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第2話「月下の少女と黒曜の魔剣」
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コンビニでの夜食調達は、男子高校生にとって聖なる儀式だ。
新発売のエナドリとアメリカンドッグを片手に、俺は深夜の住宅街をのんきに歩いていた。
普段なら選ばない、少し遠回りになる公園脇の道。なんとなく虫の知らせ、というやつだったのかもしれない。
「……キィンッ!」
静寂を切り裂く甲高い金属音。
思わず足を止めると、公園の薄暗い茂みの奥からだった。まさか、不良の喧嘩か?
面倒事はごめんだ。そう思って踵を返そうとした、その瞬間。視界の端に信じられないものが映った。
「――っ、ガアアアァァッ!」
獣のような咆哮。それは明らかに人間の声ではなかった。
そして、それに応じるように響く、凛とした少女の声。
「しつこい…!」
その声には聞き覚えがあった。
恐る恐る茂みの隙間から覗き込むと、そこにいたのは、我がクラスが誇る高嶺の花、月島凛(つきしまりん)だった。
腰まで伸びるつややかな黒髪をなびかせ、制服姿のまま、白銀に輝く細身の剣を構えている。
その視線の先には、体長二メートルはあろうかという、狼に似た異形のモンスターがいた。鋭い爪、赤く光る眼。ゲームや映画でしか見たことのない、本物の『モンスター』だ。
(月島が…モンスターと戦ってる!?)
月島凛といえば、学園一の美少女だ。成績優秀、運動神経も抜群。近寄りがたいクールなオーラを放ち、男子生徒の憧れの的でありながら、誰にも媚びない孤高の存在。
そんな彼女が、なぜこんな場所で命懸けの戦いを――?
彼女の剣筋は鋭く、素人目にも常人離れしているのが分かった。
だが相手も手強い。狼のモンスターは素早い動きで剣をかわし、強靭な爪で反撃を繰り出す。
月島の制服はところどころが引き裂かれ、白いブラウスにじわじわと赤い染みが広がっていく。
「はぁ…っ、はぁ…っ…!」
息を切らし、肩で呼吸する月島。普段の彼女からは想像もできない、追い詰められた姿。
その時、モンスターが大きく身を屈め、地面を蹴った。月島の体勢が崩れた一瞬の隙を突いた、致命的な一撃。
「しまっ――!」
月島の顔に絶望の色が浮かぶ。もう間に合わない。
そう思った瞬間、俺は無意識にポケットのスマホを握りしめていた。
(どうする!? 俺が何かしたって…!)
でも、このままじゃ月島が死ぬ。あのクールな、完璧に見えたクラスメイトが目の前で。
そんなの、絶対に見過ごせない。
頭で考えるより先に指が動いていた。
ホーム画面の【1日1回ガチャ】アプリを起動し、震える指でハンドルをタップする。
頼む、何でもいい! 今、この状況を打開できる何かを…!
画面が、これまで見たこともない虹色の光を放つ。
ガチャマシンが激しく揺れ、神々しいまでのオーラをまとったカプセルが飛び出した。
『SSSランク:主を選びし黒曜の魔剣』
スマホが消え、右手にずしりと重みが乗る。
そこに現れたのは、闇そのものを固めたような美しい漆黒の剣だった。柄には精緻な装飾が施され、刀身は周囲の月明かりすら吸い込むような深い黒。
手にしただけで、内側から力が湧き上がってくるような感覚に陥る。
(こ、これ…!)
迷っている暇はなかった。
俺は着ていたパーカーのフードを深く被り、顔を隠す。アメリカンドッグを放り出し、茂みから飛び出した。
月島に迫っていたモンスターの爪が、あと数センチで彼女の喉笛を掻き切ろうとした、その瞬間。
「――邪魔だ」
俺は、ほとんど本能のままに黒曜の魔剣を振るった。
斬ったという手応えすらなかった。ただ、一閃。
モンスターは悲鳴を上げる間もなく、まるで霞のように光の粒子となって霧散した。あまりに、あっけない幕切れだった。
静まり返る公園。残されたのは、俺と、地面にへたり込んで呆然としている月島だけ。
「…え…?」
彼女が、信じられないものを見るような目で俺を見つめる。フードで顔は隠れているはずだが、視線が突き刺さるようだ。
やばい。めちゃくちゃやばい。なんで俺、出てきちゃったんだ。
俺の脳内で警報が鳴り響く。
この剣、説明に『一定時間で消滅する』って書いてあった。早くここから離れないと!
「あ、あの…あなたは…!」
月島がか細い声で呼び止めるが、俺はそれに答えず、踵を返して全力で走り出した。
背後で何事か叫んでいる彼女の声を振り切り、夜の闇へと姿をくらます。
心臓が破裂しそうなほど高鳴っていた。
平凡な日常は、この夜、完全に終わりを告げたのだと、俺は悟った。
新発売のエナドリとアメリカンドッグを片手に、俺は深夜の住宅街をのんきに歩いていた。
普段なら選ばない、少し遠回りになる公園脇の道。なんとなく虫の知らせ、というやつだったのかもしれない。
「……キィンッ!」
静寂を切り裂く甲高い金属音。
思わず足を止めると、公園の薄暗い茂みの奥からだった。まさか、不良の喧嘩か?
面倒事はごめんだ。そう思って踵を返そうとした、その瞬間。視界の端に信じられないものが映った。
「――っ、ガアアアァァッ!」
獣のような咆哮。それは明らかに人間の声ではなかった。
そして、それに応じるように響く、凛とした少女の声。
「しつこい…!」
その声には聞き覚えがあった。
恐る恐る茂みの隙間から覗き込むと、そこにいたのは、我がクラスが誇る高嶺の花、月島凛(つきしまりん)だった。
腰まで伸びるつややかな黒髪をなびかせ、制服姿のまま、白銀に輝く細身の剣を構えている。
その視線の先には、体長二メートルはあろうかという、狼に似た異形のモンスターがいた。鋭い爪、赤く光る眼。ゲームや映画でしか見たことのない、本物の『モンスター』だ。
(月島が…モンスターと戦ってる!?)
月島凛といえば、学園一の美少女だ。成績優秀、運動神経も抜群。近寄りがたいクールなオーラを放ち、男子生徒の憧れの的でありながら、誰にも媚びない孤高の存在。
そんな彼女が、なぜこんな場所で命懸けの戦いを――?
彼女の剣筋は鋭く、素人目にも常人離れしているのが分かった。
だが相手も手強い。狼のモンスターは素早い動きで剣をかわし、強靭な爪で反撃を繰り出す。
月島の制服はところどころが引き裂かれ、白いブラウスにじわじわと赤い染みが広がっていく。
「はぁ…っ、はぁ…っ…!」
息を切らし、肩で呼吸する月島。普段の彼女からは想像もできない、追い詰められた姿。
その時、モンスターが大きく身を屈め、地面を蹴った。月島の体勢が崩れた一瞬の隙を突いた、致命的な一撃。
「しまっ――!」
月島の顔に絶望の色が浮かぶ。もう間に合わない。
そう思った瞬間、俺は無意識にポケットのスマホを握りしめていた。
(どうする!? 俺が何かしたって…!)
でも、このままじゃ月島が死ぬ。あのクールな、完璧に見えたクラスメイトが目の前で。
そんなの、絶対に見過ごせない。
頭で考えるより先に指が動いていた。
ホーム画面の【1日1回ガチャ】アプリを起動し、震える指でハンドルをタップする。
頼む、何でもいい! 今、この状況を打開できる何かを…!
画面が、これまで見たこともない虹色の光を放つ。
ガチャマシンが激しく揺れ、神々しいまでのオーラをまとったカプセルが飛び出した。
『SSSランク:主を選びし黒曜の魔剣』
スマホが消え、右手にずしりと重みが乗る。
そこに現れたのは、闇そのものを固めたような美しい漆黒の剣だった。柄には精緻な装飾が施され、刀身は周囲の月明かりすら吸い込むような深い黒。
手にしただけで、内側から力が湧き上がってくるような感覚に陥る。
(こ、これ…!)
迷っている暇はなかった。
俺は着ていたパーカーのフードを深く被り、顔を隠す。アメリカンドッグを放り出し、茂みから飛び出した。
月島に迫っていたモンスターの爪が、あと数センチで彼女の喉笛を掻き切ろうとした、その瞬間。
「――邪魔だ」
俺は、ほとんど本能のままに黒曜の魔剣を振るった。
斬ったという手応えすらなかった。ただ、一閃。
モンスターは悲鳴を上げる間もなく、まるで霞のように光の粒子となって霧散した。あまりに、あっけない幕切れだった。
静まり返る公園。残されたのは、俺と、地面にへたり込んで呆然としている月島だけ。
「…え…?」
彼女が、信じられないものを見るような目で俺を見つめる。フードで顔は隠れているはずだが、視線が突き刺さるようだ。
やばい。めちゃくちゃやばい。なんで俺、出てきちゃったんだ。
俺の脳内で警報が鳴り響く。
この剣、説明に『一定時間で消滅する』って書いてあった。早くここから離れないと!
「あ、あの…あなたは…!」
月島がか細い声で呼び止めるが、俺はそれに答えず、踵を返して全力で走り出した。
背後で何事か叫んでいる彼女の声を振り切り、夜の闇へと姿をくらます。
心臓が破裂しそうなほど高鳴っていた。
平凡な日常は、この夜、完全に終わりを告げたのだと、俺は悟った。
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