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目蓋が重くなってきた。慣れない環境にいるため、疲れているのかもしれない。

「一周忌はどうだったの?」

「普通がどうなのか分からないけど、滞りなく終わりましたよ」

「問題なく?」

質問されて、俺はある事を思い出した。


「そういえば、1人変わった人がいた」

「どんな?」

「ずっとニタニタしててキミが悪いなと思ったくらいかな」


お経が挙げられている時も、帰る時もずっと笑っていた。


一周忌は、山根の実家近くにある寺で行われた。

「参列者は15人ほど、多くもなく少なくもなくと感じていたので、恐らく身内なんじゃないかなと思ったけど」

「身内ねぇ。どんな人?」

「年齢は40後半くらいだったかな。運動してるのか肉付きのいい体格の男だった」

男はスマホをいじりながら、おれの話を聞いていた。

「他に特徴は?」

「髪型は、短髪で少し茶色味がかっていた」

男の動きがピタリと止まる。

「もしかして、この人?」

差し出されたスマホには、一周忌に参列していた男が写っていた。

「なんで??」

「当たり、か!」

誇らしげに笑みを浮かべながら男は饒舌に語り始める。

「笹賀屋健吾って言うんだ。分かる?さすがに分かるよね」

「ささがや保育園の園長の旦那か?」

「さすが、ご名答。そこがつながると、ニヤニヤしていたのも、理由は分かるよね」

ーーささがや保育園事件

山根が書いた事件の一つだ。

「園長の虐待をすっぱ抜いた山根は、笹賀屋の旦那に恨まれてるって事か」

「ご名答」

通りでニヤニヤしていた訳だ。

「もしかして、逆恨みした笹賀屋が山根を殺したとか」

考えるより先に口から言葉が漏れる。

「残念。彼にはアリバイがあるから無理なんだな、これが」

男はグラスの中身を飲み干し、同じ物をとマスターに注文した。

「とは言え、逆恨みってのは、殺害動機に充分なるなぁ」

新しいグラスを男は受け取りながら呟く。

「君だってそうさ」

「俺も?」

突然の白羽の矢に目を丸くする。

「例えば、君のネタを山根さんが奪ったりしたら、殺意を覚えるだろう?そんな経験あるんじゃないかなぁ」

男の言う事に、俺はある出来事を追い出した。

「基本的に、ネタを追ってる間は、ネタの話はしないんだ」

「そうだろうねぇ。でも、山根さんがそのネタに気付いて横取りしたとしたら?」

「それはない!」

山根に限って、そんな事はしないはずだ。

つい口調が強くなり、鼻息が荒くなる。

「落ち着けよ。例えばって事だし・・・もしかして、そんな事があったのか?」

俺は何も言えなかった。

「良かったら、話してくれよ。もう一杯奢るからさぁ」

「あれは・・・偶然だったと思う」

「偶然?何か引っかかっているから、熱くなるんだろ」

何倍目かのグラスを受け取りながら、俺は過去の記憶をたどった。

「随分前になるけど、俺は未解決の行方不明事件を追っていた」

ふうんと相槌を打ちながら音は黙って頷く。

「進展がなく、風化を防ぐのもあって取材していたら、たまたま新しい目撃証言を手に入れたんだ」

グイッと酒を流し込む。もう味なんてよくわからない。

「トクダネになるかもと思っていたら、山根が先にすっぱ抜いたんだ。アイツも言ってた、事件を過去のものにしたくなく取材してたって」

「もしかして、橘花麗華ちゃん誘拐事件だね」

「ああ」

新しい目撃証言も虚しく、まだ犯人は捕まってはいない。

「新証言ってのは、どんなの?」

「数日前からスーツ姿の男を見たって、近所の人が言っていたが、顔までは覚えていなかった」

「それで、まだ取材は続けてるの?」

俺は横に首を振る。酔いのせいか頭がグワンと回る感覚に襲われた。

「その後も山根は事件を追っていたみたいだけど、記事にはなってなかった」

「迷宮入りってとこかぁ」

残念そうに男は言った。

「あれは偶然、同じネタを取材しただけだ」

自分に言い聞かせるように俺は呟いた。

「まぁ、たまにはネタが被ることもあるよなぁ」

慰めのような男の言い方が、胸にチクリと突き刺さる。

「そうだ。偶然だ」

痛みを紛らわしくて俺はグラスを空にした。

「俺だったら、許せないけど。君は心が広いんだねぇ」

「そんなんじゃないですよ」

苛立つ感情を抑えつつ、静かに答えた。






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