謡う魔剣と少女の物語

たまぞう

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第2章 奴隷の兄妹

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 辺りは夕闇に沈み、時折鴉の声が耳を刺激する。物悲しく、そして不吉な声。ここは農園のはずれ、いつの間にか農奴たちの墓場となってしまった荒れ地、そこここには墓標すらない小さな山が並んでいた。
「う、うう、父ちゃん……」
 遺体に土をかぶせながら妹がすすり泣きを漏らす。兄は無言で土を掛け続けた。少年の顔には濃い翳りと隈があった。
 黙々と遺体を埋め終わったころ、ようやく兄が口を開いた。
「もう泣くなよ、メア」
「だって、父ちゃんが……」
「父ちゃんは解放されたんだよ」と兄は呟くように言った。「もう働かなくてもいいんだ……」
 妹は泣き腫らした目を兄に向けた。
「……」
 何を言い返せばよいかわからず、妹は言葉を失った。細かく唇が震えている。
「帰ろう。いつまでもここにいたら、また鞭で打たれる」
 妹は小さく頷いたが、歩き出そうとはしない。仕方がない、兄は妹の手を引いて彼らの寝泊まりする小屋へと歩き始めた。
「……父ちゃんはどうして、あんな目にあったの?」と妹が小声で尋ねた。
「だめだ、人に聞かれたら……」と言いかけて、兄は小さな吐息を漏らした。「裏山にこっそり入って、鉱石を探していたんだよ。旦那様に命令されて、な」
 彼らの主であるこの農場の管理者は野心的な男だった。
 かつてこの近隣にはミスリル鉱山があり、二百年以上昔の最盛期には大層賑わっていたらしい。しかし鉱石が底をつくと、近隣はすっかり寂れてしまった。
 今ではこの領を預かる貴族はこの寂れた農地を管理人に投げたまま、顧みようとはしなかった。代替わりしたという噂もあったが、視察にさえも来ないのだから放置しているのと同じだ。農場の管理人は当初はそれなりに農地運営をしていたものの、極秘裏に奴隷を買い、安い労働力で収穫を上げるようになっていった。やがて彼はこの地がかつてはミスリル鉱山だったことを知る。
 底をついたと言われているものの、まだ見つかっていない鉱脈が眠っている可能性がある。農場の管理人は極秘裏に奴隷たちを使って、山を漁らせた。
 そしてついに、眠っていた鉱脈らしきものを発見した。しかし本来ならば貴重な鉱脈は領主に報告しなくてはならず、さらに領主も国に対し決まった手順の報告書を上げなくてはならない。報告書が提出されれば、掘り出された鉱石はすべて国の管理となってしまう。領主には採掘量に応じて採掘権利料金が支払われる。発見者に対しては権利者が個別に対応することになるが、それは匙加減と言ったところだ。
 そこで管理人は欲を張った。極秘裏に奴隷に鉱石を掘らせ、闇ルートで売り捌いて私腹を肥やすのだ。
 兄妹の父親もそうして山に連れて行かれ、大怪我をして戸板に乗せられて帰ってきた。奴隷に医者が用意されるはずもなく、彼らの父親は死んでしまった。
「父ちゃん、あんなひどい怪我して…… 痛かっただろうに……」
 妹の言葉に兄は彼女の手を握った。
「今頃は母ちゃんと一緒に俺たちのことを見てるよ。だから…… もう泣くなよ」
「……」
 妹は静かに目元を拭っている。
 神も悪魔も少年は信じてはいなかった。世界には悪人がいるばかりで、誰も助けてはくれない。
 病気だった母親のために父親は高利貸しに借金をしてしまった。薬を買う金が欲しかったのだ。しかしその甲斐なく母親は死んでしまったのだった。
 高利貸しは借金の返済が滞るやいな、彼ら親子三人をまとめて闇奴隷商人に叩き売ってしまったのだった。
 天国なんて信じない。
 だってここは地獄だから。
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