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第二章 剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです
第12話:剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです・5
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【4/1 00:24】
「去ったか」
切華は構えを解いて刀を手放した。『創造』で作った刀は地面に落ちる前に立ち消える。
グラウンドから土煙が収まったとき、他の転移候補はもう逃走を済ませていた。視界が悪い中での混戦では分が悪いと見たか、それともまだチート能力に慣れていない状態での交戦を嫌ったか。
地面からせり出す土壁は見た目こそ堅牢な城壁にも見えたが、かなり脆い砂づくりの即席だったようだ。今は自重で崩れて高い砂山がいくつも積もるばかり。その分だけ地面が大きく抉られ、グラウンドには高い山と深い谷が広がっていた。
土の総量は変化していないあたり、灯の『建築』は切華の『創造』と違って素材を無から作り出すわけではないようだ。周囲の物体を建材として建築を行うらしい。
「警戒すべきは龍魅だけかと思っていたが……誰も侮れぬ」
切華は考える。
交戦と言うにはささやかな接触だったが、戦力について推し測れることは多い。
まず、現時点で最大の脅威はやはり『龍変化』の龍魅だ。人智を超えた幻想生物の暴力を振るうチート能力はシンプルに強力だし、何より本人が戦い慣れしている。
パーティー会場で軽く話したが、龍魅は路地裏生まれアングラ育ちの生粋のアウトローだ。荒事の経験は他の転移候補とは比べ物にならない。暴力に特化したチート能力は鬼に金棒。
しかし、灯だって決して弱くない。『建築』というのはもっと牧歌的な能力かと思っていたが、土壁の展開は想定より遥かに大規模で速かった。あのスピードで大質量を展開できるなら近接戦闘にも使える水準だ。
そしてドラゴンの前に迷いなく割り込んできたことも見逃せない。真剣な目は全く怖気付いていなかった。温厚な事務職のように見えて肝が据わっている。
他の者にしても、もう迅速に逃走を完了している。殺人を目撃したにも関わらず、身がすくんで動けない者や無鉄砲に突っ込んでくる者など一人もいない。誰もが自ら命を絶つ程度の胆力はあるのだ。どんな相手も軽く見るべきではない。
考えながら、切華は月夜の死体を探す。砂にうっすら覆われた人型の盛り上がりはすぐに見つかった。
高い土山の影に転がる首の無い胴体。そして分かれた生首。間違いなく即死だ。
「すまなかった」
深々と腰を折り、遺体に向かって手を合わせる。
月夜は切華が殺した。謝ったところでその罪が消えることはない。それでも切華はこう言わずにはいられない。
「殺させられた」
切華は必ずしも殺人を悪だとは考えていない。
異世界で剣技を研鑽するという願いは明らかに殺人を含んでいる。真剣で戦えば殺すことも殺されることもあるだろう。だから異世界転移を決意したときから人を切り殺す覚悟は完了している。
だが、それは決して無防備な女子中学生を不意打ちで殺す覚悟ではないのだ。
人を殺しても良いのはお互いに死の危険を承知している相手との決闘に限る。それが切華が自分に課したルールだった。殺してもいいのは殺し殺される覚悟をしているときだけ。
「……」
AAが説明をしていたときから切華も考えていなかったわけではない。この十二人で殺し合うことになるかもしれず、そうなったとき月夜の『即死』はあまりにも突出して危険すぎると。
それでも切華は動かなかった。理李が質問して時間を稼いでいる間、切華は黙して様子を見ていた。
人の集団意志なんて曖昧なものだ。必ずしも殺し合いになるとは限らないし、意外と皆が協調して穏当な方法で決められるかもしれない。何しろまだ現世でチート能力が使えるかどうかもわからないのだ。淡い期待を自分から捨てる理由はない。
だが、理李の一手で状況が一変してしまった。
理李がチート能力は使えると叫んだ瞬間、もはや一刻の猶予もなくなった。理李の扇動を聞いた月夜が『即死』を使うことに思い至ってしまえば終わりだ。
月夜が眼帯を外して全員を皆殺しにする最悪の事態を避けるためには、先に誰かが月夜を殺すしかない。月夜の近くにいて一手で確実に殺すチート能力を持っていたのは切華だけだ。だから殺した。
結局のところ、月夜を殺したからといって他の何者をも無差別に殺すつもりがあるわけではなかったのだ。少なくともその時点においては。
「だけど、もう殺し合いは始まっちゃったよね?」
歌うように告げる声。
撫子が高い土山の上に座って切華を見下ろしていた。月光を背景に、逆光が笑顔に影を作る。不穏な台詞に合わせているかのような表情と演出、いや、実際に計算づくで合わせているのだろう。
「応。もう引き返せまいよ。月夜は殺したがあとは論議で解決しようなどと、誰も信じなかろう。あとは殺し合いで決着をつけるしかあるまい」
これは不幸中の幸いと言うべきだろうか?
切華が月夜の首を刎ねたのは全員が見ている。つまり不本意であるにせよ、客観的に見れば切華が他の転移候補に殺意を持っているというメッセージが伝わっている。だったらそれはフェアな宣戦布告が済んでいることと同義だ。
皮肉にも、月夜を不意打ちで殺したことによって事前通告を伴う決闘の設定が完了してしまった。他の転移候補は切華と接触した時点で死の危険を覚悟するだろうし、残り三日が殺し合いであることはもう既に皆が理解しているだろう。
つまり、これはお互いに死の危険を承知している相手との戦闘だ。
だったら殺してもいい。いまや殺し合いを避ける理由はなくなってしまった。
「ここから先は決闘だ。不意打ちにあらず」
「いいんじゃないかしら。じゃあ、私もその線でいこうかしらね」
撫子が土山から降り立ち、くるりと半周回った。
やはり完璧な角度で制服のプリーツスカートが揺れる。それは撫子が演技する、月夜に踊る美しい女子高生の表象だ。間近で見て溜め息を吐かないものはいない。
「かような状況も演ずべき舞台か?」
「当たり前。長いことお芝居をやっていても、こんなに演劇めいた状況に遭遇したのは初めてだわ。今日会った十二人が殺し合いをするって、ミステリでもなかなか無いものね」
「さすがは元天才子役であるな」
「去ったか」
切華は構えを解いて刀を手放した。『創造』で作った刀は地面に落ちる前に立ち消える。
グラウンドから土煙が収まったとき、他の転移候補はもう逃走を済ませていた。視界が悪い中での混戦では分が悪いと見たか、それともまだチート能力に慣れていない状態での交戦を嫌ったか。
地面からせり出す土壁は見た目こそ堅牢な城壁にも見えたが、かなり脆い砂づくりの即席だったようだ。今は自重で崩れて高い砂山がいくつも積もるばかり。その分だけ地面が大きく抉られ、グラウンドには高い山と深い谷が広がっていた。
土の総量は変化していないあたり、灯の『建築』は切華の『創造』と違って素材を無から作り出すわけではないようだ。周囲の物体を建材として建築を行うらしい。
「警戒すべきは龍魅だけかと思っていたが……誰も侮れぬ」
切華は考える。
交戦と言うにはささやかな接触だったが、戦力について推し測れることは多い。
まず、現時点で最大の脅威はやはり『龍変化』の龍魅だ。人智を超えた幻想生物の暴力を振るうチート能力はシンプルに強力だし、何より本人が戦い慣れしている。
パーティー会場で軽く話したが、龍魅は路地裏生まれアングラ育ちの生粋のアウトローだ。荒事の経験は他の転移候補とは比べ物にならない。暴力に特化したチート能力は鬼に金棒。
しかし、灯だって決して弱くない。『建築』というのはもっと牧歌的な能力かと思っていたが、土壁の展開は想定より遥かに大規模で速かった。あのスピードで大質量を展開できるなら近接戦闘にも使える水準だ。
そしてドラゴンの前に迷いなく割り込んできたことも見逃せない。真剣な目は全く怖気付いていなかった。温厚な事務職のように見えて肝が据わっている。
他の者にしても、もう迅速に逃走を完了している。殺人を目撃したにも関わらず、身がすくんで動けない者や無鉄砲に突っ込んでくる者など一人もいない。誰もが自ら命を絶つ程度の胆力はあるのだ。どんな相手も軽く見るべきではない。
考えながら、切華は月夜の死体を探す。砂にうっすら覆われた人型の盛り上がりはすぐに見つかった。
高い土山の影に転がる首の無い胴体。そして分かれた生首。間違いなく即死だ。
「すまなかった」
深々と腰を折り、遺体に向かって手を合わせる。
月夜は切華が殺した。謝ったところでその罪が消えることはない。それでも切華はこう言わずにはいられない。
「殺させられた」
切華は必ずしも殺人を悪だとは考えていない。
異世界で剣技を研鑽するという願いは明らかに殺人を含んでいる。真剣で戦えば殺すことも殺されることもあるだろう。だから異世界転移を決意したときから人を切り殺す覚悟は完了している。
だが、それは決して無防備な女子中学生を不意打ちで殺す覚悟ではないのだ。
人を殺しても良いのはお互いに死の危険を承知している相手との決闘に限る。それが切華が自分に課したルールだった。殺してもいいのは殺し殺される覚悟をしているときだけ。
「……」
AAが説明をしていたときから切華も考えていなかったわけではない。この十二人で殺し合うことになるかもしれず、そうなったとき月夜の『即死』はあまりにも突出して危険すぎると。
それでも切華は動かなかった。理李が質問して時間を稼いでいる間、切華は黙して様子を見ていた。
人の集団意志なんて曖昧なものだ。必ずしも殺し合いになるとは限らないし、意外と皆が協調して穏当な方法で決められるかもしれない。何しろまだ現世でチート能力が使えるかどうかもわからないのだ。淡い期待を自分から捨てる理由はない。
だが、理李の一手で状況が一変してしまった。
理李がチート能力は使えると叫んだ瞬間、もはや一刻の猶予もなくなった。理李の扇動を聞いた月夜が『即死』を使うことに思い至ってしまえば終わりだ。
月夜が眼帯を外して全員を皆殺しにする最悪の事態を避けるためには、先に誰かが月夜を殺すしかない。月夜の近くにいて一手で確実に殺すチート能力を持っていたのは切華だけだ。だから殺した。
結局のところ、月夜を殺したからといって他の何者をも無差別に殺すつもりがあるわけではなかったのだ。少なくともその時点においては。
「だけど、もう殺し合いは始まっちゃったよね?」
歌うように告げる声。
撫子が高い土山の上に座って切華を見下ろしていた。月光を背景に、逆光が笑顔に影を作る。不穏な台詞に合わせているかのような表情と演出、いや、実際に計算づくで合わせているのだろう。
「応。もう引き返せまいよ。月夜は殺したがあとは論議で解決しようなどと、誰も信じなかろう。あとは殺し合いで決着をつけるしかあるまい」
これは不幸中の幸いと言うべきだろうか?
切華が月夜の首を刎ねたのは全員が見ている。つまり不本意であるにせよ、客観的に見れば切華が他の転移候補に殺意を持っているというメッセージが伝わっている。だったらそれはフェアな宣戦布告が済んでいることと同義だ。
皮肉にも、月夜を不意打ちで殺したことによって事前通告を伴う決闘の設定が完了してしまった。他の転移候補は切華と接触した時点で死の危険を覚悟するだろうし、残り三日が殺し合いであることはもう既に皆が理解しているだろう。
つまり、これはお互いに死の危険を承知している相手との戦闘だ。
だったら殺してもいい。いまや殺し合いを避ける理由はなくなってしまった。
「ここから先は決闘だ。不意打ちにあらず」
「いいんじゃないかしら。じゃあ、私もその線でいこうかしらね」
撫子が土山から降り立ち、くるりと半周回った。
やはり完璧な角度で制服のプリーツスカートが揺れる。それは撫子が演技する、月夜に踊る美しい女子高生の表象だ。間近で見て溜め息を吐かないものはいない。
「かような状況も演ずべき舞台か?」
「当たり前。長いことお芝居をやっていても、こんなに演劇めいた状況に遭遇したのは初めてだわ。今日会った十二人が殺し合いをするって、ミステリでもなかなか無いものね」
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