24 / 58
1 雪と灰のなかの婚姻
凍りつく世界のなかで ④
しおりを挟む「……デイミオン」ようやく、かすれた声がそう呟くのが聴こえた。片手で顔を持ちあげるが、灰色の目はうつろだった。
「リアナ、私のつがいの相手はおまえだ。おまえがいなければ王も王国もない。わかるな?」
リアナは、魂が抜けたように頼りない顔でうなずいた。デイミオンも泣き笑いのような笑みを返した。「……いい子だ」
それから、凍るまつげにふちどられた彼女の目を、自分の手のひらで覆った。「目を閉じて、口を開けて」
彼女は言われたとおりにした。
「飲むんだ」
口のなかに直接そそぎこんだものが、素直に飲み下された。デイミオンは苦痛にしかめた顔が見えていないことを祈った。
「温かいわ」彼女が呟いた。「甘い」
恐る恐る手をはずすと、開かれた目は元の色に戻っていた。デイミオンは詰めていた息を吐いた。
一か八かの賭けだ、と彼に言われていた。事態がより悪化する可能性もあったが、藁にもすがる思いだったのだ。
この処置が効いたということは、彼女がデーグルモールであるということはもはや疑いがなかった。そのことを知って絶望する一方で、もし本当にデーグルモールなら、ヒトの心臓が止まっているはずだとも思う。瞳の色も戻るはずがない。前にも〈生命の紋〉はあらわれ、一度は消えた。これらは、彼女がまだ完全には変容していないことを示しているのではないか?
「希望はある」彼は自分に言い聞かせるように呟いた。
スミレ色に戻った瞳から、思い出したように、涙がぽろぽろとこぼれた。それと同時に、〈呼ばい〉が強く戻ってきたのを感じる。鼓動が弱いので、体温を分け与えるように抱きなおす。
「わたし、きっともう死んでいたんだわ」リアナは涙声でそう告げた。「里が襲われたときに。あのときに死んで、そしてデーグルモールに……」
「おまえは生きている」かぼそい背中をさすり上げる。どれほどの涙でも、感情の抜け落ちたようなさっきまでの様子よりははるかに良かった。安堵のあまり、彼までもが涙声になった。
「竜の心臓も、ヒトの心臓も動いているんだ。デーグルモールのはずがない。俺が証明してやる。五公にも、誰にも、何も言わせない」
「なにもかも凍ってしまうの」
「そのたびに融かせばいい」
「ヒトの食事が食べられないの。なにも食べなくても動けるの。でも、気づいたら、生きたネズミを――」
「何を食べていてもいい」
「希望はある」彼は繰りかえした。「フィルバートが持って帰ったものだ」
「フィルが……」
腕のなかのリアナが、なにごとかを忙しく考えはじめたのがわかった。いつもの彼女のように。「フィルは無事なのね?」
「ああ。この城のなかにいる」
ため息とともに、彼女が力を抜くのが感じられた。「よかった……」
「必ず方法があるはずだ。絶対に探してみせる……だから、リア、生き延びてくれ。おまえのためだけじゃない、俺のために。『もう死んでいる』なんて、二度と口にするな」
リアナは彼を見上げ、うなずいた。「わかったわ」
「いい子だ」湿ったままの金髪に唇を押しあてる。「夜にはここを出る。支度をするんだ」
外では、夜の帳が降りようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる