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1st Stage / 脱出ゲーム
第3話:1st Stage / 脱出ゲーム・3
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死に至る致命傷は痛みではなく熱として知覚される。
今もそうだ。マグマのように巨大な熱量が体内を駆け巡る感覚。灼熱の閃光が皮膚を貫いて肉と骨を破壊する。燃え上がるのは胃か肺か心臓か。いや、それら全てを総合したまさしく身体そのものが焼け落ちるのだ。
死とは生命が一斉に終わりゆく大局的な破滅であり、局所的な破滅の表現に過ぎない痛みとは一線を画している。故に境界なく浸透できる熱という形式によって感覚されるのだ、存在の全てを巡る圧倒的な流れとして。
三途はそれをよく知っていた。知識ではなく、経験によって。
「はー、ウチが死ぬことなんて気にしなくてよかったのに」
三途は大袈裟に頭を抱えて溜息を吐いた。
もう鎖に縛られていないし、しなやかな身体には火傷の一つもない。改造制服にすら焦げも破れもない、完全な状態で三途は柱の隣に立っていた。
まさしくいつも通りだ。いつも通りの死亡、そしていつも通りの蘇生。
「てかデスゲーム運営の人って知ってたのかな?」
何を? 及川三途は不死者であるということを!
三途は死んだ瞬間に蘇る。時間も場所も死因も問わず。それが不死性、三途の不死性。
細かいメカニズムは三途も知らない、そういう体質なのだとしか言いようがない。小指が長い人が小指が長い理由を聞かれても困るのと同じだ。とにかく三途は死なない、ただそれだけのこと。
不死者だからといって、重い使命を背負っていたり世界の敵と戦っていたり組織に追われていたりは特にしない。不死者の知り合いもいなければ、不死のアイテムとか魔法も知らない。現代日本で健康な女子が死ぬことなんて滅多にないのだし、自ら喧伝しなければ不死がバレることなんてまずないのだ。
いずれにせよ、自動発動する三途の不死性はデスゲームに巻き込まれた今も当たり前のように有効だった。
「ああ、やっぱこっちは駄目かあ……」
柱の裏側にはやはり少女の亡骸があった。
胸から腹にかけて派手に爆発したボックスが身体の前面を吹き飛ばし、床や壁にまで血肉が飛び散っている。どこからどう見ても即死だ。
放射状に拡散してそこら中にへばりつく肉体の断片。その中に黄色い脂肪や白い骨も含まれているあたり、爆発の範囲が狭い割には威力はかなり高かったらしい。
しかし幸いなことに、と言うべきでもないのだろうが、完全に破壊された上半身に反して愛らしい容姿はほとんどそのまま残っていた。鮮血を浴びて胡乱な視線を宙に向ける彼女の姿は、声や態度から頭に思い描いていたものとほとんど違わない。
艶やかな黒髪はツインテールで束ねられ、さっき見た通り内側にピンクのインナーカラーが走っている。小さな顔の上では整った目鼻立ちを強めのメイクが際立てている。目元には赤いアイライナー、頬や瞼にも腫れぼったい彩りが乗っている。
燃え残ったフリルも合わせてお人形さんのような、いや、今は火災現場に取り残されたお人形さんとでも言うべきか。
「ま、今回は運が悪かったね。デスゲームだしそんなこともあるか」
脱出ゲームをクリアするための自殺は二者択一ですらなかった。
三途だけ死んでおけば、どうせ即座に蘇って二人揃って脱出できた。しかし三途が不死者であることを知らない萌え様は早まって無駄死にしてしまった。
意外な選択を見せた萌え様に対して思うところはあるが、かと言って泣いて取り乱すほど繋がりがあったわけでもない。所詮はたった十分の仲ということで、三途にできるのは萌え様をなるべく忘れないでいることくらいだろう。
とりあえず瞼でも閉じた方がいいのかと思って手を伸ばした次の瞬間。
「!」
萌え様の喉が大きく跳ねた。何かを飲み込んだ喉元が僅かに膨らむ。
自分が死んだことは何度かあるが、他人が死ぬのを見るのは初めてだ。これは死後も残る筋肉の反射反応みたいなやつなのだろうか。それとも実はまだ僅かに残った脈による最期のあがきなのか。
考え始めた瞬間、今度は萌え様の全身が三度大きく痙攣した。
ドッドッドッ、という小気味良いリズム。それからもっと短い周期で肢体が脈打ち始める。一度は消滅した生命が戻ってくる波長、それは明らかに鼓動だった。
「マジか」
そして吹き飛ばされた臓器が内側から生えてきた。そうとしか言いようがない。
失われた部位を補うように、みるみるうちに心臓や胃が膨らんで再形成されていく。その周りから長い管が飛び出したかと思うと、食道や腸が消防車のホースのように折り畳まれていく。
内臓が器に収まって人体模型が完成する。あとは真っ白い皮膚が伸びて臓器を覆えば全てが元通り。
「ああ、アンタも同類ってことね……」
萌え様がゆっくりと身体を起こす。鎖が軽い音を立てて地面に落ちた。
いまやこの二人が、結果的には理想の攻略法を選択したことは明らかだった。二人とも鎖を爆発させたあとに揃って再生して脱出する。それで良かったのだ。
三途は萌え様と初めて目を合わせた。正面から向き合うと、声だけのときや死体でいるときとはやはり印象が違う。あまり親しみのない類の色気、艶かしい生気が主に顔の周りに濃厚に漂っていた。
「ウチ以外に初めて見たな。不死者なんて!」
「あたしもー!」
破顔した萌え様が大きく両手を広げて全身で抱き着いてくる。
柔らかい身体を曖昧に抱き返すと、彼女の髪の内側からお菓子のように甘ったるい匂いが流れてくる。
それは火薬が臭うデスゲームの中であまりにも場違いな香りだった。
今もそうだ。マグマのように巨大な熱量が体内を駆け巡る感覚。灼熱の閃光が皮膚を貫いて肉と骨を破壊する。燃え上がるのは胃か肺か心臓か。いや、それら全てを総合したまさしく身体そのものが焼け落ちるのだ。
死とは生命が一斉に終わりゆく大局的な破滅であり、局所的な破滅の表現に過ぎない痛みとは一線を画している。故に境界なく浸透できる熱という形式によって感覚されるのだ、存在の全てを巡る圧倒的な流れとして。
三途はそれをよく知っていた。知識ではなく、経験によって。
「はー、ウチが死ぬことなんて気にしなくてよかったのに」
三途は大袈裟に頭を抱えて溜息を吐いた。
もう鎖に縛られていないし、しなやかな身体には火傷の一つもない。改造制服にすら焦げも破れもない、完全な状態で三途は柱の隣に立っていた。
まさしくいつも通りだ。いつも通りの死亡、そしていつも通りの蘇生。
「てかデスゲーム運営の人って知ってたのかな?」
何を? 及川三途は不死者であるということを!
三途は死んだ瞬間に蘇る。時間も場所も死因も問わず。それが不死性、三途の不死性。
細かいメカニズムは三途も知らない、そういう体質なのだとしか言いようがない。小指が長い人が小指が長い理由を聞かれても困るのと同じだ。とにかく三途は死なない、ただそれだけのこと。
不死者だからといって、重い使命を背負っていたり世界の敵と戦っていたり組織に追われていたりは特にしない。不死者の知り合いもいなければ、不死のアイテムとか魔法も知らない。現代日本で健康な女子が死ぬことなんて滅多にないのだし、自ら喧伝しなければ不死がバレることなんてまずないのだ。
いずれにせよ、自動発動する三途の不死性はデスゲームに巻き込まれた今も当たり前のように有効だった。
「ああ、やっぱこっちは駄目かあ……」
柱の裏側にはやはり少女の亡骸があった。
胸から腹にかけて派手に爆発したボックスが身体の前面を吹き飛ばし、床や壁にまで血肉が飛び散っている。どこからどう見ても即死だ。
放射状に拡散してそこら中にへばりつく肉体の断片。その中に黄色い脂肪や白い骨も含まれているあたり、爆発の範囲が狭い割には威力はかなり高かったらしい。
しかし幸いなことに、と言うべきでもないのだろうが、完全に破壊された上半身に反して愛らしい容姿はほとんどそのまま残っていた。鮮血を浴びて胡乱な視線を宙に向ける彼女の姿は、声や態度から頭に思い描いていたものとほとんど違わない。
艶やかな黒髪はツインテールで束ねられ、さっき見た通り内側にピンクのインナーカラーが走っている。小さな顔の上では整った目鼻立ちを強めのメイクが際立てている。目元には赤いアイライナー、頬や瞼にも腫れぼったい彩りが乗っている。
燃え残ったフリルも合わせてお人形さんのような、いや、今は火災現場に取り残されたお人形さんとでも言うべきか。
「ま、今回は運が悪かったね。デスゲームだしそんなこともあるか」
脱出ゲームをクリアするための自殺は二者択一ですらなかった。
三途だけ死んでおけば、どうせ即座に蘇って二人揃って脱出できた。しかし三途が不死者であることを知らない萌え様は早まって無駄死にしてしまった。
意外な選択を見せた萌え様に対して思うところはあるが、かと言って泣いて取り乱すほど繋がりがあったわけでもない。所詮はたった十分の仲ということで、三途にできるのは萌え様をなるべく忘れないでいることくらいだろう。
とりあえず瞼でも閉じた方がいいのかと思って手を伸ばした次の瞬間。
「!」
萌え様の喉が大きく跳ねた。何かを飲み込んだ喉元が僅かに膨らむ。
自分が死んだことは何度かあるが、他人が死ぬのを見るのは初めてだ。これは死後も残る筋肉の反射反応みたいなやつなのだろうか。それとも実はまだ僅かに残った脈による最期のあがきなのか。
考え始めた瞬間、今度は萌え様の全身が三度大きく痙攣した。
ドッドッドッ、という小気味良いリズム。それからもっと短い周期で肢体が脈打ち始める。一度は消滅した生命が戻ってくる波長、それは明らかに鼓動だった。
「マジか」
そして吹き飛ばされた臓器が内側から生えてきた。そうとしか言いようがない。
失われた部位を補うように、みるみるうちに心臓や胃が膨らんで再形成されていく。その周りから長い管が飛び出したかと思うと、食道や腸が消防車のホースのように折り畳まれていく。
内臓が器に収まって人体模型が完成する。あとは真っ白い皮膚が伸びて臓器を覆えば全てが元通り。
「ああ、アンタも同類ってことね……」
萌え様がゆっくりと身体を起こす。鎖が軽い音を立てて地面に落ちた。
いまやこの二人が、結果的には理想の攻略法を選択したことは明らかだった。二人とも鎖を爆発させたあとに揃って再生して脱出する。それで良かったのだ。
三途は萌え様と初めて目を合わせた。正面から向き合うと、声だけのときや死体でいるときとはやはり印象が違う。あまり親しみのない類の色気、艶かしい生気が主に顔の周りに濃厚に漂っていた。
「ウチ以外に初めて見たな。不死者なんて!」
「あたしもー!」
破顔した萌え様が大きく両手を広げて全身で抱き着いてくる。
柔らかい身体を曖昧に抱き返すと、彼女の髪の内側からお菓子のように甘ったるい匂いが流れてくる。
それは火薬が臭うデスゲームの中であまりにも場違いな香りだった。
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