リアナ3 約束の王国

西フロイデ

文字の大きさ
14 / 58
1 雪と灰のなかの婚姻

デイミオンの目覚め ⑤

しおりを挟む
 グウィナは、めったに着ない黒いドレスを身につけていた。長衣ルクヴァの女性版といったところで、装飾的な肩あてと赤い縫いとりがいかめしく、甲冑を思わせる服装だ。二人の甥と二人の息子を持つ彼女だが、いまは母親ではなく五公としての威信を発揮しなければならない。苦境にあるデイミオンとリアナの代わりに、彼らの力となるために。
 手術は成功したが、デイミオンは無事回復するのか。そして、リアナについてのエサルの恐るべき告発は事実なのか……。
 だが、それらを確かめる前に、やるべきことがあった。
 彼女は王佐のエサルに許可を得て、みずからの家の責任のもと、アーシャを釈放した。王太子デイミオンの生命を救ったことで、王への弑逆を企んだ罪は問わないとするものだ。前例のない措置にデイミオンが反対するに違いないと身構えたが、甥は落ち着いた様子でそれを許可した。グウィナはそこに、なんらかの密約の存在を感じた。

 アスラン=アルテミス・ニシュクは、養父エンガス卿の領兵たちにつきそわれて、夜が来る前に城を出ていった。グウィナはそれを門から見送った。
 別れる前、二人は短い会話を交わした。

「なぜ、デイミオンを助けたの?」
 グウィナは率直に尋ねた。
 旅装のアーシャは、なぜそんなことを聞くのかという顔をした。「おかしなことをお尋ねになりますこと。あの男が助からないほうがよかったの?」
「いいえ」グウィナは歯を食いしばった。この元巫女姫の言動には、常にいらいらさせられてきたものだ。
「ただ、あなたの意図がわからなかったから、聞いたのよ」

 年若いライダーは、意図、と口のなかで繰り返した。そして、自分でもよくわからない、といったふうに首をひねる。切ったばかりの銀髪が、夕陽を受けて肩の上でふわりと揺れた。
「どうかしら……? 医術書で読んだ方法を試してみたかったからかしら?」
「医術書……」グウィナは全身から力が抜けるようだった。愛だの慈善だのを期待していたわけではないが、それにしても、そんなもののために?

 生家のニシュク家に戻るのかと尋ねると、アーシャは「いいえ」と答えた。
「では、どこへ?」
 少女は、気にくわないことを示すように鼻の頭にしわを寄せた。「どこでもいいわ。わたくしのやることに、口を出す人間がいないところよ」
 そんな、いかにも彼女らしい言葉を残して、アーシャは王城を去った。

 それから長いこと、彼女たちが再会することはなかったし、アーシャがタマリスに戻ったのもかなり後のことだった。しかし、それはまた別の話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...