リアナ1 王冠の竜騎手と心臓のない英雄

西フロイデ

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7 ふたたび、ケイエへ

第37話 激突 1

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 紺色の夜空を背景に、炎はオレンジに明るく燃えあがる。ごうごう、ぱちぱちという炎の音と、遠くでかすかに人々の怒号が聞こえてくる。燃えあがる小屋を背にして、黒っぽい影がいくつか動いていた。炎のゆらめきで、鷺《サギ》のような形をした頭部が浮かびあがったのを見て、リアナは心臓が止まるかと思った。間にはさまれた小さな影が子どもだろう。悪夢のなかの影絵のような集団が、火の手を離れて東門へ移動しようとしている。

 これは夢、悪い夢だ……

 目の前の光景がぼやけて、夢と現実があいまいになりかけている。心臓が別の生き物のように激しく鼓動をはじめた。

 

 興奮と恐怖がないまぜになって襲いかかるのを、思いきり自分の頬を平手して防いだ。
(だめ――なんのために、ここまできたの!? しっかりしなきゃ!)

 敵は、隊列からすこし離れて、まず古竜が一柱ひとはしら。アーダルと同じ漆黒の身体が、炎にあかあかと反射してきらめく。火を生んでいるのは、間違いなく黒竜だった。すぐそばに不気味な仮面の兵士がもう二人見える。隊列と合わせ、五、六人だ。
 
 ピーウィがシューッという威嚇いかくの音をたてた。リアナを乗せたまま、地面すれすれを疾走する。
「デーグルモール」
 リアナは口のなかでつぶやき、意識を一気に足もとへとめぐらせた。消火のために使ったのはさっきがはじめてなのに、竜の力はすでに当たり前のように彼女のなかを占領しはじめている。水脈の支流は真下にある。自分の血液と同じくらい、どくどくと波うつ感覚がわかった。意識の手をのばしてつかみ、水圧を利用して一気に引きあげ、手の動きと同時に放った。

 目の前ではじけた水柱に驚き、デーグルモールたちの隊列がみだれた。ピーウィはリアナを背にのせたまま、ためらいなく隊列に突っ込んでいく。まともに顔に受けた兵士の一人がうしろ向きに倒れこみ、腰の位置にいた子どもが悲鳴をあげて駆けだした。
「ピーウィ!」
 飛竜はスピードを落とさない。大人の顔の高さに、尻尾をムチのようにふるってひとぎした。衝撃で、二人が同時に倒れる。そのすきに、リアナは腰にさげていた拳大の布袋を取りはずした。袋のなかには粗めの砂が詰めてある。里では『袋棒』という単純な名前で呼ばれている簡易武器で、飛ばし器スリンガーなどとともに、畑を荒らす小さな害獣を殺すのに使ったりする。剣どころかナイフの扱いもあやしいから、これくらいしか携帯用の武器を思いつかなかったのだ。

 とはいえ、里で『ノウサギ六匹殺しのリア』と呼ばれた腕前は飾りじゃない。しかも、人間はノウサギよりも的が大きいうえに動きも遅いときている。こちらが飛竜のうえで不安定なのが難しいけれど――

 袋についた紐を軽く振って勢いをつけ、横向きにすれ違いざま、さらに手首を返してから次の一人の顔面に叩き込んだ。ずしゃっ、と重い手ごたえがある。
 ――これで、四人。

 もう一人は跳ぶように背後に避け、思いっきり投げつけた袋もかわされてしまった。男は首に下がった笛を鳴らした。すぐには聞き取れないほどかすかだが、竜を呼ぶ竜笛だ。
 不死者たちの竜がどこかに待機しているのだ。おそらく、東門の外? 

 ピーウィが速度をゆるめたタイミングを見はからって、リアナは地面に飛びおりた。
「あっちに走って! 逃げて!」勢いあまってよろけながら、子どもたちに向かって力いっぱい手で示す。だが、デーグルモールたちのほうが、それよりも動きが早い。子どもたちを飛竜に乗せる速度は、ほとんど落ちることがなかった。
 やはり、半死者というのは嘘ではないのだ。顔面に砂袋を叩きつけられて、ふつうの竜族がなにごともないかのように動きつづけられるはずがない。
 黒竜のそばにいたデーグルモールが腕を突きだした。力を放つ方向を手で示していることは、経験でわかった。そろえた指の先が、リアナを指している。
(水を――)
 もう一度、とリアナも手をのばす。

「殿下――ッ!!」
 水が湧きあがってくるよりも早く、複数の声が彼女を呼んだ。
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