竜という脅威が去り、平和な時が流れている。
俺、相田湊は、相変わらず【神の農地】で土いじりをし、時々、街で小さな食堂を開くという穏やかな毎日を送っていた。
俺がミナトであることを知る者は、ごく一部の仲間だけだ。
世間では、英雄ミナトは神々の試練の後、姿を消したと噂されているらしい。それでよかった。俺は静かな生活を望んでいた。
その日、俺はリリィとグレイさんと一緒に、サービスが開始されたばかりの新しいエリアに足を踏み入れていた。
広大な未開の地。まだ誰も、この土地の全容を知らない。
「うわあ、すごい! 見たこともない植物がたくさん生えてます!」
リリィが、子供のようにはしゃいでいる。
グレイさんも未知のフィールドを前に、騎士として、そして一人の冒険者としてその目を輝かせていた。
俺の目的は、もちろん、この新エリアにしか自生していない未知の植物の採取だ。
俺の農家としての探求心は、尽きることがない。
森の奥深く。
俺たちは、巨大な樹がそびえ立つ神秘的な広場にたどり着いた。
その樹の根元に、それはあった。
まるで星の光を宿したように、七色に淡く輝く一輪の花。
鑑定スキルを使っても、『???』としか表示されない。
「なんだ、この花……」
俺がその花に吸い寄せられるように近づこうとした、その時。
大地が揺れ、目の前の巨大な樹がその姿を変え始めた。
樹皮が剥がれ落ち、中から現れたのは植物で形成された巨大なゴーレムだった。
『森の守護者、エンシェント・トレント』
このエリアの、フィールドボスのようだ。
「ミナト君は下がって!」
グレイが剣を抜き、リリィが盾を構える。
だが、俺は後ずさるどころかその場にしゃがみ込み、地面の土をひとつまみ、指でこねていた。
「ミナトさん!? 何してるんですか、危ないですよ!」
リリィの悲鳴が聞こえる。
俺は土の感触を確かめ、そして、にやりと笑った。
「大丈夫。こいつは、俺の専門分野みたいだ」
俺はアイテムボックスから、いくつかのアイテムを取り出した。
それは、剣でも、盾でも、ポーションでもない。
数種類の小さな種と、一本の使い古されたクワ。
俺は、猛進してくるエンシェント・トレントから目を離さず、手にした種を足元の地面に素早く蒔いた。
そして、スキル【耕す】と【水やり】を高速で発動させる。
俺のスキルレベルはもはやカンストしている。その効果は、常識を超えていた。
蒔かれた種は瞬時に芽吹き、蔓を伸ばし、あっという間にトレントの足に絡みついた。
それは、動きを封じるだけの植物ではない。
相手の魔力を養分として吸収し成長する、特殊な寄生植物だ。
「グギャアアアア!?」
トレントが、苦しげな声を上げる。
その巨大な身体を維持していた魔力が、みるみるうちに吸い上げられていく。
「さあ、お食事の時間だ」
俺は、静かにつぶやいた。
これが、俺の新しい戦い方。
その場で敵の特性に合わせた植物を『栽培』し、戦う。
もはや、事前の準備すら必要ない。この大地が、俺の畑そのものなのだから。
弱体化したトレントを、グレイさんとリリィが仕留めるのにそう時間はかからなかった。
戦いの後、俺は再び七色の花の前に立った。
そっと手を伸ばし、その花を傷つけないように根元から優しく摘み取る。
その瞬間、俺の頭の中に新たな閃きがいくつも生まれた。
この花を使えば、あんなデバフやこんなバフが作れるかもしれない。
「やっぱり、この世界は最高だな」
尽きることのない探求の喜び。
新しい発見がもたらす興奮。
そして、それを分かち合える大切な仲間たち。
俺の物語は、決して特別なものではない。
ただ、自分の「好き」を信じて、まっすぐに突き進んだだけ。
誰にだって、自分だけの「畑」がきっとあるはずだ。
「さあ、帰ろうか。新しいスープのレシピが思い浮かんだんだ」
俺は仲間たちにそういって、笑った。
その手には、未来の可能性という名の新しい種が、確かに握られていた。
この世界で、俺の農業はこれからも続いていく。
どこまでも、深く、広く、豊かに。
空が青く、土の匂いがする、この愛すべき場所で。
Fin.
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