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6 あらわになる陰謀
第32話 フィルバートをめぐる冒険 5
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葬儀が終わるのを見送ると、竜車が待つ通りまで送る、とテオが申し出て、二人は少しの間並んで歩いた。
「よかったんですか?」
何気ない顔でそう尋ねる。「〈隠れ里〉は全滅したと聞きました――あんたが里から持ち出せたものは、少ししかないでしょうに」
「いいの」
通りを抜ける風に夜の匂いが混じる。メドロートが貸してくれた外套は彼女には大きすぎたが、それでもありがたい暖かさだった。リアナは襟もとをかき合わせた。
「あんたが王になれば、もっと大勢の兵士の死に立ちあうでしょう。そのたびに、大事なものを手放すわけにはいきませんよ」
「――王様に向いてないって言いたいんでしょ。いいわよ。自分が一番わかってるんだから」
テオの言っていることは正しい。彼の口調に、ここにはいないフィルバートが重なる。なんとなく、彼も同じことを言いそうな気がした――あるいは、彼が言いそうなことをテオがあえて代わりに言っているようにも思えた。
きっと、今日ここに彼女が来ることも、彼は望んでいなかっただろう。
(フィル、どこにいるの?……たとえそうでも、フィルの口から聞いて確かめたいよ)
「あなたにお願いがあるのよ、テオバール・ギューデン」
もっと信頼を得てから切りだすべきだろうと思ったが、その時間がない。
目の前の兵士となにひとつ通い合うものが生まれてはいなかったが、タイミングが今しかない。
「そのためのパフォーマンスですか? 憐れみ深い王太子を印象付けるための?」
否定するつもりはリアナにはなかった。テオは捕食者のような顔で笑い、「まあ、聞くだけ聞きましょうか」と言った。
♢♦♢
階下の音楽とざわめきが、暗い部屋にも忍びこんでいる。アーシャは自分に与えられている部屋に、フィルをともなって戻った。大戦の英雄は、周囲にそれと気取らせることもなく、かいがいしくアーシャの世話を焼いてくれる。ケープと扇子を片づけ、身体を締めつけるコルセットのひもを緩め、足元から固いヒール靴を抜くのを、アーシャは当然のように眺めていた。
フィルは侍女から彼女の身の回りの品を受け取ると、それらをあるべき位置に置いていく。ドレスガウン、香水、入浴時の石鹸や香油、彼女の好む砂糖菓子や甘いワイン。
趣味の悪い、狭い部屋だこと、と、アーシャは形の良い鼻をしかめた。
御座所にしつらえてあった彼女の部屋は、こんなものではなかった。真珠とサンゴで飾られた椅子に、アエディクラ産の絹がふんだんにあしらわれたクッション、ソファ、象嵌された磁器の壺……懐かしく思いだす。
「あの学者先生を見た? フィル」立ち動くフィルの背中に、アーシャは語りかけた。
「あなたの顔を見たときの彼ったら……」
冷笑とは思えない、鈴のような笑い声だ。
「ええ、じつに見ものでしたね」
「あの『黄金のマリウス』がエリサ王へのクーデターを企ててから、およそ二十年……黄竜のライダーたちは冷遇されている。餌を与えれば、絶対に食いついてくると思っていた」
その読みは当たっていた。
フィルはゆったりと部屋を渡ってくると、彼女にゴブレットを手渡した。
「ワインはいかがですか? あなたのために、アーマ産の翠蜜ワインを手に入れたんですが」
「よかったんですか?」
何気ない顔でそう尋ねる。「〈隠れ里〉は全滅したと聞きました――あんたが里から持ち出せたものは、少ししかないでしょうに」
「いいの」
通りを抜ける風に夜の匂いが混じる。メドロートが貸してくれた外套は彼女には大きすぎたが、それでもありがたい暖かさだった。リアナは襟もとをかき合わせた。
「あんたが王になれば、もっと大勢の兵士の死に立ちあうでしょう。そのたびに、大事なものを手放すわけにはいきませんよ」
「――王様に向いてないって言いたいんでしょ。いいわよ。自分が一番わかってるんだから」
テオの言っていることは正しい。彼の口調に、ここにはいないフィルバートが重なる。なんとなく、彼も同じことを言いそうな気がした――あるいは、彼が言いそうなことをテオがあえて代わりに言っているようにも思えた。
きっと、今日ここに彼女が来ることも、彼は望んでいなかっただろう。
(フィル、どこにいるの?……たとえそうでも、フィルの口から聞いて確かめたいよ)
「あなたにお願いがあるのよ、テオバール・ギューデン」
もっと信頼を得てから切りだすべきだろうと思ったが、その時間がない。
目の前の兵士となにひとつ通い合うものが生まれてはいなかったが、タイミングが今しかない。
「そのためのパフォーマンスですか? 憐れみ深い王太子を印象付けるための?」
否定するつもりはリアナにはなかった。テオは捕食者のような顔で笑い、「まあ、聞くだけ聞きましょうか」と言った。
♢♦♢
階下の音楽とざわめきが、暗い部屋にも忍びこんでいる。アーシャは自分に与えられている部屋に、フィルをともなって戻った。大戦の英雄は、周囲にそれと気取らせることもなく、かいがいしくアーシャの世話を焼いてくれる。ケープと扇子を片づけ、身体を締めつけるコルセットのひもを緩め、足元から固いヒール靴を抜くのを、アーシャは当然のように眺めていた。
フィルは侍女から彼女の身の回りの品を受け取ると、それらをあるべき位置に置いていく。ドレスガウン、香水、入浴時の石鹸や香油、彼女の好む砂糖菓子や甘いワイン。
趣味の悪い、狭い部屋だこと、と、アーシャは形の良い鼻をしかめた。
御座所にしつらえてあった彼女の部屋は、こんなものではなかった。真珠とサンゴで飾られた椅子に、アエディクラ産の絹がふんだんにあしらわれたクッション、ソファ、象嵌された磁器の壺……懐かしく思いだす。
「あの学者先生を見た? フィル」立ち動くフィルの背中に、アーシャは語りかけた。
「あなたの顔を見たときの彼ったら……」
冷笑とは思えない、鈴のような笑い声だ。
「ええ、じつに見ものでしたね」
「あの『黄金のマリウス』がエリサ王へのクーデターを企ててから、およそ二十年……黄竜のライダーたちは冷遇されている。餌を与えれば、絶対に食いついてくると思っていた」
その読みは当たっていた。
フィルはゆったりと部屋を渡ってくると、彼女にゴブレットを手渡した。
「ワインはいかがですか? あなたのために、アーマ産の翠蜜ワインを手に入れたんですが」
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