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2 エスケープ
エスケープ ⑥
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フィルは落下してきたリアナを抱き下ろすと、すぐに壁際に寄って、霧のなかに二人の身を隠すようにしながら移動をはじめた。兵士らしく見えるよう、きびきびと胸を張って、彼女を急き立てていく。使用人棟の近くの茂みで小姓の服に着替えさせ、目立つ髪を外套のなかにたくし込まれた。どうやら通用門のほうへと向かうらしい。久しぶりの再会だというのにすっかり護衛モードで、「急いで」「頭を低くして」以外の言葉がフィルからかけられることはなかった。
夜間は大門は閉じられており、通用門も行き来は制限されている。案の定、門番の一人が尋ねてきた。赤ら顔の中年で、好物のビールが腹を膨らませているという体型だった。
「こんな時間になんだ? 今夜は使用人の外出許可は出ていないぞ」
問いかけられたフィルは、リアナの耳を引っ張った。「外出じゃない。こいつをおん出すのさ」
「あぁ?」
「この小僧、ジョスって言うんだが、なにしろ手癖が悪くてな。今夜も夕食後に厨房にしのびこんで、侍従長のとっておきのレモンケーキを失敬したところをお縄、ってわけさ」
「はっ」もう一人の、若いほうの門番が笑った。「坊主、しくじったな」
リアナは黙って横を向き、唾を吐いた。声を出すと気がつかれるかもしれないので。反抗的な態度に見えているといいのだが。
「侍従長もお怒りで、その面見せるなと仰せなんだ。で、こんな夜に、俺が門外まで送る貧乏くじ」フィルは肩をすくめて見せる。フランクな演技が完全に板についていた。
「おうおう、ツイてないこった」
「ま、夕勤上がりだ、このままいいところにでもしけこむさ。今夜はひいきの妓の誕生日祝いって聞いたんでね」
「ハッハ。そいつぁいい。俺からもキスを贈っといてくれ」
「あんたのじゃ、半ユスにもならないよ」
いかにも同僚どうしといった軽口をたたき合うと、門番は親指を背後に向けて「通れ」と示した。リアナが抵抗するふりをみせ、フィルは嫌がる彼女を引きずるようにして門外へ連れ出した。
ギィ……ときしむ音とともに、通用門が背中で閉まった。
「あんな口実で、よく通用したわね」
うまく脱出できたのはいいが、一応は自分の居城であった場所の警備としてどうなのか、という思いをこめて、リアナは呟いた。フィルはわずかに口端をあげて笑った。「通用しなくていいんですよ。あれはお芝居です」
「え?」
「門番の一人はすでに買収してあるので。もう一人のほうは、誰がこの夜の当番になるかわからなかったので、そいつをごまかすことができればいいだけです」
相変わらずのフィルの周到さに、リアナは感心すると言うよりもむしろ呆れてしまい、ぐるりと目を回した。
ひさしぶりの外気は肌寒い。すでに秋の気温だった。
夜間は大門は閉じられており、通用門も行き来は制限されている。案の定、門番の一人が尋ねてきた。赤ら顔の中年で、好物のビールが腹を膨らませているという体型だった。
「こんな時間になんだ? 今夜は使用人の外出許可は出ていないぞ」
問いかけられたフィルは、リアナの耳を引っ張った。「外出じゃない。こいつをおん出すのさ」
「あぁ?」
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「はっ」もう一人の、若いほうの門番が笑った。「坊主、しくじったな」
リアナは黙って横を向き、唾を吐いた。声を出すと気がつかれるかもしれないので。反抗的な態度に見えているといいのだが。
「侍従長もお怒りで、その面見せるなと仰せなんだ。で、こんな夜に、俺が門外まで送る貧乏くじ」フィルは肩をすくめて見せる。フランクな演技が完全に板についていた。
「おうおう、ツイてないこった」
「ま、夕勤上がりだ、このままいいところにでもしけこむさ。今夜はひいきの妓の誕生日祝いって聞いたんでね」
「ハッハ。そいつぁいい。俺からもキスを贈っといてくれ」
「あんたのじゃ、半ユスにもならないよ」
いかにも同僚どうしといった軽口をたたき合うと、門番は親指を背後に向けて「通れ」と示した。リアナが抵抗するふりをみせ、フィルは嫌がる彼女を引きずるようにして門外へ連れ出した。
ギィ……ときしむ音とともに、通用門が背中で閉まった。
「あんな口実で、よく通用したわね」
うまく脱出できたのはいいが、一応は自分の居城であった場所の警備としてどうなのか、という思いをこめて、リアナは呟いた。フィルはわずかに口端をあげて笑った。「通用しなくていいんですよ。あれはお芝居です」
「え?」
「門番の一人はすでに買収してあるので。もう一人のほうは、誰がこの夜の当番になるかわからなかったので、そいつをごまかすことができればいいだけです」
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