リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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エスケープ ⑤

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「いい案だ。力は使えますか?」
「大丈夫」
 胸骨のあたりに手を触れてみる。デイミオンが送ってくれる〈ばい〉の力が、をつながりやすくしてくれているのがわかる。白竜レーデルルの力を、すぐ近くに感じる。デイミオンの力がもっとも強いが、ナイルからの〈ばい〉は、彼のほうが力の上流にあるために、よりはっきりしている。
 切れぎれに、彼らが直面している出来事がイメージとして伝わってきた。ナイルは竜舎にいて、エサルの兵士たちと対峙している。彼の隣にいる侍女はルーイだ。デイミオンも竜騎手たちを連れ、そちらに足早に向かっている。
 竜騎手たちに命じて事態を混乱させながら、そ知らぬふりで兵士たちの報告を受け、閣僚たちには事態を収拾するという正反対の命令を出し……
〔デイミオン〕リアナは呼びかけた。ぼんやりした応答の意識が返ってきたが、はっきりした言葉にはなっていない。その余裕はないのだろう。
 フィルが窓を開け、枠に手をかけて登ると、階下を見下ろした。防犯のために植え込みも木も、姿を紛らせそうなものはない。リアナは大気の状態を読んだ。気温と湿度。上空を流れる雲がなくても、その流れが見えている。手はじめに、指を振って風を呼び、不寝番の大きなかがり火を消した。暗闇が庭に満ち、兵士たちがせわしなく行き来する声だけになった。そして、大気中の水分を集め、急激に温度を下げる。
 まもなく、白いもやのようなものが漂いはじめ、霧が発生した。いくらかは、彼らを隠してくれるだろう。
「じゃあ、俺が先に降ります。風を出してください」
 フィルは窓枠に手をかけ、眼下に身を乗り出した。その平気な顔が憎らしく、リアナは腹いせに意地悪く言った。
「わたしを信じてる? 落ちたら死ぬわよ」
「信じてますよ。……いつでも」
 フィルは謎めいた笑みで返し、ためらいなく飛び降りた。その瞬間に、リアナは力を開放し、彼と地面との間に大量の風を送り込んだ。フィルは手足を大きく広げ、何度かばたつかせてうまくバランスを取り、ほとんど音もなく着地した。
 フィルが立っていた窓枠に立ち、下を見ると、目がくらむほど高い。竜の背に乗って飛ぶときにはなんでもない高さが、一人のときには恐ろしく感じる。大きく深呼吸した。
〔デイミオン、行くわ、あなたがそうしろと言ってくれたから、フィルと逃げる〕
 最後にもう一度、そう呼びかけた。誰に読みとられようともかまわないと思った。
〔きっとどこかに解決策がある。それを探すわ。そして戻ってくる。デイミオン、デイ、愛してる、あなたも無事で〕
 そうして、思いきって飛び降りた。
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