悪役令息はケアをご所望です ー妹よ、取り扱い説明書下さいー

湯川岳

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第4話 まさか、なんで、どうして


 外の景色がオレンジ色に染まる頃。
 俺は仕事の片付けをしていた。書類を整理していると、鼻歌を歌ったレオニー隊長が入って来た。

「どうしたんですか」

「君たちデートでも行くの?」

 君たち、ってどういうことだ。

「もう他の騎士達がイシュタルグの次男坊の姿を見て驚いてたよー」

 イシュタルグの次男坊。
 それ、ハイネじゃないか?
 なんで、騎士団まで来た。

「……ああ」

 俺は今朝のことを思い出し、額に手を置いた。俺だ。仕事が終わったら買いに行こうって言った。来たということはつまり、いい花瓶がなかったんだな。
 というか、俺は迎えに来いなんて言ってないぞ。

「俺、もう上がりますね」

「いってらっしゃーい」

 レオニー隊長が楽しそうに手を振って送り出す。騎士団の建物を出ると、本当にハイネがいた。

「イシュタルグの悪魔だ」

「意外と可愛いな」

 俺はハイネを見ていた奴らを睨んだ。
 ハイネが困るだろ。
 馬車の中に入るとハイネの顔は青かった。無理して来たんだろう。しかもちゃんとおしゃれまでしている。俺はハイネの横に座った。
 握りしめられたハイネの手に触れる。とても冷たかった。そんなに緊張していたのか。無理しなくて良かったのに。
 てか、本当になんで来たんだよ。

「ただいま、ハイネ」

「あ、う……おかえり、なさい」

 青かった顔が赤くなる。忙しいやつだ。

「花瓶、買いに行こうか」

「……うん」

 なんか、ここ二日ぐらいでだいぶ丸くなった気がする。そういうもんなのか?
 それにしても狭い空間のせいか、ハイネの甘い匂いがすごい。発情期来てないよな。
 ハイネの薄い唇が目に入る。ほんのり頬を染めて、目が伏せられていて可愛さの中に色気が混じっていた。
 うわ、めっちゃキスしたくなる。脳が麻痺する感覚に俺は耐えられず景色を見た。




 街に着く頃には、だいぶ日が落ちていた。俺たちは雑貨屋に入り花瓶をいくつか見る。
 屋敷ではあんなにメイド達に怒鳴ったりしているのに、外では人の目が気になるようだった。

「ハイネ、大丈夫だから」

 冷たくて震える手を握り、俺に寄せる。

「そんなに周りが怖いなら俺だけを見てればいい」

 毎日顔を合わしている俺の顔だったら安心するだろ。
 ハイネの手の震えが止まった気がする。
 花瓶、いいのねぇなぁ。ピンクとかしかないじゃん。きっとハイネが欲しいのは濃い青だろ。

「……ギルバート」

 初めて名前を呼ばれた気がした。横を見るとハイネが一つの花瓶を指さしていた。上の方に青色の中にオレンジが混じった花瓶があった。
 ハイネ、センスないな。あんなのでいいのか。
 俺は手を伸ばし、ハイネに渡す。嬉しそうに微笑む。
 俺の心臓が少しだけ、じわり。と熱くなった気がした。
 屋敷でもそんな穏やかでいてくれたらいいのにな。
 支払いを済ませて外に出ると、ちょうど知らない貴族が馬車から降りて来ていた。

「あれ、イシュタルグのオメガだろ」

「違うわ、イシュタルグの悪魔よ。わがままでどうしようもないって噂の。本当に嫁いだのね」

 貴族でオメガが蔑まれているのは知っていたが、ハイネはオメガどうこうじゃなくて、人間性自体嫌われている。

「私は君が花嫁で幸せだよ」

 なんだこいつら。こっちが何も言わないからって、ベラベラと。

「……失礼?俺の嫁をそんな変な呼び名で呼ばないでくれます?」

 思わず苛立ってしまった。ハイネは確かに性格に難があるし、困ったことばかりする。
 だが、それもこれもアルファが多い貴族がオメガを恐怖し、嫌悪するからだ。家族から蔑まれなかったらハイネだってここまで捻くれていない。

「俺の嫁は気高く、本音を隠さないだけなので……貴方方みたいにコソコソとみっともなくない」

 嘘だけど。

 俺は繋いだハイネの手にキスを落とす。

「では、失礼」




 あー、やった。やっちまった。
 嫁って言っちまった。奥さんの方が良かったのか?それとも妻か?
 いや、どっちにしろやっちまった。
 馬車に揺られながら、さっきの啖呵を思い出す。
 くそ恥ずかしい。だが、あんな馬鹿みたいな貴族にハイネが色々言われて悔しかった。
 自分達がいけない、ということに気付いていない。
 ハイネだって、他のオメガもそうだがなりたくてなったわけじゃない。それを嫌悪し、罵るのはお門違いだ。
 でも、まあ、ぶっちゃけ分からなくもない。この前まで俺もあの貴族達と一緒だったのだから。この甘ったるい匂いは確かに毒のようだ。
 顔を赤くし、俺の横に座るハイネの首を見る。
 噛みつきたくはなるよな。

「気に入ったのか、その花瓶」

 ハイネは大事にセンスの悪い花瓶が入った箱を抱きしめていた。

「うん」

「顔、赤いけど……大丈夫か?」

 指で頬をそっと撫でる。肩を震わせたハイネは俺を見上げてくる。

 うわ、これはやばいな。

 潤んだ瞳が、甘い匂いが、薄い唇が、俺の中の何かを掻き立てる。
 ハイネ側の扉に手を付き、身を屈ませる。

「ギルバー、ト」

 上擦った声が聞こえる。唇にハイネの吐息がかかった。
 ガタッと馬車が止まる。

「……すまない。屋敷に着いたみたいだ。お腹が空いただろ?早く夕食にしよう」

 俺は何をしようとしたんだ。あの唇にキスをしたくなった。
 あんな顔するハイネがいけない。あれは反則だ。
 
 その日の夕食はとても気まずかった。










 
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