天才魔法士がオレを離してくれません

湯川岳

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第2部

2.ルシアンという男

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 ルシアンが目が覚め、レティシアの件が令嬢達に広まったのか婚約の話は静かになっていった。
 そんないつも通りに穏やかな日々が続いていたある日。
 オレは仕事終わりにヴァルディウス公爵家に訪れていた。立派な佇まいをしており、広がる庭園はルシアンの母の趣味だった。

「いらっしゃい、テオドールちゃん」

 ルシアンと同じ白銀の髪にアメジストの瞳を持った可愛らしい女性。
 このヴァルディウス公爵家の現公爵夫人だ。オレをちゃん付けで呼ぶのは昔からだ。やめてくれ、と言ってもやめないので諦めている。

「ルーナ様、今日はお招き頂きありがとうございます」

「そんな畏まらないでよ~」

 ルーナと共に食堂に向かうと既に家主であるアンドリュー・ヴァルディウス公爵がいた。ブラウンの髪にエメラルドの瞳。強面の顔をしているがとても優しい人だ。
 そしてもう1人、ルシアンの弟のアンデルが座っていた。彼はまだ若く学生だ。無口だがルシアンを慕っている。
 ルシアンはまだ魔法塔なの姿は見えなかった。
 軽く挨拶をし、席に座ると美味しそうな料理が出てくる。

「沢山食べるのよ?ルシアンには今日、テオドールちゃんが来るって言ってないのよー」

「……え」

「だって、いるとテオドールちゃんとお話させてくれないし」

 思い返せば前から遊びに来たとしてもルーナとあまり会話をしていなかった。食事は外で済ませて、ルシアンと一緒にお風呂に入って帰るということがほとんどだったからだ。婚約してからは食事に呼ばれたとしてもルシアンがオレに喋りかけてルーナと喋る隙も与えていなかったからだ。

「そういえば、そうでしたね」

「ルシアンが迷惑かけてない?」

「あー……迷惑はかけていないんですがルシアン自身のことを誤魔化されますね」
 
 ルシアンのことは親友としての仮初の顔しか知らなかったのだ。小さい頃から一緒にいたが苦手なものが見つからない。それに特別好きな食べ物があるわけでもない。

「あの子はそういう所あるわよね~。かっこつけてるのよ」

「意外ですね」

 思わず食事の手を止める。

「学生の頃に喧嘩したことあったでしょ?絶交とか嫌いって言われたってずーっと落ち込んでたわよ。ちょっと泣いてたかしら。1ヶ月くらいメソメソしてたわよ」

「泣いてたな」

 ルーナの話にポツリとアンドリューも頷く。意外だった。学生の頃、喧嘩したことが1度あるがルシアンは平然とした態度で生活していたのだから。
 意外な真実を知ってしまった。

「テオドールちゃん、甘いもの好きでしょ?」

 はい、と頷く。よくヴァルディウス家を訪れては食べさせてもらっていた。ルシアンもよく食べていた気がする。

「あの子、甘いの苦手なのよー」

「え!?」

「そういう見えを張るのよ。元々そういう
ところがあるから。もー、ルシアンったら。テオドールちゃんと喧嘩して嫌われたら死んじゃいそうなのに。何をしてるんだか」

 オレは言えなかった。もう「嫌い」と言ってルシアンが死にかけていることを。

「母上。この前、喧嘩してすでに死にかけてますよ」

 アンデルがポツリと呟く。
 そうだったわー、と穏やかなルーナの声がオレの頭の中を過ぎ去っていく。

「なんで知っているんですか?」

「それはねーーー」

 ルーナが喋る前に扉がバンッと開く。ルシアンが苛立った様子で入ってくる。

「……母上、テオが来るならそう言ってもらわないと困ります」

 「あら、未来の息子と仲良くなってもいいでしょ?いつも貴方が邪魔するからよ?」

  ルシアンはオレの横に座る。よっぽど教えて貰えなかったのが悔しかったのか少し不貞腐れているように見えた。
 オレが気付いていなかっただけで、ルシアンは案外分かりやすいのかも知れない。
 ふふ、とオレが笑うとルシアンは不思議そうにオレを見ていた。


 オレたちは食事を済ませ、屋敷から少し離れた別邸に来ていた。
 日が沈みそうな中、ウッドデッキのソファに座り外で走る3匹の魔獣であるビックキャットを眺める。外で遊び疲れたのか帰ってくると足にまとわりついたくる。この子達はルシアンが研究と実験のために捉えた魔獣だ。一回り小さい魔獣は研究によって生まれた子。
 彼は根本的に優しいのだろう。殺すことをせず飼育し世話をし、懐かれているのだから。

「……ルシアンはさ、甘いもの苦手だったんだな」

「母上から聞いたの?」

「うん。だってお前教えてくれないからさ」

 ビックキャットを撫で撫でる。ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らす。

「苦手なこととかさ、嫌なこととか、好きなこととか、やっぱちゃんと知りたいよ。……オレたち家族になるんだろ?」

  ルシアンは悩んでいるようだった。
 ずっと隠し通していた自分をさらけ出すのは少し怖いのかもしれない。

「ごめん、急には無理だよな。いいよ、待ってる」

 夕日が沈み、ウッドデッキに置かれた光魔法が綺麗に輝き始める。
 ルシアンは小さな声で恥ずかしそうにポツリポツリ話し始めた。

「……好きなことは、やっぱりテオばかりだよ。苦手なのは6本足の魔獣と甘いもの」

「あー、6本足ね、デカいしオレも苦手だわ」

 恥ずかしくなったのかオレの肩に顔を隠す。

「オレの前では見せてくれよ。ルシアンのこと。もちろんそれで喧嘩をすることがあるとは思うけど、オレを離さないんだろ?」
 
「……うん、絶対離さない」

「そもそも、最近のお前はかっこ悪いところばっかだから。少しは見せてくれてるのかもなー」

 肩に置かれたルシアンの頭に自分の頭をコツンと当てる。

「かっこ悪いルシアンも好きだよ」

「テオはずるいなぁ……」

   

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