リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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2 エスケープ

エスケープ ⑦

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 デイミオンが竜舎に駆けつけたとき、エサルは栗毛の青年をくびり殺さんばかりだった。ナイル・カールゼンデンは小柄ではないが、軍人として鍛えている体格でもない。エサルのような筋骨隆々たる大男に殴られでもしたら、城の反対側まで吹っ飛んでいきそうに華奢に見える。しかし若くして領主の座を継ぐことになった青年は、なかなかに肝が据わっていた。
「紛らわしい格好をさせやがって。その侍女をどこに連れていくつもりだ?」
「さて、なにぶん田舎者なので……。女性を連れていく店の一軒も存じておりません」
 エサルの詰問を、ナイルはにっこりと受け流した。「いずれは私の領地に来てもらえないかという淡い期待は持っていますよ。なにしろ、公もご存じでしょうが、領地を継いだばかりで繁殖期シーズンの務めもままなりませんので」
「男がぺらぺらと喋るな。陛下の指輪はどこだ? なぜその女が王の指輪を持っている?」
「なにかのお見間違いでは?」言うと、ナイルは隣のルーイの手を優しく持ちあげて見せた。白くて華奢でリアナそっくりだが、装飾品は着けていない。「……彼女はただの侍女ですよ。同郷の出と聞いて、旧交を温めたく思っているだけです」
 エサルはその言葉に納得せず、侍女ルーイの服や持ち物を調べさせた。なにも出てこないと知ると、盛大に舌打ちし、来たとき同様につむじ風のごとく慌ただしく去っていった。

 エサルを見送ったナイルがそっと息を吐いた。リアナと同じスミレ色の目に、気づかわしげな色が浮かんでいる。「……これで、多少は時間が稼げているといいのですが」
「フィルがついている。十分だろう」デイミオンが口を開いた。「よくやってくれた、礼を言う」
 エサルは領主としても軍人としても有能で、情にあつい正義の男ではあるが、その分というべきか、なにごとも自分の目で確認しなければ気が済まないというところがあった。その性格を利用されたと気づけば怒り狂うだろうが、そのときにはフィルが安全な場所までリアナを連れて行っているはずだ。
「卿とルーイには、もうひと働きしてもらうぞ」
「はい」ルーイがうなずき、ナイルも心得た顔をした。「……今後、陛下はのため、生地である北部領ノーザンでご療養となられる」
「そうだ。エサルが否定しても、姿を見た兵たちに混乱は残る。噂を利用して、もっともらしく体裁を整えられるはずだ」
 
「閣下、これを。お渡ししておきます」ナイルが指輪を差しだした。リアナから彼が受け取り、エサルが来る直前までルーイの指にはめさせていたものだ。デイミオンはそれをすばやく服の隠しにしまった。
「思わぬ形で、役に立ったな」
「ええ」ナイルがうなずいた。「ただ、なぜ陛下があのとき、それを私にお預けになったのか……印章指輪は、陛下の財産を引き出すときに必要になるはずでは?」

「いや、これでいいんだ」デイミオンが言った。「どう使うべきかはわかっている」
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