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バー DUSK
翌朝
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「あいたた・・・」
ホテルの部屋の中、俺は頭を抱えた。
二日酔いになったようだ。
重たい身体を引きずりながら荷物をまとめる。
次はいつ来れるか分からない。
帰りにもう一度、山根に線香をあげに行こう。
チェックアウトをし、山根宅に向かうと居間へと通された。
線香をあげ、お茶を頂いた俺に、山根の母親は封筒を差し出す。
「息子も、あなたに渡して貰いたいと思うので」
聞けば、警察から戻って来たUSBメモリらしい。
「息子が書いてた記事のデータらしいの。貰ってくれるかしら」
俺は受け取り、山根の家を後にした。
山根が追っていた事件の中に、彼が殺害された理由があるかもしれない。
そう思っていたが、帰宅し一番にデータわ、確認したものの、殺される理由になりそうなものは無かった。
彼は通りすがりの阿佐ヶ谷に殺された。
それがデータを見た俺の答えだ。
暗くなった自室で、俺は両手を天井へ伸ばし、大きく伸びをする。
しかし、何かが引っかかる。
バーで会った男の言葉に惑わされているだけだろうか。
本当に偶然の出会いだったのだろうか。
疑い深い性格は、この仕事のせいなのかもしれない。
昨夜の記憶を辿ってゆく。
グラスを持ち、静かにカウンターに座る男。時折見せる笑みは、どこか冷たい印象を残していた。
「スーツ・・・」
ふと俺の脳裏に、あの時話した事件が蘇る。
橘花麗華ちゃん殺害事件。
棚からメモ帳を取り出し、近所の住人から貰った新証言を探す。
『事件の1ヶ月くらい前から、スーツを着た30代くらいの男が目撃されていた。
顔は覚えておらず。
時々近くの公園にあるベンチに座ってコーヒーを飲んでいた。
ただの休憩の可能性もあり』
走り書きのメモに視線を落とし、俺は確信した。
これだ!間違いない。
メモを取っていた時、目撃者はペンを持つ俺を見て男の存在を思い出したのだ。
「そういえば、その男も缶コーヒーを左手に持っててね。なーんか違和感あったんだよ」
俺の事を見ながら目撃者は、そう言った。
バーで会った男ーー
自分もそうだから気付かなかったが、男も左利きだった。
スーツ姿の左利きの男。
山根に詳しい男。
これらは、偶然なのだろうか。
いてもたってもいられなくなり、俺は昨夜行ったバーの電話番号を調べる。
もし、この事件の犯人が、バーの男なら、記事を書いた山根を殺害する動機もある。
「はい。バーDUSKです」
「昨日、お店に行った者ですが」
はぁ、と電話口から初老の男が返事をする。
「昨日、カウンターに2人座っていたのですが、覚えていますか?」
「ええ。スーツの方とTシャツを着た方ですね」
「そうです!俺はTシャツを着てた方です」
ああ、と相槌の声が明るくなる。
「こんな古びたバーに、ご新規様が2名もいらっしゃる事など、ほとんど無いので覚えてますよ」
俺は息を飲んだ。
「ご新規様・・ですか?」
「老いぼれてはおりますが、一度来られた方なら、忘れません」
お客様も少ないですし、と電話口で笑う。
あの男も初めて来ていたのか?
「あの、スーツの男性は?」
「はい。初めて来られた方ですよ。昨夜はありがとうございました」
「連絡先とか、分からないですよね?」
「お忘れ物とか、ありましたか?」
「いや。ないです。すみません」
あの男は、常連のような素振りをみせていた。
いや、初めて来たのか聞かれた俺が、勝手にそう思い込んだのかもしれない。
山根と俺が橘花事件のネタを追っていた事も知っていた。
そこまで考えた俺はハッとした。
俺は新証言を、あの男に話してしまった。
もし、アイツが犯人だとしたら、山根を殺したのもアイツか?
では阿佐ヶ谷が何故逮捕された?
思い出せ、昨日どの事件の話をした?
記憶を辿ろうとすると、二日酔いで頭が痛む。
川口美兎ストーカー事件。
ささがや保育園事件。
話していない事件で、阿佐ヶ谷、山根、そしてアイツがつながる事件はないか?
俺にもつながる何かがあるのか?
頭の中には疑問しか浮かばない。
もう一度PCに戻り、山根のデータを徹底的に洗う。
俺が調べた中に阿佐ヶ谷の名前は無かった。
「頼むぞ、山根。教えてくれ」
山根のデータは、かなり細かく、フォルダ毎に資料が几帳面にまとめられている。
裏付けのためだけにしては、多すぎる量のデータに一つ一つ目を通す。
ストーカー事件では、膨大な動画も残っていた。
合法な資料だけではなさそうな事は、すぐに分かったが、それに拘っている場合ではない。
どれくらいの時間が経っただろうか。
ディスプレイの一点に俺は釘付けになった。
『阿佐ヶ谷香奈』
それは、何処から入手したのか怪しい、ささがや保育園の児童一覧名簿の中にあった。
「ささがや保育園事件の被害者の親なのか?」
被害者なら殺害どころか、山根に感謝するものじゃないか。
俺は阿佐ヶ谷に会った時の事を思い出そうとする。
山根の事は知らない。
ただ、倒れていた人を助けたかったんだ。
憔悴しきった顔でそう彼は言っていた。
もし、山根が事件の事を深掘りするあまり、阿佐ヶ谷にも取材していたとしたら・・・
この資料の量を見ると、可能性は有る。
そうなると阿佐ヶ谷は、俺に嘘をついていた事になるのだが、どちらが真実かは分からない。
「他にヒントはないか」
PCにかじりつき、目を皿にする。
ーーピンポーン
チャイムが鳴るが、俺は無視をして探し続けた。
ーーピンポーン ピンポーン
うるさいなぁ。
時計に目をやると、時間は23時を過ぎていた。
こんな時間に誰だよ。
俺はモニターフォンのボタンを押し、ぶっきらぼうに返事をする。
「はい」
「やぁ!こんばんは」
モニターに映されたのは、アイツの顔だった。
ホテルの部屋の中、俺は頭を抱えた。
二日酔いになったようだ。
重たい身体を引きずりながら荷物をまとめる。
次はいつ来れるか分からない。
帰りにもう一度、山根に線香をあげに行こう。
チェックアウトをし、山根宅に向かうと居間へと通された。
線香をあげ、お茶を頂いた俺に、山根の母親は封筒を差し出す。
「息子も、あなたに渡して貰いたいと思うので」
聞けば、警察から戻って来たUSBメモリらしい。
「息子が書いてた記事のデータらしいの。貰ってくれるかしら」
俺は受け取り、山根の家を後にした。
山根が追っていた事件の中に、彼が殺害された理由があるかもしれない。
そう思っていたが、帰宅し一番にデータわ、確認したものの、殺される理由になりそうなものは無かった。
彼は通りすがりの阿佐ヶ谷に殺された。
それがデータを見た俺の答えだ。
暗くなった自室で、俺は両手を天井へ伸ばし、大きく伸びをする。
しかし、何かが引っかかる。
バーで会った男の言葉に惑わされているだけだろうか。
本当に偶然の出会いだったのだろうか。
疑い深い性格は、この仕事のせいなのかもしれない。
昨夜の記憶を辿ってゆく。
グラスを持ち、静かにカウンターに座る男。時折見せる笑みは、どこか冷たい印象を残していた。
「スーツ・・・」
ふと俺の脳裏に、あの時話した事件が蘇る。
橘花麗華ちゃん殺害事件。
棚からメモ帳を取り出し、近所の住人から貰った新証言を探す。
『事件の1ヶ月くらい前から、スーツを着た30代くらいの男が目撃されていた。
顔は覚えておらず。
時々近くの公園にあるベンチに座ってコーヒーを飲んでいた。
ただの休憩の可能性もあり』
走り書きのメモに視線を落とし、俺は確信した。
これだ!間違いない。
メモを取っていた時、目撃者はペンを持つ俺を見て男の存在を思い出したのだ。
「そういえば、その男も缶コーヒーを左手に持っててね。なーんか違和感あったんだよ」
俺の事を見ながら目撃者は、そう言った。
バーで会った男ーー
自分もそうだから気付かなかったが、男も左利きだった。
スーツ姿の左利きの男。
山根に詳しい男。
これらは、偶然なのだろうか。
いてもたってもいられなくなり、俺は昨夜行ったバーの電話番号を調べる。
もし、この事件の犯人が、バーの男なら、記事を書いた山根を殺害する動機もある。
「はい。バーDUSKです」
「昨日、お店に行った者ですが」
はぁ、と電話口から初老の男が返事をする。
「昨日、カウンターに2人座っていたのですが、覚えていますか?」
「ええ。スーツの方とTシャツを着た方ですね」
「そうです!俺はTシャツを着てた方です」
ああ、と相槌の声が明るくなる。
「こんな古びたバーに、ご新規様が2名もいらっしゃる事など、ほとんど無いので覚えてますよ」
俺は息を飲んだ。
「ご新規様・・ですか?」
「老いぼれてはおりますが、一度来られた方なら、忘れません」
お客様も少ないですし、と電話口で笑う。
あの男も初めて来ていたのか?
「あの、スーツの男性は?」
「はい。初めて来られた方ですよ。昨夜はありがとうございました」
「連絡先とか、分からないですよね?」
「お忘れ物とか、ありましたか?」
「いや。ないです。すみません」
あの男は、常連のような素振りをみせていた。
いや、初めて来たのか聞かれた俺が、勝手にそう思い込んだのかもしれない。
山根と俺が橘花事件のネタを追っていた事も知っていた。
そこまで考えた俺はハッとした。
俺は新証言を、あの男に話してしまった。
もし、アイツが犯人だとしたら、山根を殺したのもアイツか?
では阿佐ヶ谷が何故逮捕された?
思い出せ、昨日どの事件の話をした?
記憶を辿ろうとすると、二日酔いで頭が痛む。
川口美兎ストーカー事件。
ささがや保育園事件。
話していない事件で、阿佐ヶ谷、山根、そしてアイツがつながる事件はないか?
俺にもつながる何かがあるのか?
頭の中には疑問しか浮かばない。
もう一度PCに戻り、山根のデータを徹底的に洗う。
俺が調べた中に阿佐ヶ谷の名前は無かった。
「頼むぞ、山根。教えてくれ」
山根のデータは、かなり細かく、フォルダ毎に資料が几帳面にまとめられている。
裏付けのためだけにしては、多すぎる量のデータに一つ一つ目を通す。
ストーカー事件では、膨大な動画も残っていた。
合法な資料だけではなさそうな事は、すぐに分かったが、それに拘っている場合ではない。
どれくらいの時間が経っただろうか。
ディスプレイの一点に俺は釘付けになった。
『阿佐ヶ谷香奈』
それは、何処から入手したのか怪しい、ささがや保育園の児童一覧名簿の中にあった。
「ささがや保育園事件の被害者の親なのか?」
被害者なら殺害どころか、山根に感謝するものじゃないか。
俺は阿佐ヶ谷に会った時の事を思い出そうとする。
山根の事は知らない。
ただ、倒れていた人を助けたかったんだ。
憔悴しきった顔でそう彼は言っていた。
もし、山根が事件の事を深掘りするあまり、阿佐ヶ谷にも取材していたとしたら・・・
この資料の量を見ると、可能性は有る。
そうなると阿佐ヶ谷は、俺に嘘をついていた事になるのだが、どちらが真実かは分からない。
「他にヒントはないか」
PCにかじりつき、目を皿にする。
ーーピンポーン
チャイムが鳴るが、俺は無視をして探し続けた。
ーーピンポーン ピンポーン
うるさいなぁ。
時計に目をやると、時間は23時を過ぎていた。
こんな時間に誰だよ。
俺はモニターフォンのボタンを押し、ぶっきらぼうに返事をする。
「はい」
「やぁ!こんばんは」
モニターに映されたのは、アイツの顔だった。
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