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7 ふたたび、ケイエへ
第38話 失望と、デイミオンの抱擁 2
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「『変容』」リアナはあえぎながらくり返した。
「竜族から、デーグルモールへ?」
もはや竜族としての原型を失いつつあるそれは、うなずきととれる沈黙を返した。少なくとも、リアナにはそう読みとれるものを。
「わたしが……やつらを、ケイエに。……王よ、二つ目と・三つめの・答えは・同じ」
「続けて」
「妻が・殺され・息子が・連れ去られ……わたし、は・兵士・だっ・た」
「ケイエの国境警備兵か」ハダルクが問うた。苦し気に息を吐く怪物に向かって、さらに確認する。
「子どもを人質にされたのだな? そして、ケイエにやつらを引き入れたのか」
それは沈黙で答えた。
「『変容』が……王よ、『変容』が成ると……」悲痛な声が途ぎれがちになる。「いま……殺して……」
「限界か」ハダルクがつぶやき、剣先をあげた。
「殿下、彼は同胞を裏切った大罪人です。本来なら処刑のご指示を頂くべきですが……ことを急ぎますので」
「待って! まだよ!」リアナが叫んだ。罪人を裁くよりも大切なことが、いまは山ほどあるのだ。体面に構ってはいられない。
「デーグルモールは何人いるの? やつらの頭領はだれ? 『変容』はいつ、どうやってはじまるの? なんでもいいわ! なにか答えて!」
かつて竜族だった生物は、腐った沼のような音を立ててくずおれた。脈打つような動きがおさまり、肥大化していた身体が目の前でだんだんしぼんでいく。しかし、その姿はデーグルモールのようではなく、身体を覆うまがまがしい刺青は消えかかっていた。
「これは……」ハダルクが言った。「そうか、『変容』が失敗したのか」
「えっ?」
「聞いたことがあります。デーグルモールになるための『変容』は、肉体の保持者に大きな負担をかけると。その負荷に耐えたものだけが、デーグルモールとして生き返ると」
「そんな……」
「ですが、そのほうが良かったのです。この手で同胞《どうほう》を斬らねばならないところだったのですから」
リアナはハダルクの制止を振りはらって、男に駆けよる。
「死んではだめ!」不気味な肉塊にためらいなく手をかけ、揺さぶった。「あなたの子どもを助けに行くのよ!」
それは呟《つぶや》いた。
「身体《からだ》が燃えていく」
「どうしてなの……!」
リアナの手の先で、肉塊は急激に発熱していった。眼球が熱で白くにごり、肉が固く黒く変色していく。肉の熱された嫌な匂いが鼻につき、触れた指が驚くほど熱い。それでもリアナはかまわずに呼びかけ続けた。
「死なないで!」
「王よ、王よ、これが地獄の火なのですか? ……とても熱い」
兵士の声は奇妙に平坦で、まるでデーグルモールになりかけていたのが嘘のように、ごくふつうの声のように聞こえた。
(こんな光景を、二度と見ないためにここまで来たのに……!!)
リアナは無力感と生理的な嫌悪をおさえ、力をふりしぼって、凍る力をもう一度起こそうとした。死の間際に、男の身体が灼熱を感じずにすむようにと祈る。いまの自分には、それしかできることがない。
どんな理由でかはわからないが、その祈りは聞きとげられ、周囲に冷気が満ちていった。男は最期に、安堵のため息を漏らした。
ぱきぱきという音とともに、冷気が湯気のように立ちのぼり、しぼみかけた身体が黒く変色していた。それが、かつてはケイエの守護兵士だった男の最期だった。
リアナはこみあげる嗚咽を止めることもできず、ただ、手負いの獣のようにその場にうずくまっていた。
「竜族から、デーグルモールへ?」
もはや竜族としての原型を失いつつあるそれは、うなずきととれる沈黙を返した。少なくとも、リアナにはそう読みとれるものを。
「わたしが……やつらを、ケイエに。……王よ、二つ目と・三つめの・答えは・同じ」
「続けて」
「妻が・殺され・息子が・連れ去られ……わたし、は・兵士・だっ・た」
「ケイエの国境警備兵か」ハダルクが問うた。苦し気に息を吐く怪物に向かって、さらに確認する。
「子どもを人質にされたのだな? そして、ケイエにやつらを引き入れたのか」
それは沈黙で答えた。
「『変容』が……王よ、『変容』が成ると……」悲痛な声が途ぎれがちになる。「いま……殺して……」
「限界か」ハダルクがつぶやき、剣先をあげた。
「殿下、彼は同胞を裏切った大罪人です。本来なら処刑のご指示を頂くべきですが……ことを急ぎますので」
「待って! まだよ!」リアナが叫んだ。罪人を裁くよりも大切なことが、いまは山ほどあるのだ。体面に構ってはいられない。
「デーグルモールは何人いるの? やつらの頭領はだれ? 『変容』はいつ、どうやってはじまるの? なんでもいいわ! なにか答えて!」
かつて竜族だった生物は、腐った沼のような音を立ててくずおれた。脈打つような動きがおさまり、肥大化していた身体が目の前でだんだんしぼんでいく。しかし、その姿はデーグルモールのようではなく、身体を覆うまがまがしい刺青は消えかかっていた。
「これは……」ハダルクが言った。「そうか、『変容』が失敗したのか」
「えっ?」
「聞いたことがあります。デーグルモールになるための『変容』は、肉体の保持者に大きな負担をかけると。その負荷に耐えたものだけが、デーグルモールとして生き返ると」
「そんな……」
「ですが、そのほうが良かったのです。この手で同胞《どうほう》を斬らねばならないところだったのですから」
リアナはハダルクの制止を振りはらって、男に駆けよる。
「死んではだめ!」不気味な肉塊にためらいなく手をかけ、揺さぶった。「あなたの子どもを助けに行くのよ!」
それは呟《つぶや》いた。
「身体《からだ》が燃えていく」
「どうしてなの……!」
リアナの手の先で、肉塊は急激に発熱していった。眼球が熱で白くにごり、肉が固く黒く変色していく。肉の熱された嫌な匂いが鼻につき、触れた指が驚くほど熱い。それでもリアナはかまわずに呼びかけ続けた。
「死なないで!」
「王よ、王よ、これが地獄の火なのですか? ……とても熱い」
兵士の声は奇妙に平坦で、まるでデーグルモールになりかけていたのが嘘のように、ごくふつうの声のように聞こえた。
(こんな光景を、二度と見ないためにここまで来たのに……!!)
リアナは無力感と生理的な嫌悪をおさえ、力をふりしぼって、凍る力をもう一度起こそうとした。死の間際に、男の身体が灼熱を感じずにすむようにと祈る。いまの自分には、それしかできることがない。
どんな理由でかはわからないが、その祈りは聞きとげられ、周囲に冷気が満ちていった。男は最期に、安堵のため息を漏らした。
ぱきぱきという音とともに、冷気が湯気のように立ちのぼり、しぼみかけた身体が黒く変色していた。それが、かつてはケイエの守護兵士だった男の最期だった。
リアナはこみあげる嗚咽を止めることもできず、ただ、手負いの獣のようにその場にうずくまっていた。
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