天才魔法士がオレを離してくれません

湯川岳

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第1部

18.動き出す歯車

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  休眠をしていた植物は、暖かな日差しで目を覚まし色とりどりの花々を咲かす。
 あれから半年が経とうとしていた。

 柔らかな日が差し込み、部屋を優しく照らす。
 広いベッドにはルシアンが眠っている。
 まだ目を覚まさないのだ。

「今日もお前を心配した令嬢が沢山いたぞー。あの人たちすごいよなぁ」

 オレは買ってきた花を花瓶に入れる。
  ベッドの横に用意された椅子に座る。
 至る所に魔法陣が描かれ魔法が施されている。エリオに聞いたところ、筋力などを落とさないようにする魔法陣らしい。
 ルシアンでちゃっかり研究しているのかもしれない。

「ここの魔法士、優秀だよなー……半年も経つのにお前コケてないし。早くお前と研究がしたいんだろうな」

 頬をつんつん、と指で触る。

「そういえば、イザーク殿下とイザベラ様がご婚約したぞ。秋に結婚式をあげるって言ってたよ。参列してくれってさ」

 オレはルシアンの手を握る。

「それとイザーク殿下がお前が研究したことを大々的に発表したんだ。もちろん賛否は分かれたけどな。それでそのままあの人な、オレたちを婚約させたんだ。聞いた時はびっくりしたよ」

握り返して来ない手を強く握る。

「……オレたち婚約したんだぜ。すごいよな。両親は喜んでたよ。お前の家族にはなんか泣いて喜ばれたけどな」

 ふと、婚約発表がされた後に挨拶に伺った時のことを思い出す。 ルシアンに似た母親は泣いて喜んでオレを抱きしめてくれてた。どうやら息子の初恋が叶って嬉しかったらしい。小さい頃からオレの話ばかりしていたことも聞いた。

「お前、どんだけオレのこと好きなんだよ」

 オレはベッドに顔を付け、手を握ったまま指先でルシアンの手の甲を撫でる。

「……なぁ、早く起きろよ」

 ーーーお前の声が聞きたい。

 静かな時間だけが流れて行く。



 騎士団に戻ると1人の令嬢が会いに来た。

「レティシア・グランディールと申します。テオドール様、初めまして」

 気が強そうな整った顔立ちに黒紫の髪と瞳。
 グランディール侯爵家。イザベラ様との婚約の前に名前が上がっていたところだったな、と昔の記憶を辿る。

「今日はどのようなご要件で」

「ルシアン様とのご婚約、お断りして欲しいのです」

「……え」

「はーーーい!そういうお話はここでは任務の邪魔なのでやめて下さい。お嬢様?」

 トリスタンが間に入って来る。

「……分かりましたわ。今日の所は帰ります」

  レティシアは驚くほどあっさり帰って行った。もう少し粘りそうな令嬢に見えたのに。
 
「悪いな、トリスタン」

「いや、いいって。俺はこれくらいしか出来ないしな」

  ここ最近、レティシアと同じようなことを言ってくる令嬢が増えた。
 それもそのはずだ。ルシアンの嫁になりたい令嬢は沢山いる。そんな中、元々婚約者だったイザベラが王太子と婚約したのだ。空いた席を取りに行こうとするもまさか男に取られると思ってもみなかっただろう。
  研究のことは公になったがそれでもルシアンに届く婚約の話はあまり変わらないらしい。
 こればかりはもうどうしようもなかった。
 イザークからこうなることは言われており、今は耐えろ、と言われたいた。


そんなこともありつつもオレは勤務終わりにルシアンの元へ向かった。
 朝と帰りにルシアンの所に寄るのは今のオレの日課だった。
  寂しいだろうから、と思うが結局の所、オレが顔を見たいのだ。
 ルシアンの部屋の前に行くとエリオと令嬢が話をしていた。

「困ります!勝手に来られては!」

 珍しく声を荒上げていた。エリオと話しているのは騎士団で会ったレティシアだった。

「エリオ、どうした?」

「テオドールさーん!!」

 エリオは俺にしがみつく。レティシアはオレを睨む。

「ルシアン様に婚約者にして欲しいって伝えるんです」

「だからー、まだ目を覚ましてないって言ってるじゃないですかー!」

「それでもいいんです。許可を得ることができなくてもルシアン様のお世話は私がします!」

 レティシアは頑なに折れる気配がない。
 オレはレティシアが強引に入らないように扉の前に行く。

「レティシア様。さすがにここまではやり過ぎではありませんか?」

 釈然とした態度で伝える。レティシアは悔しそうな顔をする。

「私、ルシアン様をずっとお慕いしていました。それなのに横から来たあなたに婚約者の座を奪われたんですよ!?」

 オレは何も言えなかった。
 耐えるしかない。

「それに、私なら危険な魔法を使って性別を変えなくてもルシアン様の子を産めます。だって、魔力が途切れたら性別が戻ってしまうのでしょう?子を授かったとしても無事に生まれるか分からないじゃない」

「ちょっーー!」

 エリオが怒りを露わにする。オレはエリオを制しする。悔しそうにエリオが唇を噛む。余計なことを言えば爵位が低いエリオが危ないからだ。

ーーーオレはまた耐えるしかないのか?

バッと背後の扉が開く音がした。
 出てきた片腕がオレの身体を引き寄せ抱きしめる。

「俺の婚約者はテオドールだ。お前じゃない」

 聞き覚えのある声だった。視界が滲んでいく。

「ルシアン様!?」

 エリオとレティシアの声が重なる。

「お前、グランディール家だな?お前と俺が婚約?ふざけるな。二度と俺の前に姿を現すな」

低く唸る声と威圧にレティシアは怯えた声を出し泣きながら走り去っていく。
 エリオはルシアンが目覚めたことに嬉しそうだったがそっとその場を離れていく。

「……テオ」

オレの首筋にキスを落とす。

「泣いているの?」

オレは肩を震わせ泣いていた。ルシアンはゆっくりとオレの向きを変えて前から抱きしめる。

「……ごめんね。少し寝過ぎちゃったみたいだね」

 ルシアンは涙と鼻水が垂れたオレの顔を両手で優しく上げる。久しぶりに綺麗で蕩けるくらい優しいエメラルドの瞳と目が合う。

「おそいんだよ、おまえっ、お前が目を覚まさない間、色々あったんだぞ」

「うん、知ってる。テオが話でくれていた話は聞こえていたよ。嬉しいことも、悲しいことも、悔しかったことも全部」

  ルシアンは啄むようなキスを頬や額にしてくる。

「ずっとこうしたかった」

オレとルシアンは自然に目線を合わせ、そのまま目を閉じて口付けをする。

「……しょっぱいね」

「お前のせいだ」

 ルシアンとオレは久しぶりに二人で笑った。



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