リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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エスケープ ④

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 いぶかしみながらも、デイミオンに何事もありませんようにと祈っていると、荷袋が落ちるようなどさりと重い音がした。はっと目を向けると、一人の兵士がその場にくずおれるのが見えた。「なに……」
 背後にいる、もう一人の兵士がすばやく動いた。
 その兵士は、音に驚いてふりむいた兵士の耳をつかんで下に引きおろしたかと思うと、そのまま顔面を膝蹴りした。さらにあごの下から左手を当てて跳ねあげると、男はのけぞって倒れた。あまりの速度に顔面から飛び散った血が玉となり、宙に浮いて見えた。
 男が握った剣が落ち、がらんと大きな音を立てる。その兵士は剣を足でおさえて反響を止めた。
 剣を使うことなく、体術のみで二人の兵士をまたたく間に戦闘不能に陥らせる。そんなことができる男を、リアナは一人しか知らない。

「フィル!」
 男は足早に彼女のそばにくると、口元をそっとおさえた。
「しっ、静かに」
 大きな手のひらの下で、リアナはもがく。「どうして、あなたが――」
 言いかけて、すぐに事態を悟った。もし、デイミオンが本当に自分を城から逃がしたいと思ったら、彼みずから連れて逃げることはしないだろうと。追っ手をふせぎ、情報を送り、彼女の立場を守るために、彼はきっと残るだろう。
「デイミオンがそうしろと言ったのね」震える声でリアナは尋ねた。「あなたにしかできないから」
「ええ」フィルは短く言った。「じき、兵が集まってくる。急がなければ。……あなたを抱えて、城壁を降ります」
 事情は想像できたが、それでも、デイミオンが来てくれなかったことをすぐには受けとめられなかった。
「もういや」子どものように首を振る。
「デイと離ればなれになるのは、もういやなの」

 フィルはリアナの泣き言を気にした風もなく、彼女の腕を掴んだまま、窓の近くまで引きずっていった。
「麻袋に詰めてでも連れていきますが、あなたの協力があったほうが、楽ですね」
 窓の下に目を走らせながら、そう言う。冷たい彼の口調が、イーゼンテルレの宮廷で再会したときのことを思い起こさせた。間諜スパイと断じられて、人間の国で処刑されていてもおかしくなかっただけに、無事帰ってこれたのだとうれしくもあるが、あれだけ人を心配させておいてという怒りもあった。そんな気持ちが自分に残っていたこと自体が新鮮な驚きだった。

 リアナは気を引き締めた。デイミオンも、フィルも、自分を助けようとしてくれている。自己憐憫に浸っている暇はないのだ。「……待って、もっといい方法があるわ」
 フィルは何も言わず、片方の眉だけを器用に上げてみせた。
「ここから飛び降りればいい。レーデルルの力で、空気でクッションを作って着地する。そのほうが早いでしょう?」
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