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第六章 車椅子少女は異世界でドラゴンに乗って飛び回るようです
第51話:車椅子少女は異世界でドラゴンに乗って飛び回るようです・6
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小百合は鉄骨の中心あたりを両肩に乗せ、水平に構えた状態で姫裏に向かって突進してきた。
バーベルのように鉄骨を背負っての突撃。意表を突かれている間にすぐに距離が詰まってくる。眼前には左右に伸びる鉄の柱。避けることは容易だが、明らかに攻撃目的ではない。狙いは前方の逃げ道を塞ぐこと?
そう思い至ったとき、小百合が叫んだ。
「今です!」
それでようやく理解する。これは追い込み漁だ。背後で高い木の上から誰かが飛び降りる気配、視界の端でその姿を捉える。
「穏乃さんですね」
鉄骨を振って姫裏を林の近くに退避させたのは、穏乃が隠れている木の根元まで姫裏を押し込むためだ。
鉄骨は開けた広場の方が当てやすいが、逆に『爆発』は林の中でこそ当てやすい。あらゆるオブジェクトを破壊する『爆発』は木々などいくらでも貫通する。
そして小百合には『爆発』が直撃してもダメージがない。だから追い込んだあとの離脱を考える必要がないのだ。てっきり小百合と穏乃は恨み合っているかと思っていたが、組んでしまえばこれほど強力なタッグもいない。
姫裏の眼前は鉄骨で塞がれている。もう『爆発』の射程外に逃げるのは間に合わない。
「もう逃げられません!」
「まだ避けられますけどね」
姫裏は『建築』を発動しながら大地を蹴った。足元の地面を膨らませて急加速し、スライディングで鉄骨の下を潜り抜ける。そして同時に小百合の足元には凹みを作り、後ろにバランスを崩させた。
その瞬間、『爆発』が発動した。『無敵』無しでの発動、本来の強制心中能力が起爆する。
まずは穏乃自身が爆発し、生命と共に閃光が炸裂する。穏乃の全身が粉々に破壊され、赤い肉片を伴った衝撃波と熱が広がっていく。森の木々と地面が一瞬で炭化する。
爆心地から姫裏までは五メートル。しかし射程内で唯一の安全圏がこの位置だ。
「背中をお借りします」
昨日の山中で『爆発』の発動を見たときに姫裏は気付いていた。爆発直後、小百合の背後にある木肌だけは燃えずに残っていたことに。
見た目に反し、穏乃の『爆発』は周囲を概念レベルで消し飛ばす能力ではない。あくまでも穏乃を中心として超火力の爆炎が噴き出しているに過ぎない。圧倒的な破壊力によって全てをなぎ倒して貫通するから球体の爆発域のように見えているだけだ。
そして『身体強化』で強化された身体は『爆発』すら通さない。だから小百合の身体の影なら射程内でも爆発をやり過ごせる。
「……」
姫裏の身体を強い熱風が撫でていく。皮膚が炙られるが軽い火傷程度のものだ。『爆発』の持続時間は短く、直撃さえ避ければ被害は最低限で済む。
小百合が振り返って穏乃を見下ろした。穏乃の身体が飛び散った、肉のシャワーを浴びて顔が鮮血に染まっている。
「流石ですね、姫裏さん。あなたはそうやっていつでも上手く戦えてしまうのでしょう。正直に言えば羨ましい限りです」
「光栄です。ここが爆発と思考の死角ですよ」
「そう、そこだけが死角なんですよ。一番の切り札が見えない場所!」
小百合が素早くしゃがむ。
死角から現れた人影が飛び込んでくる。姫裏の首に長い腕が巻き付いた。
「これで射程ね。もう絶対外さない」
「……なぜ生きているのですか? あなたが爆発して飛び散った死体をはっきりこの目で見ました」
「確かに一度死んだけどね」
穏乃が耳元で囁いた。狼狽する姫裏の首元を指先が揶揄うように撫でる。
「死んだ人間が蘇って動き出すチート能力なんて、一つしかないでしょ?」
「『蘇生』だよ、お姉ちゃん」
ベンチにもたれかかった花梨が答えを告げた。
「……それこそあり得ないでしょう。『蘇生』はわたくししか蘇生できないはずでは?」
「私もそう思ってた。女神様にチート能力をお願いするとき、『お姉ちゃんを蘇生する能力』が欲しいって言ったから。でも、これって私のお姉ちゃんとは言ってないんだ。ただお姉ちゃんとしか言ってない」
「それが何か重要ですか? 同じ意味でしょう?」
「全然違うんだよ。文字通りに読めば、本当は『蘇生』の対象はお姉ちゃん一般なんだ」
「……なるほど」
「血の繋がった弟や妹がいる女の人なら誰でも蘇生できる能力。それが私のチート能力『蘇生』。穏乃さんも実の妹が二人いる立派なお姉ちゃんだから蘇生対象になる……」
振り向いた花梨の目には涙が浮かんでいた。
「私、初めてちゃんと気付いたんだ。この世界にいるのは私とお姉ちゃんだけじゃないってこと。世界にはたくさんの人がいて、いくらでも新しい仲間を作っていける。お姉ちゃんじゃなくて穏乃さんを蘇生するのだって、私が望めばできること」
「わたくしも……あなたを侮っていたのかもしれませんね。よく考えてみれば、わたくしでも本当の蘇生対象に思い至ることはできたはずです。花梨がわたくしを『姫裏』と呼ぶことなんてまずなくて、他の人と話すときも必ず『お姉ちゃん』と呼ぶでしょう。そのことを誰よりもよく知っているはずでした。あなたを認めたようなことを言っておきながら、結局お姉ちゃん子のままだと思っていたのかもしれません」
「嬉しそうね、あんた」
穏乃が姫裏の頬を引っ張った。姫裏の顔には笑顔が浮かんでいる。
「わたくしを失った花梨が本当に一人で生きていけるかどうか、異世界でもずっと心配していたのかもしれません。でもわたくしを殺せるならもう大丈夫でしょう。きっと異世界でも現実でも花梨は幸せに生きていけます。それより嬉しいことはありませんよ」
「ええ、妹のことが好きじゃない姉なんてこの世にいないのよね。でももう退場する時間。さあ一緒に死にましょう、可愛い妹たちのために」
『爆発』が発動した。今度は最至近距離で爆風が直撃し、一瞬の閃光の後には二人は赤い霧に変わっていた。身体全てが飛散し、もうどっちがどっちの身体だったかもわからない。
「さよなら、お姉ちゃん」
花梨は涙を拭った。『蘇生』は今からでも姫裏や穏乃を蘇生できてしまうが、それはしないと決めている。
花梨はもう姫裏がいなくても大丈夫だし、穏乃は涼のあとを追って死ぬ選択をした。それぞれにそれぞれの人生があり、それはどこかで終わることを受け入れなければならない。
花梨は努めて笑顔を作り、理李と小百合を振り返る。
「さ、やることやって帰ろっか」
穴を掘って二人の肉片を地中に埋める。爆発を受けた身体は原型を留めていない酷い有様で、小百合が資材で地面を掘ったり木を削ったりして粉飾を試みる。やや不自然な見た目ではあるが、風化するまで誰も通らないことを祈ろう。
埋葬を終えた三人は駐車場に向かった。姫裏は黒い軽自動車で移動しており、双子を守るために檻を立てると穏乃から聞いていたからだ。確かに駐車場には真新しい黒い軽自動車が一台止まっているが、そこに双子の姿は無い。
「なにこれ……どういう状態?」
車を覆う檻は粘土のようにぐにゃりと曲がって崩れている。車のドアも開いていた。
遠方から獣の大きな吠え声が響く。一体ではない。無数の、それも異種の獣が同時に咆哮する声だ。鳥や狼や猪、本来は群れを成さないはずの動物たちが合わせて叫ぶ尋常ではない絶叫。
「これって『動物使役』? いったいどこから?」
「西の方です!」
小百合が先導し、西広場に着いた三人は絶句した。
西広場は地獄の異界と化していた。見渡す限りに膨大な血肉が転がっている。先ほど埋葬した二人の遺骸など誤差になるほどの死体の山だ。
あちらこちらで人の背丈ほどにまで肉塊が積み重なり、広がる血の池に眼球や牙が浮かんでいる。地面の石畳が激しく損傷し、下にある地面も大きく抉れていた。壮絶な戦いの末、百体を優に超える獣たちが虐殺された後なのだ。
そして広場の中央には霙と切華がいた。二人とも全身が血で赤く染まり、今にも倒れそうなほど荒い息を吐いて相手を睨んでいる。
しかしもう決着は付いている。まだ動く気力を残しているのは片方だけだ。チート能力が発動し、致命傷を負った身体に最期のとどめを刺した。
バーベルのように鉄骨を背負っての突撃。意表を突かれている間にすぐに距離が詰まってくる。眼前には左右に伸びる鉄の柱。避けることは容易だが、明らかに攻撃目的ではない。狙いは前方の逃げ道を塞ぐこと?
そう思い至ったとき、小百合が叫んだ。
「今です!」
それでようやく理解する。これは追い込み漁だ。背後で高い木の上から誰かが飛び降りる気配、視界の端でその姿を捉える。
「穏乃さんですね」
鉄骨を振って姫裏を林の近くに退避させたのは、穏乃が隠れている木の根元まで姫裏を押し込むためだ。
鉄骨は開けた広場の方が当てやすいが、逆に『爆発』は林の中でこそ当てやすい。あらゆるオブジェクトを破壊する『爆発』は木々などいくらでも貫通する。
そして小百合には『爆発』が直撃してもダメージがない。だから追い込んだあとの離脱を考える必要がないのだ。てっきり小百合と穏乃は恨み合っているかと思っていたが、組んでしまえばこれほど強力なタッグもいない。
姫裏の眼前は鉄骨で塞がれている。もう『爆発』の射程外に逃げるのは間に合わない。
「もう逃げられません!」
「まだ避けられますけどね」
姫裏は『建築』を発動しながら大地を蹴った。足元の地面を膨らませて急加速し、スライディングで鉄骨の下を潜り抜ける。そして同時に小百合の足元には凹みを作り、後ろにバランスを崩させた。
その瞬間、『爆発』が発動した。『無敵』無しでの発動、本来の強制心中能力が起爆する。
まずは穏乃自身が爆発し、生命と共に閃光が炸裂する。穏乃の全身が粉々に破壊され、赤い肉片を伴った衝撃波と熱が広がっていく。森の木々と地面が一瞬で炭化する。
爆心地から姫裏までは五メートル。しかし射程内で唯一の安全圏がこの位置だ。
「背中をお借りします」
昨日の山中で『爆発』の発動を見たときに姫裏は気付いていた。爆発直後、小百合の背後にある木肌だけは燃えずに残っていたことに。
見た目に反し、穏乃の『爆発』は周囲を概念レベルで消し飛ばす能力ではない。あくまでも穏乃を中心として超火力の爆炎が噴き出しているに過ぎない。圧倒的な破壊力によって全てをなぎ倒して貫通するから球体の爆発域のように見えているだけだ。
そして『身体強化』で強化された身体は『爆発』すら通さない。だから小百合の身体の影なら射程内でも爆発をやり過ごせる。
「……」
姫裏の身体を強い熱風が撫でていく。皮膚が炙られるが軽い火傷程度のものだ。『爆発』の持続時間は短く、直撃さえ避ければ被害は最低限で済む。
小百合が振り返って穏乃を見下ろした。穏乃の身体が飛び散った、肉のシャワーを浴びて顔が鮮血に染まっている。
「流石ですね、姫裏さん。あなたはそうやっていつでも上手く戦えてしまうのでしょう。正直に言えば羨ましい限りです」
「光栄です。ここが爆発と思考の死角ですよ」
「そう、そこだけが死角なんですよ。一番の切り札が見えない場所!」
小百合が素早くしゃがむ。
死角から現れた人影が飛び込んでくる。姫裏の首に長い腕が巻き付いた。
「これで射程ね。もう絶対外さない」
「……なぜ生きているのですか? あなたが爆発して飛び散った死体をはっきりこの目で見ました」
「確かに一度死んだけどね」
穏乃が耳元で囁いた。狼狽する姫裏の首元を指先が揶揄うように撫でる。
「死んだ人間が蘇って動き出すチート能力なんて、一つしかないでしょ?」
「『蘇生』だよ、お姉ちゃん」
ベンチにもたれかかった花梨が答えを告げた。
「……それこそあり得ないでしょう。『蘇生』はわたくししか蘇生できないはずでは?」
「私もそう思ってた。女神様にチート能力をお願いするとき、『お姉ちゃんを蘇生する能力』が欲しいって言ったから。でも、これって私のお姉ちゃんとは言ってないんだ。ただお姉ちゃんとしか言ってない」
「それが何か重要ですか? 同じ意味でしょう?」
「全然違うんだよ。文字通りに読めば、本当は『蘇生』の対象はお姉ちゃん一般なんだ」
「……なるほど」
「血の繋がった弟や妹がいる女の人なら誰でも蘇生できる能力。それが私のチート能力『蘇生』。穏乃さんも実の妹が二人いる立派なお姉ちゃんだから蘇生対象になる……」
振り向いた花梨の目には涙が浮かんでいた。
「私、初めてちゃんと気付いたんだ。この世界にいるのは私とお姉ちゃんだけじゃないってこと。世界にはたくさんの人がいて、いくらでも新しい仲間を作っていける。お姉ちゃんじゃなくて穏乃さんを蘇生するのだって、私が望めばできること」
「わたくしも……あなたを侮っていたのかもしれませんね。よく考えてみれば、わたくしでも本当の蘇生対象に思い至ることはできたはずです。花梨がわたくしを『姫裏』と呼ぶことなんてまずなくて、他の人と話すときも必ず『お姉ちゃん』と呼ぶでしょう。そのことを誰よりもよく知っているはずでした。あなたを認めたようなことを言っておきながら、結局お姉ちゃん子のままだと思っていたのかもしれません」
「嬉しそうね、あんた」
穏乃が姫裏の頬を引っ張った。姫裏の顔には笑顔が浮かんでいる。
「わたくしを失った花梨が本当に一人で生きていけるかどうか、異世界でもずっと心配していたのかもしれません。でもわたくしを殺せるならもう大丈夫でしょう。きっと異世界でも現実でも花梨は幸せに生きていけます。それより嬉しいことはありませんよ」
「ええ、妹のことが好きじゃない姉なんてこの世にいないのよね。でももう退場する時間。さあ一緒に死にましょう、可愛い妹たちのために」
『爆発』が発動した。今度は最至近距離で爆風が直撃し、一瞬の閃光の後には二人は赤い霧に変わっていた。身体全てが飛散し、もうどっちがどっちの身体だったかもわからない。
「さよなら、お姉ちゃん」
花梨は涙を拭った。『蘇生』は今からでも姫裏や穏乃を蘇生できてしまうが、それはしないと決めている。
花梨はもう姫裏がいなくても大丈夫だし、穏乃は涼のあとを追って死ぬ選択をした。それぞれにそれぞれの人生があり、それはどこかで終わることを受け入れなければならない。
花梨は努めて笑顔を作り、理李と小百合を振り返る。
「さ、やることやって帰ろっか」
穴を掘って二人の肉片を地中に埋める。爆発を受けた身体は原型を留めていない酷い有様で、小百合が資材で地面を掘ったり木を削ったりして粉飾を試みる。やや不自然な見た目ではあるが、風化するまで誰も通らないことを祈ろう。
埋葬を終えた三人は駐車場に向かった。姫裏は黒い軽自動車で移動しており、双子を守るために檻を立てると穏乃から聞いていたからだ。確かに駐車場には真新しい黒い軽自動車が一台止まっているが、そこに双子の姿は無い。
「なにこれ……どういう状態?」
車を覆う檻は粘土のようにぐにゃりと曲がって崩れている。車のドアも開いていた。
遠方から獣の大きな吠え声が響く。一体ではない。無数の、それも異種の獣が同時に咆哮する声だ。鳥や狼や猪、本来は群れを成さないはずの動物たちが合わせて叫ぶ尋常ではない絶叫。
「これって『動物使役』? いったいどこから?」
「西の方です!」
小百合が先導し、西広場に着いた三人は絶句した。
西広場は地獄の異界と化していた。見渡す限りに膨大な血肉が転がっている。先ほど埋葬した二人の遺骸など誤差になるほどの死体の山だ。
あちらこちらで人の背丈ほどにまで肉塊が積み重なり、広がる血の池に眼球や牙が浮かんでいる。地面の石畳が激しく損傷し、下にある地面も大きく抉れていた。壮絶な戦いの末、百体を優に超える獣たちが虐殺された後なのだ。
そして広場の中央には霙と切華がいた。二人とも全身が血で赤く染まり、今にも倒れそうなほど荒い息を吐いて相手を睨んでいる。
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