リアナ1 王冠の竜騎手と心臓のない英雄

西フロイデ

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5 王都タマリス

第29話 試される王 3

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「なんだか、御座所もばたついてるみたいね」
 さっきの説明からして、副神官長もまた今の地位に就いて短いのではないか、とリアナは想像していた。フィルも同じ意見だ。
「あなたの即位にあわせて大神官も代替わりするそうですから、派閥も混乱しているのかもしれませんね」

 リアナとフィルは、儀式の間を一時離れて、二人で書庫に向かっているところ。
 なぜ竜騎手たちがいないのかと言えば、水浸しの床を乾かすために貸してくれ、と神殿側から頼まれたからだ。神官たちの多くは、青と黄のライダーもしくはコーラーで、それぞれ医術や占星術などに優れるが、黒竜のような炎を操る竜術は使えないということらしい。

 案内の説明によれば、建物は大きな円形となっていて、中心部に祭儀場、外周部に宝物や史料を保管しているということだった。そのなかの西の一角に向かってリアナは歩いていく。明り取りの窓から中心部に向かって光が差し込み、祭壇のあたりは昼の明るさだが、カーブ上に配置された書架のあたりは薄暗かった。
「あっ……」
 リアナが声をあげるより早く、仔竜が肩からぴょんと跳び下りて廊下を駆けていく。
「だめよ、ルル……迷っちゃうんだから」
 リアナは小走りで追いかけた。見失うほど小さいわけではないが、こんないたずら仔竜を貴重な書庫で野放しにするわけにはいかない。

「待ちなさい!」
 小さな背を急いで追う。尻尾を左右に揺らしてバランスを取りながら、ちょろちょろとすばしこく動くので油断ならない。「ルル!」

「やあ、珍しいお客さんが」
 薄闇の書架から声がした。リアナは人影に近寄っていく。書架用の梯子はしごに腰かけて本を読んでいるような形の影だ。
「ごめんなさい、その仔竜、ちょっと捕まえてもらえますか」

 すると、「よいしょ」とのんびりした声とともに、人影が立ちあがってレーデルルの腹を持ち上げた。
「元気な白竜だ。……きみの?」
 窓のほうに数歩、踏み出したので、昼の光が落ちて人影の顔が見えた。年齢も背丈もリアナと同じくらい。柔らかそうな栗色の髪をした、聡明な顔つきの少年だった。仔竜は捕まったせいか、走り回って満足したのか、おとなしくリアナの腕に戻った。
「本を汚すまえでよかった、ありがとう」

「仔竜と護衛つきとは、どこのお姫さまが来たのかな」
 少年が面白そうに問うた。リアナはちらりとフィルを見た。四角四面なデイミオンあたりなら無礼をとがめそうだが、フィルはなんとでもとれる笑顔を作ってみせただけだった。
「えーと」
 いまだに慣れない立場を口にすべきか迷ったが、やめておく。この少年の話を聞きたいという気持ちのほうが先に立った。なるべくなら、嘘にならない範囲で……。
「わたしはリアナ、この竜はレーデルルって言うの。この人は護衛というか……友達というか……」
「友達なんてひどいな、ちょっと傷つきますよ」フィルがおかしな冷やかしをした。

「そう。僕はファニーと呼ばれてる。どうぞよろしく」二人は握手をした。
「ファニー? 変わった名前ね。……ここで働いているの?」
 少年の簡素な服は、下働きといっても通りそうなものだった。フード付きの白い長衣に、黒いレギンス、やわらかそうな革のブーツ。
「うん」少年はにっこりした。「そんなところ。……きみは?」
「えっと、わたしは、最近来たばっかりなの」
「後ろの彼は違うみたいだけどね」ファニーはやんわりと言った。
「まあ僕も、同じような感じ」

「ここの史料って、どんなものがあるの? 昔のこととかわかる? 戦時中のこととか」
「戦争って、先のイティージエン戦役のこと?」
 リアナがうなずくと、ファニーは「そうだね……」と、ぐるりと首をまわして書架を眺めた。
「ここに収めてあるのは、建国初期からの王国記。航海記録や地図、五公十家の家系図に、大陸の他の国についての伝聞記録もあるかな。王城からの問い合わせがあったらすぐ貸し出せるように、こうして整理してある。……でも、戦時中の史料なら、まだ製本されていないものも多くて、また別の場所になるよ」
 よどみなく言う少年に、リアナは感心した。「詳しいんだ?」
「まあね」ファニーは肩をすくめた。「僕はここの本の管理を任されている……ようなものだから」
 彼の言葉にも、当たり障りないように濁した部分が少しばかりあるようだ。
 ともかく、それはありがたい、とリアナは思った。いい時にいい人物に出会ったわけだ。
「あのね、わたし調べたいことがあって。もしよかったら、手伝ってくれない?」
「もちろんだよ。喜んで」
 少年は意味ありげな間をおいた。「でも、たぶん君のが無事、終わってからがいいんじゃないかな?」



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