不・死亡遊戯の成れの果て

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1st Stage / 脱出ゲーム

第2話:1st Stage / 脱出ゲーム・2

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 三途は改めて自分の身体を見下ろした。胴体を縛る鎖、そして鍵穴付きのボックスが七つ。
 とりあえず赤いボックスに対応する鍵、つまり目立って探しやすそうな赤い鍵から試すことにする。
 床に散らばる鍵の中で赤いものはパッと見て十個くらい。しかし見た目には違いがわからず、総当たりで試すしかなさそうだ。
 赤い鍵を一つ拾って赤い鍵穴に突っ込む。外れ。もう一回赤い鍵を拾う。外れ。もう一回。外れ。もう一回。当たり。

「おお」

 金属が小気味よく擦れる音を立ててボックスが中央から二つに割れる。同時に二分された鎖が緩んで床に落ちた。
 鎖はボックスの内側で繋がっていて、鍵を開けるとそれも外れる仕組みになっているらしい。こうして全ての鍵を解錠していくことで鎖も全て解けて脱出できるのだろう。
 他のボックスと鍵にも目を凝らす。緑の鍵は簡単な知恵の輪に挟まっていたり、ピンク色の鍵はワイヤーで軽く保護してあったりする。
 これらを地道に試していく、という趣旨のゲームのようではあるが。

「いやなんかこれ根本的にクソゲーじゃない? 他人様の命を賭けるような戦略性が見えないんだけど。謎解きにしては単純すぎるし、当たり鍵を引けるかどうかの運要素が大きすぎるし。ソシャゲのイベント用ミニゲームみたいな、もしくはバカが頭脳系ゲーム作ろうとした末路みたいな」
「おいらに文句を言われても困るぞ。おいらの担当は説明だけだからな」
「また若干の含みがあることを言うね」

 文句を言いながらも、結局は運要素の強い作業ゲーを進めるほかない。
 次は本数が少なそうな黄色い鍵を手に取る。足元に見えるのは七本だ。一本目。外れ。二本目。外れ。三本目。外れ。外れ、外れ、外れ、外れ。全て外れ。

「なんでだよ」

 と言ったところでようやく相方の存在を思い出す。
 天井から降ってきた鍵はきっと萌え様の側にも落ちているだろう。お互いに協力して必要な鍵を受け渡したりする必要があるのかもしれない。

「萌え様? アンタの方はどんな感じ?」

 ちらりと後ろに視線をやる。鎖が一つ解けた分だけ首の可動域が少し増えたような気がする。
 髪と同じ二色の服、つまりピンクのフリルに黒いリボンが肩口で揺れているのが見えた。あまり詳しくないが、これはいわゆる地雷系というやつかもしれない。
 萌え様はやはり全く焦りのない間延びした声で応じる。

「んー、色々試してるけど全然だねえー」
「いま何本試したところ? ウチは十七本試して一本当たり」
「え、まだ三本目」
「ちょっとちょっと、もうちょっと真面目にやってよね。二人分の命がかかってるんだから」
「ごめんねえー。真面目にやってないわけじゃないけど。あんま得意じゃないんだよねえー、こういうの」
「適性に合う仕事を探してる場合じゃなくなくなくない? 死ぬよアンタ」
「それより一つ聞きたいことがあるんだけどー」
「いいけど、手を動かしながら喋ってね」
「三途ちゃんって可愛いほう?」
「なんで今それ聞くの?」
「気になるから」
「なんで今気になるの?」
「知っておきたくない? 一緒に死ぬかもしれない人の見た目くらいは」
「それはわからないでもない!」
「じゃあ答えは?」
「超超超絶美少女。ウチより可愛いやつは見たことないね。だから頑張って」
「そっかー。じゃあ良かったかも」
「やる気出た?」
「可愛い子なら心中しても安心だから」
「キャラそっちかよ! 見誤ったなー。不思議ちゃんかと思ってたら病み系の方だったとは」
「三途ちゃんは可愛い子と心中するの嫌な方?」
「ウチはメンヘラ属性じゃないから。元気一杯のインドアゲーマーだから」
「言うてゲーマーって陰寄りじゃない?」
「最近のストリーマーは光属性だから!」
「女の子なんて誰でもちょっとは病んでると思うけどねえー」
「それは諸説ある! てか、そんなことより鍵開けの進捗はどう?」
「あっ」
「あっ?」
「ごめんね? 本当にわざとじゃないんだけど、喋るのに夢中で忘れてたかも」
「怒鳴って早くなるなら千デシベルで叫ぶけど、多分アンタってそういうタイプじゃないんだろな」

 チームゲーの鉄則、ゲーム中に仲間のミスを叱責してはいけない。別に仲良くやろうとか空気を大事にという話ではなく、現実問題としてそれで勝率が上がることはないからだ。
 しかしネバーマインドの精神を保つには状況が切迫しすぎているのも事実。
 モニターの表示は残り二分、鍵穴は残り六つ。よって鍵穴一つにかけられる時間は平均二十秒。
 鍵穴に対応する鍵はそれぞれ十本以上、そして鍵を拾って鍵穴に差して捨てる動作にかかる時間は約五秒。

「こりゃ正攻法はもうダメだな」

 口に出した瞬間、頭の回路がガシャンと切り替わる。
 漫然と作業してクリアの目がある段階は終わった。当たりの鍵が萌え様側に落ちている可能性も考慮すると、このまま鍵を回し続けたとて勝算はほぼない。それは攻略しているフリであって攻略ではない。
 やることを変えるしかない。サンクコストを考慮せず、ワンチャンスあれば検討し、あらゆる前提を見逃さない。熟練したゲーマーの思考回路が根本的な違和感をもう一度引きずり出す。

「やっぱ不当にクソゲーすぎる気がするんだよなー、これ」

 世にクソゲーは数多あれど、このデスゲームがここまでクソゲーなのは明らかに不自然なのだ。
 何故か。このデスゲームの制作者は、わざわざこれだけ豪華な館を使っているからだ。朽ちた倉庫や廃墟ではなく、明らかに清掃や装飾を済ませたちゃんとした設備を。
 やっつけのミニゲームならともかく、これだけコストを投じているデスゲームの運営がこんなに適当なルールを考えるだろうか。それは前提が噛み合わない。もっとちゃんとしたギミックがあるはずだ。
 右手で軽く首元を覆った。頸動脈を締めるように触る。それは三途がゲーム中に思考に集中するときの癖だった。

「ふーむ」

 他に情報源はないか、クロケルの説明を思い出す。
 そもそもゲームの目標は、時間内に鍵を開けて鎖を外すこと。鍵を開ける以外の方法は何かなかったか。裏技でもチートでも注意事項でも何でもいい。
 
「ああ、これでいいじゃん」
 
 三途は解けた鎖を拳に巻き付けながら後ろに向けて声を張った。

「萌え様、一応聞くけどそっちの状況は?」
「一個だけ解けたから残り五つかな? これって鎖は共有されてるっぽいねえー」
「確かに、七本の鎖で二人をまとめて縛ってるから二人合わせて全部で七個解けば十分そうだけど。それでもこのままいくと心中しかなさそうじゃん」
「あたしは心中でもいいけど?」
「悪いけど、ゲーマーの辞書に心中って言葉はないんだよね。それってゲーマー風に言うと抱え落ちだから」
「つまり?」
「まだ使えるリソースを残したまま負けること、必殺ゲージとか手札とかをね」
「それってつまり?」
「二人まとめて死ぬくらいなら一人死亡で済ませた方がまだいいってことだよ」
「えっと、つまり?」
「攻略は命より重い!」

 叫ぶと同時に、鎖を巻き付けた拳をボックスに力の限り叩き付けた。
 ガンという大きな音と共に柱が僅かに揺れる。硬いボックスが傷付くことはなかったが、ビーッと警告音が鳴ってカウントが一気に進む。
 破壊を試みたことによる強制カウント進行。これで爆発まで残り十秒。

「よし、思った通り!」

 萌え様より先に爆死する。それが三途の狙いだった。
 ボックスの内部で鎖が繋がっている以上、ボックスが爆発して大破すれば鎖も解けるはずだ。
 つまりボックスは鍵を開ける以外に爆発させることでも解錠できる。もちろん爆発した側のプレイヤーは死ぬが、爆発しなかった側はそのまま鎖を解いて脱出できる。
 思えば、ヒントは説明の中で提示されていた。クロケルは禁止行為について喋り始める前にカウント進行の話をした。つまりこれは禁止事項に対するペナルティではなく、正規の行動選択肢なのだ。
 これは自己犠牲精神では全くない。チームゲーで二人死ぬか一人死ぬかなら一人死ぬ方がまだいいに決まっている。それはゲーマーとしての適正な攻略であり、「どちらが死ぬことを選ぶか」というデスゲームデザインの意図も読み切っているつもりだった。
 ただし予想外があるとすれば、それは往々にしてルールではなくプレイヤーの方。

「は?」

 さっき三途が発したものと全く同じ一連の音が背後から聞こえた。
 つまり鎖でボックスを殴る硬い打撃音。ビーッという警告音。ピピピと一気にカウントが進む音。
 
「アンタ何してんの?」
「あたしたち同じこと考えてたみたいだねえー。これって運命かも?」
「それ今は全然嬉しくない!」

 もう手遅れだった。二人が揃ってカウントを減らしてしまっては意味がない。それでは二人ともちょっと早く爆死するだけだ。
 今から出来ることがあるとしたら、せいぜい嘆きのエモートを飛ばすくらい。

「あーもう、馬鹿!」

 ゲームの時間は誰にも平等だ……ほら、三、二、一、ボン!
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