リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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序章

二人の囚人 ③

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 騒がしい夜だった。

 幽閉の塔からは、さまざまな景色が見わたせる。タマリスを囲む高い山々も、西の切れ目から見えるわずかな海も、そして|掬星城きくせいじょうと呼ばれる王城のほとんどすべての場所も。囚人である彼女は、最初の頃こそその眺めに心慰められたものだが、近ごろでは朝と夕のわずかな時間しか外を眺めることはしなくなっていた。
 巨大な黒竜が城に降りたったのは、粗末な昼食を済ませてすぐのことだった。たいして興味はなかったが、聞きなれた羽ばたきと耳うるさい鳴き声につられて、窓辺に立ったのだった。それからはひっきりなしに、夜にいたるまで古竜や飛竜が発着場に降りたっている。もっとも、すぐに飽きて窓から離れてしまったのだが。

 彼女は燭台の下で、けぶるようなサファイアブルーの目を瞬かせた。まだ成人の歳をいくつも超えていない、若く、美しい顔が明かりに照らされている。蝋燭ろうそくを節約して使うような生活を送ったことはなく、目の前に開いた本をもくもくと読みすすめていたところ、さらに塔の内部までが慌ただしくなってきた。

 ……王宮が騒がしいのは政変クーデターか、王がまた死にでもしたか。
 彼女はそのどちらも経験していたし、さらに政変のほうは自分でたくらみさえしたので、もはや珍しくもなんとも感じない。だが、幽閉の塔のほうもそれに合わせるように騒々しく兵士が行きかいだしたのは、いったいどういうわけなのだろう。

 ここは貴人牢なので、捕らえられたのは彼女と同じ貴族の一員なのだろう。だから、政変をまっさきに疑ったのだが、事件を起こしたのが果たしてオンブリアのどの貴族かと考えると判断に悩む。なにしろ思いつく人物が多すぎる。
 現王リアナは北部領主筋の名家の出身だが、王位に就くにはあまりに若く、政治手腕もほとんど未知数だ。政変を起こそうと思えば、それは朝食に卵料理を作るよりも易しいだろう。
 興味から、というより単に暇をもてあまして、彼女はクーデターを起こしそうな人物を列挙してみた。白い指がゆっくりと折られる。

 彼女の伯父で最大派閥のエンガス卿? ――いや、今このタイミングでは分が悪い。
 南部領主で王佐のエサル卿? ――これはありそう。なにしろ、伯父を通じて、エサル卿がひそかにエンガス派にくみしていることを知っていたから。利害関係の一致があってリアナ派の筆頭として王佐の地位にあったが、そもそもエサルは野心と無縁の男ではない。現王の体制にすこしでもほころびがあれば、王佐以上の実権を握ろうと思っても不思議ではない。
 それとも、王太子にして黒竜大公のデイミオン卿? ――これが一番ありそうかも。もしそうなら、それみたことかとリアナを嘲笑してやりたいものだ。短命に終わりがちだった三人の王を補佐してきた、名実ともにもっとも王位に近い男。王であるリアナに求婚したなどという噂もあったが、それもこれも全部、自分の王位のためだったというわけだ。
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