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1 雪と灰のなかの婚姻
スノーフォール ②
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「エンガス卿は、灰死病の対策のために、タマリスを出ておられまして……」
「彼の竜がこの城にいるのに?」
疑問形で返すと、兵士がびくりと肩を震わせた。カマはかけてみるものだ。もっとも、ひっかかった兵士は彼がはじめてだったが。
「わたしは竜たちの王なのよ。彼らがどこで何をしているか、わからないとでも思うの?」
「陛下――」
喉にものが引っかかったような声。「自分は、もう失礼しなくては」
兵士は行ってしまった。リアナはがっかりしてため息をつく。いたずらに兵士を警戒させただけで、ほとんど何の情報も得られていない。
食事は手つかずのままだ。気持ちを奮い立たせて、ナイフを動かし、人参を口に運ぶ。柔らかすぎる野菜は、まるで泥を口に入れているようだ。ローストしたウズラは、以前は好物だったが、ここ数日の経験で今ではもう食べられないことがわかっている。仔牛のソテーのほうは見事な赤身で、中心がレアになるよう注意深く火入れされていた。これなら少しは食べられるかもしれない、と期待したが……中途半端な生肉の食感が吐き気を催させるだけで、やはり食べられそうになかった。
とにかく、やれるだけはやってみたのだ、と自分を慰めるしかない。だが、本当に恐ろしいのは料理が食べられないことではなかった。
料理を食べなくても、問題なく活動できることのほうだった。
食事をあきらめて、呼びかけをはじめる。これも、城に戻ってからの日課になっていた。
一人がけのソファに腰かけ、考え事をしている風を装って、呼吸を整える。鼻から吸って、口から吐く。以前なら、呼吸法などまったく意識しなくても、〈呼ばい〉に差しさわりを感じたことなどなかった。だが今は、その絆がとても弱くなっていて、もっとも近いはずのデイミオンにさえ、うまく呼びかけることができない。
あきらめずに、もう一人の相手を試してみる――ナイル・カールゼンデンはメドロートの次の北部領主で、リアナはさらにその後継者だった。アエンナガルに向かう途中の上空で、彼女たちは〈呼ばい〉によって、メドロートの逝去と領主権の移動を知ったのだった。
自分のなかから出ている糸が、相手に引っ張られるような、ほかとは間違えようのない〈呼ばい〉の感覚を、わずかに感じる。
〔ナイル卿?〕
自分の〈呼ばい〉が、腹の中に落ちていく感覚がある。しばらく待つと、応答に近いかすかな糸の引っ張りが感じ取れた。〔……か、陛下……〕
だが、ナイルの応答は、まるで何重もの布で隔てられているかのように、遠くてもどかしい。
〔ナイル卿、声が遠いわ〕
精一杯強い呼びかけを送ってみる。通常なら、暴れる古竜を制御するときなど、緊急時にしか使わない強さだ。かなりの集中を要求されるので、リアナは目を閉じ、両手で頭を挟みこむようにして強く呼ぶ。
〔いったいどうなってるの? 状況を教えて。ナイル卿!〕
自分の声の反響が大きすぎ、なかなか返答が聞こえなかった。が、やがて切れ切れにいくつかの声が届く。
〔……デイミオン卿が、けがを……私は城内に……謁見を申請していますが、陛下の……が悪いと。本当なのですか?……〕
〔聞こえないわ!〕リアナは叫ぶ。〔聞こえないの、ナイル!〈呼ばい〉が……〕
自分の声が、割れ鐘のように響きわたり、まるで万力で頭を締めつけられているかのように痛む。耐えきれず、リアナは意識と同時に〈呼ばい〉のつながりを手放した。
――わたしは、いったい何になってしまったの?
「彼の竜がこの城にいるのに?」
疑問形で返すと、兵士がびくりと肩を震わせた。カマはかけてみるものだ。もっとも、ひっかかった兵士は彼がはじめてだったが。
「わたしは竜たちの王なのよ。彼らがどこで何をしているか、わからないとでも思うの?」
「陛下――」
喉にものが引っかかったような声。「自分は、もう失礼しなくては」
兵士は行ってしまった。リアナはがっかりしてため息をつく。いたずらに兵士を警戒させただけで、ほとんど何の情報も得られていない。
食事は手つかずのままだ。気持ちを奮い立たせて、ナイフを動かし、人参を口に運ぶ。柔らかすぎる野菜は、まるで泥を口に入れているようだ。ローストしたウズラは、以前は好物だったが、ここ数日の経験で今ではもう食べられないことがわかっている。仔牛のソテーのほうは見事な赤身で、中心がレアになるよう注意深く火入れされていた。これなら少しは食べられるかもしれない、と期待したが……中途半端な生肉の食感が吐き気を催させるだけで、やはり食べられそうになかった。
とにかく、やれるだけはやってみたのだ、と自分を慰めるしかない。だが、本当に恐ろしいのは料理が食べられないことではなかった。
料理を食べなくても、問題なく活動できることのほうだった。
食事をあきらめて、呼びかけをはじめる。これも、城に戻ってからの日課になっていた。
一人がけのソファに腰かけ、考え事をしている風を装って、呼吸を整える。鼻から吸って、口から吐く。以前なら、呼吸法などまったく意識しなくても、〈呼ばい〉に差しさわりを感じたことなどなかった。だが今は、その絆がとても弱くなっていて、もっとも近いはずのデイミオンにさえ、うまく呼びかけることができない。
あきらめずに、もう一人の相手を試してみる――ナイル・カールゼンデンはメドロートの次の北部領主で、リアナはさらにその後継者だった。アエンナガルに向かう途中の上空で、彼女たちは〈呼ばい〉によって、メドロートの逝去と領主権の移動を知ったのだった。
自分のなかから出ている糸が、相手に引っ張られるような、ほかとは間違えようのない〈呼ばい〉の感覚を、わずかに感じる。
〔ナイル卿?〕
自分の〈呼ばい〉が、腹の中に落ちていく感覚がある。しばらく待つと、応答に近いかすかな糸の引っ張りが感じ取れた。〔……か、陛下……〕
だが、ナイルの応答は、まるで何重もの布で隔てられているかのように、遠くてもどかしい。
〔ナイル卿、声が遠いわ〕
精一杯強い呼びかけを送ってみる。通常なら、暴れる古竜を制御するときなど、緊急時にしか使わない強さだ。かなりの集中を要求されるので、リアナは目を閉じ、両手で頭を挟みこむようにして強く呼ぶ。
〔いったいどうなってるの? 状況を教えて。ナイル卿!〕
自分の声の反響が大きすぎ、なかなか返答が聞こえなかった。が、やがて切れ切れにいくつかの声が届く。
〔……デイミオン卿が、けがを……私は城内に……謁見を申請していますが、陛下の……が悪いと。本当なのですか?……〕
〔聞こえないわ!〕リアナは叫ぶ。〔聞こえないの、ナイル!〈呼ばい〉が……〕
自分の声が、割れ鐘のように響きわたり、まるで万力で頭を締めつけられているかのように痛む。耐えきれず、リアナは意識と同時に〈呼ばい〉のつながりを手放した。
――わたしは、いったい何になってしまったの?
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