19 / 36
第1部
18.動き出す歯車
しおりを挟む休眠をしていた植物は、暖かな日差しで目を覚まし色とりどりの花々を咲かす。
あれから半年が経とうとしていた。
柔らかな日が差し込み、部屋を優しく照らす。
広いベッドにはルシアンが眠っている。
まだ目を覚まさないのだ。
「今日もお前を心配した令嬢が沢山いたぞー。あの人たちすごいよなぁ」
オレは買ってきた花を花瓶に入れる。
ベッドの横に用意された椅子に座る。
至る所に魔法陣が描かれ魔法が施されている。エリオに聞いたところ、筋力などを落とさないようにする魔法陣らしい。
ルシアンでちゃっかり研究しているのかもしれない。
「ここの魔法士、優秀だよなー……半年も経つのにお前コケてないし。早くお前と研究がしたいんだろうな」
頬をつんつん、と指で触る。
「そういえば、イザーク殿下とイザベラ様がご婚約したぞ。秋に結婚式をあげるって言ってたよ。参列してくれってさ」
オレはルシアンの手を握る。
「それとイザーク殿下がお前が研究したことを大々的に発表したんだ。もちろん賛否は分かれたけどな。それでそのままあの人な、オレたちを婚約させたんだ。聞いた時はびっくりしたよ」
握り返して来ない手を強く握る。
「……オレたち婚約したんだぜ。すごいよな。両親は喜んでたよ。お前の家族にはなんか泣いて喜ばれたけどな」
ふと、婚約発表がされた後に挨拶に伺った時のことを思い出す。 ルシアンに似た母親は泣いて喜んでオレを抱きしめてくれてた。どうやら息子の初恋が叶って嬉しかったらしい。小さい頃からオレの話ばかりしていたことも聞いた。
「お前、どんだけオレのこと好きなんだよ」
オレはベッドに顔を付け、手を握ったまま指先でルシアンの手の甲を撫でる。
「……なぁ、早く起きろよ」
ーーーお前の声が聞きたい。
静かな時間だけが流れて行く。
騎士団に戻ると1人の令嬢が会いに来た。
「レティシア・グランディールと申します。テオドール様、初めまして」
気が強そうな整った顔立ちに黒紫の髪と瞳。
グランディール侯爵家。イザベラ様との婚約の前に名前が上がっていたところだったな、と昔の記憶を辿る。
「今日はどのようなご要件で」
「ルシアン様とのご婚約、お断りして欲しいのです」
「……え」
「はーーーい!そういうお話はここでは任務の邪魔なのでやめて下さい。お嬢様?」
トリスタンが間に入って来る。
「……分かりましたわ。今日の所は帰ります」
レティシアは驚くほどあっさり帰って行った。もう少し粘りそうな令嬢に見えたのに。
「悪いな、トリスタン」
「いや、いいって。俺はこれくらいしか出来ないしな」
ここ最近、レティシアと同じようなことを言ってくる令嬢が増えた。
それもそのはずだ。ルシアンの嫁になりたい令嬢は沢山いる。そんな中、元々婚約者だったイザベラが王太子と婚約したのだ。空いた席を取りに行こうとするもまさか男に取られると思ってもみなかっただろう。
研究のことは公になったがそれでもルシアンに届く婚約の話はあまり変わらないらしい。
こればかりはもうどうしようもなかった。
イザークからこうなることは言われており、今は耐えろ、と言われたいた。
そんなこともありつつもオレは勤務終わりにルシアンの元へ向かった。
朝と帰りにルシアンの所に寄るのは今のオレの日課だった。
寂しいだろうから、と思うが結局の所、オレが顔を見たいのだ。
ルシアンの部屋の前に行くとエリオと令嬢が話をしていた。
「困ります!勝手に来られては!」
珍しく声を荒上げていた。エリオと話しているのは騎士団で会ったレティシアだった。
「エリオ、どうした?」
「テオドールさーん!!」
エリオは俺にしがみつく。レティシアはオレを睨む。
「ルシアン様に婚約者にして欲しいって伝えるんです」
「だからー、まだ目を覚ましてないって言ってるじゃないですかー!」
「それでもいいんです。許可を得ることができなくてもルシアン様のお世話は私がします!」
レティシアは頑なに折れる気配がない。
オレはレティシアが強引に入らないように扉の前に行く。
「レティシア様。さすがにここまではやり過ぎではありませんか?」
釈然とした態度で伝える。レティシアは悔しそうな顔をする。
「私、ルシアン様をずっとお慕いしていました。それなのに横から来たあなたに婚約者の座を奪われたんですよ!?」
オレは何も言えなかった。
耐えるしかない。
「それに、私なら危険な魔法を使って性別を変えなくてもルシアン様の子を産めます。だって、魔力が途切れたら性別が戻ってしまうのでしょう?子を授かったとしても無事に生まれるか分からないじゃない」
「ちょっーー!」
エリオが怒りを露わにする。オレはエリオを制しする。悔しそうにエリオが唇を噛む。余計なことを言えば爵位が低いエリオが危ないからだ。
ーーーオレはまた耐えるしかないのか?
バッと背後の扉が開く音がした。
出てきた片腕がオレの身体を引き寄せ抱きしめる。
「俺の婚約者はテオドールだ。お前じゃない」
聞き覚えのある声だった。視界が滲んでいく。
「ルシアン様!?」
エリオとレティシアの声が重なる。
「お前、グランディール家だな?お前と俺が婚約?ふざけるな。二度と俺の前に姿を現すな」
低く唸る声と威圧にレティシアは怯えた声を出し泣きながら走り去っていく。
エリオはルシアンが目覚めたことに嬉しそうだったがそっとその場を離れていく。
「……テオ」
オレの首筋にキスを落とす。
「泣いているの?」
オレは肩を震わせ泣いていた。ルシアンはゆっくりとオレの向きを変えて前から抱きしめる。
「……ごめんね。少し寝過ぎちゃったみたいだね」
ルシアンは涙と鼻水が垂れたオレの顔を両手で優しく上げる。久しぶりに綺麗で蕩けるくらい優しいエメラルドの瞳と目が合う。
「おそいんだよ、おまえっ、お前が目を覚まさない間、色々あったんだぞ」
「うん、知ってる。テオが話でくれていた話は聞こえていたよ。嬉しいことも、悲しいことも、悔しかったことも全部」
ルシアンは啄むようなキスを頬や額にしてくる。
「ずっとこうしたかった」
オレとルシアンは自然に目線を合わせ、そのまま目を閉じて口付けをする。
「……しょっぱいね」
「お前のせいだ」
ルシアンとオレは久しぶりに二人で笑った。
2
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
身代わり閨係は王太子殿下に寵愛される
雨宮里玖
BL
僕なんかが好きになっちゃいけない相手なんだから……。
伯爵令息の身代わりになって王太子殿下の閨《ねや》の練習相手になることになった平民のラルス。伯爵令息から服を借りて貴族になりきり、連れて行かれたのは王太子殿下の寝所だ。
侍女に「閨事をしたからといって殿下に恋心を抱きませんように」と注意を受け、ラルスは寝所で王太子殿下を待つ——。
アルファの王太子×厩係の平民オメガ
傷跡傭兵の強制結婚-実子かどうかはどうでもいいので義理の息子を溺愛します-
同軸
BL
前の世界で凄惨な死を迎えた傭兵であった自分、シラー・イーグルズアイは神の使徒として異世界に転移してしまう。
現地の法令の元、有力貴族であるロアイト公爵との結婚を強引にも取り付けられ急な結婚生活が始まるが、傷んだ食事を出されたり冷遇されたりと歓迎されていない様子。でも誰も殺そうとしてこないし良いか。
義理の息子が成人するまではしっかり面倒をみてその後に家を出ようと画策するが、ロアイト公爵の様子がどうにもおかしくなってきて……?
ぼくが風になるまえに――
まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」
学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。
――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。
精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。
「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」
異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。
切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。
ダレン×フロル
どうぞよろしくお願いいたします。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話
紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。
理想の彼氏はスパダリよ!
スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。
受:安田陽向
天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。
社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。
社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。
ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。
攻:長船政景
35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。
いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。
妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。
サブキャラ
長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。
抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。
兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。
高田寿也:28歳、美咲の彼氏。
そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。
義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる