リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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序章

二人の囚人 ②

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「ご苦労さまでした。報告を」声を整えて、そう命令する。
 高位にあると思われる年長の〈癒し手ヒーラー〉が、布切れを隣の者に渡してうなずいた。「閣下、王太子殿下は非常に重い傷を負っておられました」
「続けて」
「複数の臓器に、大きな損傷がいくつもありますが、もっとも厳しいのは肺の損傷です。肋骨が折れて肺に刺さっており、大量に失血しています」〈癒し手ヒーラー〉は手と指で身体を指示しながら説明した。
「で、どのような治療を?」
「失った血を〈癒し手ヒーラー〉たちが補っています。肺のほうは、損傷が大きすぎ、残念ながら治療はできませんでした」
「それは――」腹の底から、凍えるような冷えを感じる。

「このようなことを口にするのは残念ですが、どんなに腕のいい〈癒し手ヒーラー〉がついていようと、まず助からないとお考えください」
「ああ――」視野が暗く、狭くなり、治療師の首元から下がった大きな紋章つきペンダントしか見えない。
「王太子に付き添う方はおられますか?」〈癒し手ヒーラー〉の言葉も、ほとんどもう聞こえなかった。ハダルク卿が返事をしているようだが、よくわからない。
「炉床にイラクサの茶を置いておきました――目が覚めたら飲ませてさしあげて――まずないと思いますが――ご領地の後継者とご家族に連絡を――」
 頭の中でわんわんと響き、なにを言っているのか、もう聞き取れない。
(どうしよう、どうすれば、この子を助けられるの!?)

 気がつくと、グウィナはまた走りだしていた。
「グウィナ卿!!」誰かの声が追ってくる。きっとハダルクだろう。彼のもとに駆け戻れば、きっと抱きしめて落ち着かせてくれるに違いない。そうしたいと強く望む気持ちもどこかにあったが、デイミオンの身を案ずる気持ちはそれにはるかに勝った。中庭に飛び降りると、ぼきりとなにかが折れる音がした。パンプスの高いヒールが、ついに酷使に耐えかねたらしい。グウィナは構わずに脱ぎ捨てて裸足で走った。じゃまなドレスの裾を乱暴にからげ、幅広の石段を駆けおり、練兵場のとなりも通り過ぎて、目指す場所へ走っていく。


 塔は灰色の石灰岩でできていて、物見櫓をのぞけば城でもっとも高さがあったが、使用目的のためか誰も手入れを重視しないせいで、外観の汚れが目立っていた。アーチの先に、松明をともした一角があり、その両脇を囲むように兵士が二人立っている。グウィナの姿に、さっと気をつけの姿勢を取った。
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