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序章
二人の囚人 ①
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星を掬えるほど高いと言われる、オンブリアの王城。その回廊を、飛ぶように走っていく女性がいる。
竜舎から必死に走ってきたために、整えられた赤毛がなかば乱れ、彼女のあとを追うようになびく。ずらりと並んだ使用人たちは、糊のきいたお仕着せ姿で、目の前を飛ぶように通り過ぎる彼女にむかって、波のようにおじぎをしていく。しかし、グウィナ卿にはそれを気にしている余裕はまったくなかった。
彼女の姿同様に優美なパンプスは、その目の色に合わせて夫があつらえさせたものだったが、もちろん全力疾走するようにはできていない。途中でなんどもつっかかり、領主貴族らしからぬ呪詛をつぶやき、かまわずに走りつづける。
「お願い、お願い、お願い……」
なにに対してかはわからないが、知らない間に口から言葉が漏れていた。
最後の角を曲がると、扉近くに廷臣の一団が群がっている。グウィナは息を切らせながら駆けよった。
「グウィナ卿」
力強い腕が両肩をつかみ、彼女を落ち着かせる。「……お気をたしかに」
グウィナはなにか答えたかったが、息をはずませることしかできない。荒く上下する肩に置かれた手のひらの重みがありがたかった。
ようやく息を整えると、グウィナは薄青色の目で男を見上げた。
「ハダルク卿……甥の……デイミオン卿の容態は……」
しゃんとしなくては、と思うが、身体が震えて、まともに立っていられない。デイミオンの年長の副官ハダルクは、彼女に比べれば格段に冷静だった。
「夕刻の鐘の直前から、〈癒し手〉の一団が入って懸命に治癒に当たっています」
「ああ、早く……」
誰にとも言うことなく、グウィナは呟く。外遊に出た竜王リアナを追って、人間の国家イーゼンテルレに向かったはずのデイミオンが、瀕死の状態で黒竜アーダルに乗せられて戻ったという連絡が来たのは午後の執務中だった。それから取るものも取りあえず飛竜を飛ばし、今しがた王都に到着したばかり。誰かに、状況を説明してほしかった。
やきもきしながら、永遠かとも思える時間を廊下で待っていると、ようやく目の前の扉が開いた。〈癒し手〉たちの一団が、青い術衣に血まみれの布を腕に山と抱えて、中から出てきた。誰に報告すべきか彼らが迷わないよう、グウィナはハダルクの手を放し、さっと背筋を伸ばした。
竜舎から必死に走ってきたために、整えられた赤毛がなかば乱れ、彼女のあとを追うようになびく。ずらりと並んだ使用人たちは、糊のきいたお仕着せ姿で、目の前を飛ぶように通り過ぎる彼女にむかって、波のようにおじぎをしていく。しかし、グウィナ卿にはそれを気にしている余裕はまったくなかった。
彼女の姿同様に優美なパンプスは、その目の色に合わせて夫があつらえさせたものだったが、もちろん全力疾走するようにはできていない。途中でなんどもつっかかり、領主貴族らしからぬ呪詛をつぶやき、かまわずに走りつづける。
「お願い、お願い、お願い……」
なにに対してかはわからないが、知らない間に口から言葉が漏れていた。
最後の角を曲がると、扉近くに廷臣の一団が群がっている。グウィナは息を切らせながら駆けよった。
「グウィナ卿」
力強い腕が両肩をつかみ、彼女を落ち着かせる。「……お気をたしかに」
グウィナはなにか答えたかったが、息をはずませることしかできない。荒く上下する肩に置かれた手のひらの重みがありがたかった。
ようやく息を整えると、グウィナは薄青色の目で男を見上げた。
「ハダルク卿……甥の……デイミオン卿の容態は……」
しゃんとしなくては、と思うが、身体が震えて、まともに立っていられない。デイミオンの年長の副官ハダルクは、彼女に比べれば格段に冷静だった。
「夕刻の鐘の直前から、〈癒し手〉の一団が入って懸命に治癒に当たっています」
「ああ、早く……」
誰にとも言うことなく、グウィナは呟く。外遊に出た竜王リアナを追って、人間の国家イーゼンテルレに向かったはずのデイミオンが、瀕死の状態で黒竜アーダルに乗せられて戻ったという連絡が来たのは午後の執務中だった。それから取るものも取りあえず飛竜を飛ばし、今しがた王都に到着したばかり。誰かに、状況を説明してほしかった。
やきもきしながら、永遠かとも思える時間を廊下で待っていると、ようやく目の前の扉が開いた。〈癒し手〉たちの一団が、青い術衣に血まみれの布を腕に山と抱えて、中から出てきた。誰に報告すべきか彼らが迷わないよう、グウィナはハダルクの手を放し、さっと背筋を伸ばした。
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